第二十六話 目覚め
「ん………うっ……ん?」
あれ、ここはどこだ? どこかの家の……中?
「あ…起きたっ! 無事だったんですねっ。あぁ…よかった……」
「え? ……は、はい?」
誰だろう、この人? 人、人だよな。目がぼやけててよく見えないけど。
「よかったぁ……。 皆、女の子が目を覚ましましたっ!」
女の子……!?
いや、女の子は貴女でしょう?
俺は男だ。ちゃんと確認もしている。
まさか、「性別変換」が発動して……?
それはないな。まずSKPをアレに振ってないよ。
と、いうことは俺は最初っから見た目が女の子っぽいのか……!?
今まで、自分の姿を確認できなかったけど…。もしかしたらそうなのかも……。
「大丈夫ですか?」
悩んでいた俺に、女の人が心配そうに話しかけてくる。
「あ、えっと……。ハイ。でも、今何がなんだか……」
「そう……」
ちゃんと言葉は通じてるみたい。チート能力授けられなかったことをお地蔵さんは謝ってたけど、言葉が通じることでも十分ありがたい。
そういえば、着ている物も別の物になってる。ただ、スカートなんだよなぁ…。
「あの…この服は…」
「服はこの村の人々が下さったのですよ! ごめんなさい、勝手に着替えさせちゃって……流石に下着は変えてないですから、そこに用意はして頂いてるので、良かったら着替えて下さいね?」
そう言って、彼女はこの部屋に1つある机を指した。
…確かに女物の下着とサラシのようなものがある。これは完全に女の子だと思われてますな。
「あっ…あの…」
「どうかしました? お着替えにならないのでしょうか…。私も女ですからね、恥ずかしがることはないですよ?」
ほう、目の前で着替えろと……いや…マジで?
かと言って、おそらく着替えないとメチャクチャ心配するタイプだぞ、この人。
しっかしそれにしても人前で着替えろととかなにを言い出すんだよ…。
すこしズレてるなぁ…。
やっぱり、ここで着替えなきゃだめ?
えぇ…俺、男だぜ?
女の人の前で着替えるとか………。何か良い考えはないか?
いっそ、俺自身が女の子になっちゃえば……。
しょうがない、女の子になっちゃおう。せっかくの『性別変換』のスキルがあるんだ。
頭がパニックになってるのか、それ以上の方法が思いつかない。
それに200SKPも今はそれ程重くもない。
てなわけで、俺はこの間に以上のことを手早く済ませた。
男から女になるのはまさに一瞬で、なんだかあっけない。
こう、光に包まれて変身みたいなことは起こらないのか。
ま、それはさて置き。
「……それもそうですね、ではお言葉に甘えて」
俺は女物の下着を履き、胸にサラシを巻いた。
ブラジャーってないの?
というか……案外胸、あるんだな、12歳って…よく考えたら中学校1年生くらいだもんな……見た目じゃ大体Bカップになるかならないかぐらいだった。……と思う。
よくわかんないけれどね。
それに、男の俺が女の人の前で着替るってのにも抵抗はなくなっていた。
逆に今、男性の前で着替えろとか言われても断固拒否するわ。
……説明にあった通りなんだな。
「よかった、ぴったりだったみたいですね」
「え、えぇ」
再度、服とスカートを着る。
すると女の人はこの部屋のドアに向かって何かを呼びかける。
すると、部屋の扉が開く。そこから若者3人と老人1人が入ってきた。
「おい、嬢ちゃん、大丈夫かい?」
体格の言い男の人がそういう。次に、桃色の髪の女性が口を開く。
「君、血塗れで森の中で倒れてたのよ?」
「へっ……あっ! …………。そ、そうなんですか…」
あぁ、そういえば血を拭くの忘れてた。それを血塗れと勘違いしたんだね。
傷は寝る前に、ヒールを何重にもかけたから塞がったハズなんだけど…。
「えっと…、ここまで運んできてくれたのですか?」
「おうよ!」
「……ありがとうございます」
ヤベェ、迷惑かけちゃったみたい。すまねぇこった。
金髪の男性が口を開く。周りの雰囲気からして、リーダーとかそんな感じの人だ。
「そんなに謙遜することないよ? 困った時はお互い様だからね。……でも、君はなんであんなところに倒れてたんだい?」
ここは、覚えてないことにしよう。記憶喪失ってことで。
「それが……何も思い出せなくて……」
「そっか、じゃあ前に住んでた場所は? 近くだったら送るよ?」
「……何も、憶えてないんです。自分の名前もわかりません……」
「………っ!? そうか。名前なら、頭の中で"ステータスをみたい"って考えてごらん。」
ステータスか。記憶喪失になってもこれって残るもんなのかな?
本当の記憶喪失じゃないからわかんないや。
とりあえず、見るふりをして名前を教えよう。
あ、一人称どうしよう。 俺? 私? どちらもなんかしっくりこない。
ボクっ娘って萌えね? そうだ、ボクにしよう。
なんでボクなのかは、聞かれたら適当にはぐらかそう。
って……なんか、この状況に自然に慣れてきている自分が怖い。
「アリム……。ボク、アリムっていいます!」
「そうか、アリムちゃん。いい名じゃないか。ところで、なんで"ボク"?」
「いいじゃない、可愛いから」
「そうですよ!」
なんか、納得されたみたいだ。可愛いからOKってことでおさまったみたい。俺、どんだけ可愛いんだよ。
自分の顔見たことねぇからわかんない。
部屋に一緒に入ってきていた、老人が口を開く。
「ふぉっふぉっふぉっ、わしも自己紹介するかのぅ、ワシはこの村、ピピー村の村長のジーゼフじゃ」
「じゃ、僕達も。僕達は"セインフォース"って言う冒険者パーティさ。この村には仕事で来ている。僕はパーティのリーダー、ルイン。よろしくね」
「俺はオルゴってんだ」
「私はリロ。アリムちゃん、よろしく!」
「私はミュリといいます」
「ルインさん、オルゴさん、リロさん、ミュリさん、ジーゼフさん、よろしくです。そして、助けていただいて…ありがとうございました!」
成る程、金髪がルインさん、桃色髪がリロさん、茶髪の筋肉がオルゴさん、水色髪の人がミュリさんね。それと、この「ピピーの村」の村長のジーゼフさん。覚えたよ。
ジーゼフさんがポツリと呟く。
「そうじゃ、王都の役場に行ったら、この娘のこと、何かわかるやもしれませんのぅ」
「そうですね。私達が王都に帰るのと一緒に、役場に聞きに王都へ連れて行きましょう。いいよね?アリムちゃん?」
「ハイ」
「村長さん、次の馬車が来るのは何時ですか?」
「だいたい、3日後ですじゃ。それまで、この娘はここでココ、ワシの家で預かりますのじゃ。皆様方は昨日と同じ宿屋にそのまま滞在していただければ」
「助かります」
「ふぉっふぉっふぉっ、まぁ、この村の黒兵犬共らを倒してくださいましたしのぅ。その個人的なお礼も兼ねて。それまでゆっくりとこの村を楽しんで行ってくだされ、ふぉっふぉっふぉっ!」
「「「「「はい」」」」」
おお、なんか勝手に王都に行くことにきまったぞ。
「あ、あのぅ……」
「どしたの? アリムちゃん?」
「なにからなにまで、本当にありがとうございます。」
「はっはっはっ! いいってことよっ!」
「困った時は、お互い様、ですからね!」
こうして俺はこの世界の住民に初めて出会い、さらにお世話もかけてしまったのだった。




