第百八十七話 帰宅翌日
昨夜、俺は完全に暴走してしまった。
なんだよ、お風呂でああ言ったから良いだろって……。
お母さん、お父さん、おじさん、おばさん、ごめんなさい。俺は美花と未成年にもかかわらず、異性的な行為をしてしまいました。
こういうこと、結婚してからしようって考えてたのに。
正直、今朝、ミカに起こされるまで、頭の中ではその…エッチな事しすぎて、嫌われたんじゃないかって思ってた。
ミカの様子を見る限り、どうやらそんな心配はいらなかったみたいだけど。
まぁ、一線を越えはしなかったし…。
それに関しては、俺の深層の理性、グッジョブ。
実はその最後の砦のそれも……なんどか吹き飛びそうになったけどね。
まだ俺らは12歳だ。
中身が16歳…だったとしても、俺にしてみたらまだ16歳だ。
だから…重大な責任問題が発生するような行動はいけないと思うんですよ、ええ。
ヘタレ…? チキン…?
そんなことないよ? 断じて。違うってば。
それに俺はミカを大切にしたい。
だから、これで良いのだ。
話が変わり、支度ができた俺とミカは、いつも通り一瞬でメフィラド城へ着いた。門番が顔パスで俺とミカを通してくれる。
今日は国王様が勝利の宣言をする日。
俺とミカもその隣で立ってなきゃいけない。
俺らも大変だけど、国王様も大変だ。
妃様が復活したばっかりで、色々と積もる話ややりたいことがあるだろうにね。
「おはようございます! アリムちゃん、ミカちゃん!」
「あぁ! おはようございます、勇者様とお仲間様」
城に入るなり、カルアちゃんの元気な挨拶。
すごく嬉しそうで、楽しそうで、幸せそうだ。
カルナさん…いや、妃様も居る。
「おはようございます! カルアちゃん、妃様」
「お、おはようございま…す」
ミカはカルアちゃん向けにタメ口で挨拶すべきか、妃様向けに敬語で挨拶するか迷った結果、俺に合わせて後者にしたみたい。
「勇者様とお仲間様……すごく仲が良いのですね?」
「確かに…昨日より仲が良くなったような気がしますねぇ?」
妃様は何気なく言ったのだろうが、カルアちゃんはニヤニヤしてた。
しょうがないよね、キスしてるとこ見られたもんね。
もしかして、俺とミカが今、手を繋いでるのが悪いのかな?
「でもお母様、私もアリムちゃんとミカちゃんと仲が良いのですよ?」
カルアちゃんはその金色の髪をなびかせながらこちらにやってきて、俺の空いてる方の手を握った。
両手に花……だが、俺自身も花だ。
周りの城内スタッフが微笑ましい顔で見てくる。
「カルアから話は聞いてますわ。勇者様、お仲間様。よろしければ私も……名前でお呼びしてもよろしいでしょうか?」
それは勿論だ。
正直、俺は勇者だと言われるより、名前で呼んでもらった方が良い。
「ええ、是非っ!」
「勿論です!」
「ふふ、有難うございます。あ、あと私のことも…妃…ではなく、名前で呼んでいただけると嬉しいです」
成る程ね、今後、妃様はカルナ様と呼べば良いんだね。了解。
カルナ様も俺たちの方に来る。
この人は何回も言うけれど…本当に三人も子供を産んだ母親なのか? ルインさん達と同い年くらいにしか見えない。
スキルって相変わらずやばい。昨日もそれを実感したし。
「昨日…カルアは私に沢山…沢山、私が居ない間に何があったかを話してくれました」
「昨夜、昨夜ですね! お母様と一緒に寝たんです」
そっか、確かカルナ様はカルアちゃんが産まれてからすぐに死んだんだっけ。
カルアちゃんとカルナ様が一緒に寝るのは初めてだというわけだ。
まぁ、一緒に寝てるところを見たとしても、姉妹が寝てるようにしか見えないだろうけど。
「そのカルアの話の中に、アリム様、ミカ様が沢山出てきました。娘と遊んでくれてありがとうございます」
「いえいえ、友達ですから!」
カルナ様の御礼に対し、ミカは友達だと答えた。俺もそう言おうと思ってたのに…。
「ぁ、勇者……様……!」
唐突に上から声がした。
見上げると、腕に何やらアイテムを巻きつけたヘレルさんがエルさんと二人で居た。
二人は上から急いで降りてきた。
「ぉ…おはようございます、勇者様」
「…おはようございます」
ヘレルさんの腕に、朝っぱらからエルさんがしがみついてる。人のこと言えない。
どうせこの人たちは昨夜、俺たちがしたこと以上のことをしたに違いない。きっとそうだ。
「おはようございます、ヘレルさん」
「そ、そんなヘレルさんだなんて…俺は」
会ったことないはずなのに、なんかこの喋り方に違和感を感じる。この口調に慣れてないみたいだ。
「あら、先代勇者様にエル姫様、おはようございます」
「おっ…おはようございます! 妃様」
「おはようございます、妃様」
やっぱり、エルさんとカルナ様…。
雰囲気似てるなぁ…。顔とかは結構違うけど。
同じ金髪だし。
きっと、カルアちゃんもあと2~3年したらあんな風に大人な雰囲気を醸し出すに違いない。
「おぉ! おはようございますぞ、皆様!」
気づけば、大臣さんもこの場に来ていた。
いつになく綺麗な服を着ている。
新調したんだね。
「あら…おはようございます、オラフル様」
「おお、おはようございます、妃様。……まだ慣れませんでしょうが…ご気分は良さそうですね?」
「ええ、おかげさまで」
大臣さん、すごく嬉しそう。
まぁ、わかる。
この場には今、幸せしかない。
正直、俺は人をそう簡単に生き返らせるのに抵抗がない…といえば嘘になる。
でも、生き返らせてよかった。
やっぱり、そう思うんだ。
「アリム殿、ミカ殿、国王様がお呼びでしたぞ。国王様は御自室におります」
「はい、わかりました。じゃあ、またあとでねカルアちゃん」
「はい、またあとで」
カルアちゃんは俺から手を離す。
俺とミカは国王様の部屋へと向かった。




