第百九十八話 元、竜の少女-1
俺らはとりあえず、俺とミカの部屋に戻ってくるために廊下を歩いていた。
「この屋敷は…随分と広いのだな?」
「まぁね、住んでいるのはボクとミカだけだけど」
「ほぉ、たった2人か」
俺とミカの部屋に着き、中に入る。
「お邪魔しよう……ん、あれは薔薇か? 凄い量だな」
ローズは俺がミカに渡した101本のバラに目を向けた。
「あっ…それはね、ローズ。私の誕生日にアリムがくれたのっ…えへへ」
「赤いバラは愛情を意味し、人間はバラを愛する者に贈るときく。しかし、この本数は友や家族に贈る量などではないな……となると……だが、汝らは同性のはず……」
ローズは俺たちの関係に疑問を持ち、そして困惑してるみたい。この様子を見ると、いかにカルアちゃんが柔軟だったかがわかる。
「愛に性別は関係ない事って、あるんだよ? ホラ」
ミカは俺のほっぺにキスをした。
あれ? ミカってば、普段人前でキスなんてしてこないんだけど、なんだかおかしいなぁ…一体、どうしたんだろうか?
「そうなのか……。やはり、外に出ないと分からぬことがたくさんあるな」
「でしょでしょっ!」
そう、ミカはローズに言った後、俺の腕にしがみついた。 俺は小声でミカになんでこんなにもベタついてくるのかきいてみる。
「(ミカ…なんかヤケにベタつくね)」
「(いや?)」
「(嫌じゃないよ、驚いただけ)」
「(そりゃそうよ、有夢は私の物。仮にあれが元ドラゴンだったとしても、万が一の可能性も潰さないと。カルアちゃんは大丈夫だと既に確認済みだけど……)」
ん? 『そりゃそうよ』以降がよく聞き取れなかった。
なんて言ったんだ? なんだかミカの目が本気なの…怖いけど。
「(後半聞こえなかった)」
「(ううん、気にしないで。アリムが好きってだけ)」
「(えへへ、そう? ありがとう)」
ふと気づくと、ローズがこちらをジッと見つめていた。
「本当に仲が良いな。良い事だ」
「まぁね」
「ところで…どうする? まずはどうしようか?」
俺はローズに何をしたいか訊いてみる。
「ふむ…せっかく人間になっからには……美味い飯が食いたいな!」
「うん、その前に服着ようね」
「おっと…たしかに、布一枚ではマズイな。汝らが女でよかった」
俺はこの間に即座にダークマターで無限のマジックバッグに服を大量に詰め込んだ物を作り出した。
「ハイ、これ」
「ん? なんだ、マジックバッグ…?」
「この中にローズの1年分の服を季節別で詰め込んでるから…秋に合うのを着てね」
「おぉ…かたじけ……いや、ありがとう!」
にっこりと笑って御礼を言ったローズは、バッグのなかから下着と長袖厚手のワンピースを取り出し、およそ服を初めて着るとは思えない手つきで着ていった。
「服着るの、初めてじゃないの?」
「む…なんか勝手に…」
「まぁ、人間化の効果のひとつに、人間の基礎知識を得るってあったからね」
「だからか」
ローズはワンピースをヒラヒラとさせながら、その場でくるりと一回転した。
男の人からみたら、かなり魅力的な事だろう。
いや~、俺は女の子だからよくわかんないけど。
「に、似合うか?」
「すごく似合うよ、ローズ! はい鏡」
「どれどれ…ぉぉ…良いな、良いな! ふふふふ」
服をとても喜んでもらえてなによりだ。
さて、そろそろご飯も食べさせてあげるかな。
「で、ローズ。何が食べたい?」
「おぉ、そうだったな。我の初めて食べる食物だからな…魚…野菜……いや、肉だ。肉だな! 我儘言うようで悪いが、とびっきり美味い肉が食いたい!」
「いいよいいよ、とびっきり美味しいお肉ね。とびっきり……ん?」
俺が持ってる中で1番美味しいお肉……。
ちょっと待って、これ以上はいけない気がするよ、道徳的に。
「ねぇ、ミカ…ボク達が知ってる中で1番美味しい肉ってさ………」
「あー……」
「ん? なにか問題があるのか? 美味い肉に」
「うん.、ちょっと…いや、かなり……」
「なんだ、どんな問題があるというのだ…量が少ないとかか?」
「量は沢山あるんだけど…ね…」
「ええい、もったいぶらずに言わぬか!」
そう…彼女自身がそう言うのなら仕方ないかな。正直に、貴女の肉ですって言ってしまおう。このフレーズ、なんて猟奇的なんだ…こわっ。しかし、言う。
「君の肉だよ」
「ぇ?」
「ちょっと…アリムっ…」
「えっ…ええ…ふぇぇぇっ!?」
ローズは素早く後ずさりをした。
あまりに足を縺れさせて後ずさりしたため、尻もちをついてしまった。
「アリム、言い方が悪い」
「そだね」
「い…嫌だ…我のどこを食べる気だ! 足か? 腹か? 胸か? 頼む、痛いのは嫌だよぉ………我を食べないで…」
すっかり口調がおかしくなってしまったローズ。
なんか少し、プルプル震えている気がする。
「ごめんごめん、今のローズじゃなくて、ゴールドローズクィーンドラゴンだよ」
「ドラ…ゴン? ドラゴンの我か?」
「ゴメンね、ローズ。アリムの説明不足で怖がらせて」
俺とミカはローズに優しげに近寄った。
「いや…いいんだ。なんだ、そっか…ドラゴンの肉か…今の我では無いのだな?」
いや、それもかなり問題があると思うんだけど…ま、いっか。
「そうそう、ドラゴンの肉さ」
「うむ、ドラゴンの肉は最高に美味いと、母なる迷宮からも聞いておる。なら、それにしてくれ」
「でも良いの? それって自分を食べるって事じゃ…」
ミカはローズにそう訊いてみた。
しかし、ローズはキョトンとしている。
「我が母なる迷宮からは、自分の足を食べる海の魔物も居ると聞いたが?」
「あぁ、蛸ね…なるほどね」
「なら、問題はなかろう!」
「まぁ…ローズがいいなら…ゴールドローズクィーンドラゴンの肉のステーキを作るけど……」
「ああ! 頼んだぞ!」
いいのかなぁ…本当にこれで。
 




