第二百五十六話 城外へ (叶・桜)
初のステータス割り振りの翌日。
「よく眠れたか? カナタとサクラよ」
「はいっ!」
「ふぁぁ……ふぁい」
サクラは元気に、カナタは眠い目をこすりながらそのローキスの問いに答えた。
「そうか…? カナタは眠そうだが…まあ良い。今日から街へ行き、自主鍛錬をしたいのであったな」
「はい、そうです」
「昨日のうちに準備をしておいた。持って行くが良い」
そう言いながら、ローキスは指を鳴らした。
それと同時に使用人達が多くの荷物を持って、この玉座の間へと入ってくる。
「ありがとうございます」
「なに、こちらから討伐の依頼をお前達にしてるのだ。最大限のサポートをするのは当然のことではないか」
ローキスが準備したという物は、主にカナタ達が使い慣れてる槍や防具、マジックバック、解体用ナイフや数日分の食べ物…金、などなど多数。
「何かあったら戻ってきても構わんからな」
「はい」
「では行ってくるが良い。良い結果を、僕は待っているぞ」
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「で、そのローキスさんの用意してくれた宿に着いた訳だけど……。また、ベットが一つだね」
「そうね。別にい…いまさら気に…する必要も無いんじゃない?」
「…いや、俺は眠れなくなるから困るな…。やっぱり、もう一つベットがあるか、別部屋に……」
「そんな我儘、言っちゃダメでしょ叶」
「…え? あ、うん。そう…? だね?」
とりあえず、二人はそのそこそこ豪華な部屋で、ローキスから渡された物を整理した。
思ったより数が多く、時間がかかってしまい、整理し終わる頃にはお昼時となっていた。
「お昼だね」
「ローキスさんから数日分の食料はもらってるから……何か作ろうか? 叶」
「目は見えてるの?」
「あぅぅ…。どうしよ」
「いいよ、俺が作るから。日本食がいいよね?」
「うん」
カナタは立ち上がり、台所の奥へと消えていった。
桜は独り言を呟き始める。
「(…私の料理、叶に食べさせることはできなかったけど、このやり取りなんか…夫婦みたいでいいな。夫婦…夫婦か…えへへ。いいなぁ…叶のお嫁さん。なりたいなぁ…でも、私なんかじゃ全然…)」
そのまま、しばらくブツブツと呟いているといつの間にかカナタは桜のもとに料理を運んできた。
お盆の上には日本食…主に焼き魚や浅漬けなどが載っている。米はない。
「桜、なにをブツブツ言ってるの?」
「えっ…!? あ、独り言よ、ただの独り言!」
「…ふーん。ま、いいや。食べよ」
「うん。いただきます」
今後の予定などを話し合いながら、二人は昼食を食べた。
食べ終え、後片付けが終わるとカナタはこう言った。
「よし桜。俺のスキルの効果を体感させてあげよう。凄いんだぞ! いくらか練習したし」
「練習…? あれ、個人的に練習する暇なんてあった?」
「ま、まあ、ちょっと夜の間にね」
「ふーん…で、どんなのなの?」
「そうだな、とりあえず桜は俺を探知してて」
「うん」
カナタはそのまま玄関まで移動し、桜は探知でカナタを探った。
「今、俺は玄関にいるんだけど_____」
そう言うや否や、サクラの探知からカナタが一瞬だけ消え、桜の背後に現れた。
そしてカナタは、なにが起こってるか処理しきれていないサクラの肩を優しく叩いた。
「ふえっ!? あ…あれ…叶っ…どうして? 玄関に居たんじゃないの? いつの間に私の後ろに…高速移動?」
「違う、瞬間移動だよ」
「瞬間移動…!」
「うん、そうだよ」
突然カナタの声が若干、遠く聞こえる。
サクラが気がついた時には、床はベットになっていた。
カナタに瞬間移動でベットまで移動させられたのだ。
「えっ!? あれ…?」
「今は桜をベットの上に移したんだぞ」
「す…凄い! これ、物でも同じことできるの?」
「ああ。手を開いてて」
サクラは言われた通りに手を開き待機した。
すぐに手の上に何か金属を乗せられた感覚。
しかし、探知では、カナタさっきから一歩も動いていなかった。
「あれ…? えっと、これはスプーンだよね?」
「そう。食器棚から桜の手の中に直接移したんだ」
「へぇ…す、凄いね! へぇ…。これって遠くも行けるの?」
「うん。遠くであれば遠くであるほどMPを使っちゃうけど、行けるよ。ここから大体お城までが1キロで…10かな。100メートル以内だと、1しか消費しないみたい」
「わぁ…本当に凄い、ファンタジーみたい!」
「まあ、この世界そのものがファンタジーみたいなものだし。……ちなみに俺が昨日残しておいたSKPは全部、MPに割り振ったんだ」
そのあと、二人はしばらく瞬間移動で遊んだり、サクラのスキルを試したりした。…おおよそ、1時間ほどそうしていた。




