第二百三十七話 儲け (翔)
ギルドに戻った俺は、冒険者登録用の受付ではなく、冒険者依頼用の受付まで行った。前の受付嬢にそう言われたからね。
その受付でも、美人なエルフ(仮)の女の人が受付嬢をしていた。
「すいません、依頼を完了したのですが…」
「はい、それではギルドカードを見せて下さいね」
俺はギルドカードをその人に差し出すと、ちょっと待つように言われ、奥に持って行かれた。
すぐに受付に戻ってきたが。
「はい、ではスライム駆除討伐のご依頼ですね? Fランクの魔核3個以上、納品して頂けますか?」
スライムは死体が残らないから、魔核で判断するらしい。俺はFランクの魔核…普通のスライムから出てきたやつを5つ渡した。
「はい、5つですね! スライム1匹討伐につき20ベル、魔核1個につき20ベルなので計200ベルとなりますが」
「お願いします」
「こちらが200ベルとなりますね、お確かめ下さい」
俺は彼女から200ベル、つまり2000円を受け取った。
この仕事のおかけでだいたいのコツはつかめた気がする。
さて、次は魔核…おそらくDランクの魔核であろう物をもって俺が最初に受付した、冒険者用受付で冒険者ランクの上昇をはかろう。
しかし、魔核を何個提示すればEランクに上がれるだとかは言われなかったな…。
とりあえず、2個だけDランクの魔核を提出してみればいいかな。
「すいません」
「あれ、貴方はさっきの…? 依頼に行かれたのでは?」
「それはもう終わったんです。その、ランクを上げたくてですね」
「では、魔核を手に入れたのですか?」
「ええ、クエスト中に」
俺はマジックバッグからDランクの魔核二つを取り出し、受付嬢に渡した。
「これなんですが…」
「えっ…! 近くにDランクの魔物が二匹も居たんですか!?」
「あ、いえ、なんか1匹の魔物を倒したら、そこから5個くらい一気にそれが出てきまして…」
「えっ…! 亜種の魔物が居たんですか!?」
どっちにしろ驚くような出来事だったのか…。俺って、運が良いのか? いや、強敵と会うってのを考えたら運が悪いのか…?
「ええ、そうなんですよ」
「それは珍しいですね…。でも、それと遭遇しても、貴方が、その魔物を倒せる方でよかったです。ショーさんみたいに冒険者の中には前々からある程度実戦を積んでいて、ランクをいくつもいきなり飛び級する方が稀に居るのですが、そう言う人でなく、本当に初心者の方だとしたら……ゾッとしますね」
「そ、そうですね…」
だとしたらこれで良かったんだな。うん。運も生活していくには必要なんだぜ。
「ところで。自力で入手したDランクの魔核を提出なされましたので、以降、ショー様はDランクの冒険者となります。冒険者カードをお渡し下さい。ランクアップが終わりましたら、魔核は返却致しますので」
俺は言われた通りに冒険者カードを受付嬢に渡した。
それを受付嬢は受け取り、カウンターの奥へと行く。すぐに戻ってきたその手には、俺が渡したDランクの魔核2と、色が変わった冒険者カードが握られている。
「では、どうぞ」
「ありがとうございました」
受付嬢に礼を言い、俺はギルドを出ようと歩を進めだが、途中で何故か男の人達4人ぐらいに囲まれてしまった。
なんだこれ、なんで囲まれたんだ。金でもせびられるのか?
「おい、兄ちゃん。チラリと聞こえてたぜ? 亜種の魔物を倒したんだってな?」
「ええ、そうですが?」
「キシェシェ、つまりはそれを売りに行けば大金が入るって寸法なのでしぇー」
この人達はきっと、俺より上のランクだからそう言ってきてるのだろう。やはり、今日はリルが居なくて正解だったなー。あの子に余計なストレスかけたくねーし。
「で、なんすか?」
正直、4人相手を投げ飛ばせる気がしない。それもこの世界だ。強さがわからない。いざとなったら大人しくあの亜種とやらを渡さなきゃなんねーが…。
「つまりよぉ…俺達とよぉ…賭けリバーシしねぇか? 俺達が勝ったらお前の狩ったその魔物をこちらに渡す。お前が勝ったら…そう、俺ら4人全員に勝ったら1万ベルやるよ」
はっ!? 賭けリバーシだと?
なんでんなもんこんな異世界でやんなきゃなんねーんだよ。どうなってやがる。
だが…1万ベルは欲しいな…どーせ、こんだけの屈強な男に囲まれりゃー、なんもできねーし…。
受けてやっかな。
中学ん時、柔道部とボードゲーム同好会のどちらにも入ってた俺が、相手をしてやるってのも悪かねーな。
ましてやここは日本じゃない。賭けても注意されることはねーだろ。
「わかりました」
「おうおう! 男ならそうこなくっちゃな…!」
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「………ほら、約束の大金貨だ」
「強すぎなのでしぇー……」
俺は一番身長が高い男の人から大金貨1枚、1万ベルを受け取った。つまり10万円だな。
それにしてもこの人達弱すぎるだろ。有夢でもここまで弱くはなかったぞ。しぇー が口癖の人だけまともになんとかプレイできてたな。
「っかしーな、いつもだったらお前が勝ってたよな?」
「本当でしぇー……。一見、田舎者のくせに、最近流行りのリバーシをここまで上手くできるなんて、すごいでしぇー……」
つーことはなんだ、リバーシは最近、この世界に生まれたのか? そう言うこともあるんだな。
っと4戦もしたから30分くらいもう経ってるんじゃねーか? そろそろ、リルと俺の昼飯を買わねーと。
無論、亜種のスライムを、このギルドの隣にあるという、冒険者に必要なものが揃っているっつー店で売らなきゃな。
魔核は……スキルの為に使うか。
「あの、俺はこれで」
「あ、ああ。気をつけてな」
「また、リバーシで遊ぶんだしぇー!」
俺はギルドを出た。そして隣の店に入る。
中は見た目の数倍は広く、多くのものが売られていた。
俺はその店の中から買取コーナーを見つけ出し、その魔物専門の受付へと足を運んだ。
「すいません、売りたいのですが」
「あいよ、なんの魔物だい?」
「あー、いや、大きいスライムというか…」
「大きいスライム…? ああ、ラージスライムか。こっちきな」
そう言ってそのおじさんは、その受付の奥へと入っていった。俺もそれに続く。
入った先はさらに広い部屋があった。
「じゃ、そいつをここに出しな」
「はい」
俺は白いラージスライムをマジックバッグから取り出し、綺麗な白い台の上に置いた。
「おほおっ!? 亜種かよ! まじかー…レアもんだな。どこで見つけた?」
「いや、この近くで」
「あー、確かに稀見つかるな。だいたい1年に1回…いや、2年に1回だったか」
そう言いながらおじさんは、いろんな道具を使いながらラージスライム亜種を見ていった。
そしてしばらくして、腕を組みながら頷く。
「おし、こりゃ、7万ベルだな」
「に…7万ベルですか!?」
「ああ、本来ならDランクの魔物は5000ベルから1万ベルよりいくらか上ぐらいなんだがな……。亜種は珍しさとか、普通のDランクの魔物より強いとか、いろいろあってな。で、7万ベルでいいか?」
「え、ええ! ぜひ」
つまり俺は今日で…運が良かったとはいえ、80万円稼いだのか。確かにすごいわこりゃ。
俺はおじさんから7万ベルを受け取り、ホクホク顏でリルの元へ帰った。




