第百八十五話 戦争後の帰宅m-1
ミカ視点です。
お風呂を出た私達は、自室に戻ってきた。
「良かったねぇ」
「本当、気持ち良かった」
アリムがそう言ってる。
確かに、とっても気持ち良かった。
…ちょっとアリムにイタズラしすぎちゃったり、変なこと口走っちゃったりもしたけれど、それは大丈夫なはず。
でも、今日はやけにアリムが私を見つめたり、チラチラと見たりすることが多い気がするの。
顔になんかついてるかな…?
ふと時計をみると、今の時刻は午後10時半になっていた。
帰ってきた時間が6時半で…夕飯を食べ終わったのが7時。
3時間半もお風呂に入ってたのね…。
よくのぼせなかったなぁ…。
「ああっ! もうこんな時間だ…早く歯磨きしよう」
「うん」
私とアリムは歯磨きをした後、二人でベッドに潜り込んだ。
そうそう最初…私はアリムがこの家を作ってこの部屋を紹介された時、かなり驚いたの。
まさかアリムの方から一つのベッドを一緒に使おうだなんて言ってくるとは思わなかったもん。
ただそれでも……いつも寝でる間にアリムに抱きつくという行動を起こすのは私からか、私が促したからかだったら。
それにアリムはいつもほとんど、家の中ですら有夢に戻らない。
私のことを考えてくれてるんだと思う。
本人もこれが楽しいって言ってたし。
たまに本当に男だったのか怪しい時があるけれど、スキルが効きすぎてるんだって思うことにしてる。
カマっ気が元々あった…とかはあまり考えないように。
でもなぁ…私達、付き合ってるんだから、もうちょっと有夢が自分でなんかしてくれても良いんじゃないかなって思うのよね。
本当、昔から奥手っていうか…それも含めて有夢の良いところなんだけどねっ!
それに、浴場で私がアリムに言った一言。
あれでまさか一瞬だけでも気を失うとは思わなかった。あれはないわ。
あ、でもアリムから自主的にチュウしてくれたことはあったっけ? カルアちゃんに見られたけど。
そんな中途半端に奥手なアリムのために、私は今日もアリムに抱きつくの。
あぁ、ふにっふにで柔らかい。良い匂い。
私から抱きしめると、大抵、アリムは抱きしめ返してくれる。それは良いんだけどさ。
ん……あれ? なんかでも…今日はいつもと違うような? 少し違和感。
そう思っていたら、アリムは私の耳元で囁いた。
「やっぱ……決めた………ごめん、ちょっと有夢に戻るね」
「えっ?」
そう言うなり、アリムは有夢…つまり男に戻った。
な、なんだろう…ちょっとドキドキする。
こんなことって珍しい。有夢は何故だかアリムとしての姿を気に入ってるから。
さっきまでふにっふにのすっべすべだった身体はそうではなくなった。
肩幅とかも…なんか前に有夢をじっくりと見た時よりがっしりしてる気がする。
そう考えている間にも、有夢はベッドの上にあるほのかな明かりがつくランプの電気をつけた。
有夢の顔が私の間近に来てる。ちょっと首を動かせばキスできそう。
それに、身長も前に有夢を見た時より伸びてる。
顔も、よくよく見れば女の子じゃなくて男だってわかるような感じもしてる。
やっぱり成長してるのかな?
有夢はさっきから私を無言で見つめてる。
はっきり言って恥ずかしい。
「あ…有夢っ?」
私は声をかけてみた。
すると、有夢はさらに強く私を抱きしめる。
「ど…どうした……んっ!?」
有夢はキスをしてきた。
有夢からのキス…これで二回目かな?
でもいつもは私からしたとしても、一瞬で終わる。1~2秒ですぐに離すんだ。
だから…長い、今回は本当に。
キスをされてから私はしばらく目を瞑っていたけれど、恐る恐る開いてみた。
有夢の目は私をじっと見つめていた。
私はおもわず、目を逸らしちゃったり、もう一度目を合わせてみたりを繰り返す。
というか…長いよぉ…いつまでこのままなんだろう? あ、明日の朝までかな?
それでも私は構わないけど…さ。有夢なら。
…突然、有夢は腕を動かし手を私の後頭部まで持ってきた。
そして、私の頭は有夢に押され、より押し付けられるような形で深く有夢と唇が合わさる。
な、なんか本当にいつもの有夢じゃないみたい……どうしていきなりこんなことに?
唇と唇がより深く合わさってから数秒後、私の口は有夢の舌によってこじ開けられた。
こ…これってまさか……。
私は有夢に何をするつもりなのか訊こうと思ってメッセージを出そうとしたけれど、やっぱりダメ。よく考えられなくて上手くメッセージが書けない。
そうしている間にも、私の口の中に…有夢の舌が入ってくる。
これっ…これって……ディープキスだ…だ、だよね? またの名もベロチューともいう。
映画の中、漫画の中でしか見たことないこと。
私は今、大好きな人からされてるんだ。特別なこと。嬉しい。まさか有夢からしてくれるなんて。
嬉しいのに、あまりにも突然のことだから、身体が拒否してる。おもわず目も閉じちゃう。
私は嫌じゃない。嫌じゃないのに、とりあえず気持ちに余裕を持とうとして手で有夢を押し返そうとしてる。
ディープキスくらいでっ……こんなになるんじゃ私っ……有夢のこととやかく言えないよ。
でも、有夢の力は強かった。
あんな細い身体から、なんでこんな力が出てるのか不思議なくらいに。
私の目から涙が流れる。
勿論、嫌だからなんかじゃない。
嬉しい……。嬉しい…から…涙が……。
私が涙を流したのを見たからかな……?
スッと有夢の頭と唇が離れていった。
抱きしめられていた身体も解放され、有夢の温もりが感じられない。
「あっ………」
「っ………ごめん。嫌だったね。もうしないから。本当ごめん」
そう言って、有夢はベッドの端まで離れて行き、そこで私の方に背を向けて縮こまった。
「あぅ…ぁ…ち、が」
ちゃんと喋りたいのに、さっきの驚きからか頭が働かない。ちゃんと話せない。
ど…どうしよう?
このままだと……良くて、今後、有夢からこういうのをしてくれなくなる。
悪くて……有夢は私を置いて、このままどこかに出て行っちゃうだろう。そしてしばらく戻ってこないんだ。
長く一緒にいたからわかる。
有夢はする時はそこまでする。本当に。
嫌だ、絶対は嫌だ。
有夢は私の大切なもの。私の一部みたいなもの。
私の大好きな大好きな大好きな人。
少しでも離れたくない。
なんで私、拒否したりなんかしちゃったんだろう。すごく嬉しかったはずなのに。
このままだと、このままだと……。
そう思うと、涙が出てくる。
もし、もしこれを見られたら有夢はさらに勘違いしちゃう。私が嫌がってるんだろうって。
有夢、お願いだからこっち見ないで。
そう思っていたんだけど、有夢はちらりと首を動かしてこっちをみた。
そして、一瞬申し訳なさそうな顔をすると、有夢はベッドから降りた。
「ごめんね、ミカ。 ……しばらく俺……」
そう言ったと思うと、有夢はどこかに行こうと、トボトボと歩を進めた。
ミカとアリムはどうなるのか……Σ(゜д゜lll)
後から読んだ人のためにもう一度。
4/25〜4/26により、第七章後半〜第八章前半の一部を書き換えました事をご連絡致します。