第二百二十三話 鍛錬予定
二人は着替えてから玉座の間へと来た。
カナタは昨夜のこともあり、サクラの露出が高い服を目に入れないようにしている。
玉座にはすでにローキスが座っている。
「もう朝食はとったな? カナタ、サクラ」
「はい」
二人はローキスの前にくるとともに質問された内容に答える。
「ようし。では今日から特訓をしてもらう。メニューはこちらで決めさせてもらった。良いな?」
「………その内容によりますね」
カナタはローキスにそう言った。
ローキスは何故だか嬉しそうにニヤリと笑う。
「ほう、面白い。なら内容次第によってはその鍛錬を断るというのか」
「はい、そうなります」
「ち…ちょっと、叶っ!?」
「面白い。ではまず、こちらの案を提示しよう」
そう言ってローキスは指をパチリと鳴らす。
すると、数人の奴隷(叶と桜は奴隷だとわかってない)が大きな羊皮紙に何かが書かれたものを持ってきた。
「これが、お前達の1日の鍛錬方法だ」
[ ・~7:00 起床
・7:00~8:00 朝食など
・8:00~12:00 武器の扱いなどの鍛錬
・12:00~13:00 昼食など
・13:00~15:00 外実習鍛錬(魔物狩り等)
・15:00~15:30 休憩
・15:30~19:00 魔法鍛錬
・19:00~20:30 夕食、風呂など
・20:30~22:00 勉学・知識
・22:00~ 就寝 ]
「お前達にはそれぞれ、特別な講師がついている。まずは武器の鍛錬の講師だ。入れ」
ローキスがそう言うと、豪華な鎧に身をまとい、ヒョウ柄の毛皮をかぶった男と女性が入ってきた。
「紹介しよう。まず、我が軍の男のみの騎士団『ベルセルク』の騎士団長、クルーゼルだ」
「クルーゼルだ。…お前達、賢者に剣術と体術を指南しよう」
屈強なそのクルーゼルという男は胸に手を当て国王に敬礼したのち、二人にそう言った。
「そして次に、我が軍の女性兵団『ヴァルキリア』の若兵長、キリアンだ」
「よろしく。貴方達に槍術と弓術を指南してあげるわ」
キリアンはそう言いながら、甲冑を外し、髪をなびかせる。顔はすごく美人だ。
しかし、カナタは興味がないようだ。
「そして次に、貴様らに勉学を指南する者だ。入れ」
クルーゼルとキリアンが出てきた同じ場所から、1人の20代後半ほどだと見て取れる女性が入ってきた。
「我が国の預言者、デイスだ。この女のお陰で、僕はお前達がどこに落ちてくるかなどがわかった。お前達が知らない知識だけを預言で予測しながら教授してくれるだろう」
デイスという女性は、二人に微笑みかける。
「ホー! よろしくな、御二方! ワシの名はデイス。お主らにこの世の知識を教授しよう」
デイスの喋り方を聞いた二人は、顔がポカンとなる。
それを見たローキスはデイスをフォローした。
「……少し喋り方がジジ臭いが、それは勘弁してやってくれ。これでも彼女は優秀な預言者なのだ」
「は、はぁ…」
「そして次にこの二人だ。お前達の為に特別に呼んだ」
ローキスがそういうと、二人の老人が入ってきた。
一人は筋肉が隆起しており、見るからに強者だとわかる。さらに巨大な槌…ハンマーを持っている。
もう一人は杖……の代わりに角笛を持っており、筋肉が隆起している方に比べると弱々しく見える普通の老人だ。
「右から…トールだ。お前達の外実習鍛錬の付き添いをしてくれる、我が国のSSSランカーだ」
「ガハハハハハハハハハ!」
紹介されると共に大声で笑いだすトール。
「よろしくな、賢者共! 俺は雷帝トール。この国の二人のSSSランカーの一人だ! ガハハ! お前達の子守をしてやるよ!」
カナタ達はSSSランカーとは何かが分からなかったが、そんなことは御構い無しに話は進んでいく。
「そしてもう一人はヘイムダルだ。お前達の魔法鍛錬に付き合ってくれる。この国のもう一人のSSSランカーだ」
ヘイムダルはカナタとサクラに頭を下げつつ、自己紹介をし始めた。
「ワシはヘイムダル。君達の魔法の鍛錬を補助しよう。と、いっても魔法鍛錬はほとんどが魔法とはなんたるかを学ぶモノなのじゃがな」
カナタは前にずらりと並んでいる面子を一人一人じっくりと見た。
「どうだ? これだけの人材が揃っているのだ。文句などあるまい?」
しかし、カナタの返答はローキスが望んでいたものではなかった。
「いいえ、良くないですね」
「なんと!?」
玉座の間にローキスの驚きの声が響いた。
他の者も総じて驚いている。
無論、サクラも驚いていたが、カナタならなにか策があると踏んでいた。
「何か考えがあるの? 叶」
「うん」
「本当に面白い! では、その考えを教えてもらおう」
カナタは立ち上がり、ローキスの目を見ながら答える。
「まず…俺たちには全く知識がありません。この世界の事に」
「あ、ああ…確かにそうだな」
「ですから、この武の鍛錬や魔法の鍛錬の時間が、勉学の時間より短いのはいただけません」
「成る程な。で、何か良い時間配分があるか?」
カナタは頷き、答える。
「まず…今日一日全て、勉学の時間とさせて下さい」
「……なるほどな。良いだろう」
勉強があまり好きでないはずのカナタがそう言いだした事にサクラは驚いたが、良く考えたら当然の事かと納得した。
「次に、明日の日程ですが」
「ほう」
「まず、武の鍛錬の時間を半分にしてください」
「うむ」
カナタの言うことを、執事はメモしている。
「次に、魔法鍛錬の時間を1時間に、休みを除いた残りは全て勉学でお願いします」
「ほう、面白いな。して、明後日以降はどうする?」
「それは、勉学である程度の知識を得てから決めます」
「了解した。では…済まぬが、今日はデイス以外は退いてくれ」
「申し訳ございません、皆さん」
ローキスとカナタがそう言うと、デイス以外は皆、しぶしぶだったり、何故か満足げな顔をしていたりして玉座の間から出て行った。
「ではデイス、頼めるな」
「ホー! お任せあれ。ささ、お主達、この世界のことを教えるからのお。ついてきなさい」
二人はローキスに一礼してから、デイスについていった。




