第百七十九話 サーカス
うわぁぁ!?
一話飛ばしてしまいました!
申し訳ございません。
「これでやっと帰れるのですね…長かった。妻に会える、団のみんなに会える、ゲームの続きができる……」
俺は、勝手に話を終わらそうとしているメフィストファレスを見る。
今…俺は俺の中で、この人をどうするか、考えがまとまった。
委ねるんだ、この世界の人に。
やっぱり、俺だけじゃ判断できないから。
「ん!? どうされたのですか? アリムさん」
「いや…本当にこのまま終わらせても良いのかって…考えちゃってさ」
「ど…どうゆうこと、有夢?」
俺がいきなりこんな事言いだして、ミカは困惑している。一方、メフィストファレスはポカンとした顔をしている。
「いやね、だってさ。いくら悪魔になってたからってこの人……沢山の人に迷惑なんてレベルの事じゃないのをしたのは…ミカは知ってるよね?」
「う、うん。確かにそうだけど……」
「そんな人を、この国の、特に国王様の咎め無しに勝手に地球に返しちゃって…良いのかなぁ…って。俺の判断だけで」
俺はメフィストファレスを見つめながら、そう言った。
メフィストファレスは先程まで帰れそうな事にウキウキしていた様子だが、俺が何かを本気で考える事をを察したようだ。
「え…ええ、そうですね。その通りです……」
「それに、俺もメフィストファレスの関与によって一度、ミカを殺されたんだ。直接殺したのはサマイエイルだったとしても」
俺はまた、ミカを強く抱きしめる。
あたたかい。
「ぁぅ…」
「だから…メフィストファレス…いや、本名は…」
「あ…愛長 光です。日本ではサーカス団の団長をやってました」
「……そう、なら光さん。もうしばらく、この世界に居て。そしてこの世界のこの国の法で裁かれるんだ。俺は貴方を許さない。多分、国王様もそうだろう。だから」
俺はミカから離れ、国王様の遺体をその場に一瞬で持ってきた。
「訊こう。貴方の処分をどうするか」
「…………………………………………………はい」
メフィストファレスの希望に輝いていた目は色褪せた。おそらく、すぐに帰れるんだって思ってたんじゃないかな?
とにかく、国王様を生き返らせて……。
あぁ、でも国王様を生き返らせるその前に、順序的にする事があるんだ。
「でも、光さん。裁かれる前にする事が一つ。まずは異世界と異世界を紡ぐアイテムを作っちゃおう。早く貴方からサマイエイルを取り除きたい」
「は…はい」
「ミカは、この人が怪しい行動をしないか、いつでも対応できるように見張ってて」
「うん」
俺はメフィストファレスの拘束を解いた。
俺の言った通りに、ミカは魔法をいつでも出せるようにスタンバイしているみたい。
「ほら、これを飲んで」
俺はメフィストファレスにアムリタを差し出した。
「これは先程の……」
「そう、アムリタポーションっていうの。HPとMPを完全回復して、身体も元に戻る優れもの!MP無いと、強制契約はできないでしょ? ほら、飲んで」
「は、はい、では有難く」
メフィストファレスはアムリタポーションをグイッと一気に飲み干した。
すると、メフィストファレスの背中から再度、羽が生えてくる。
魔力も元に戻ったみたい。
「……MPが戻りましたね」
「なら、ほら、ボクに強制契約でアイテムを作らせてよ」
「はい、貴女は『私のため』に『世界を移動するアイテムを作る』」
メフィストファレスがそう唱えると、俺からダークマターが展開され、その後、俺らの目の前になにか石像のようなものと、そして数多の紙が現れた。
そして、その紙を全て、その地蔵に俺は身体されたは勝手に貼り付けていく。
体が勝手に動いてる。やっぱり、強制契約は怖いな。
しばらくして完成したそれをよく見ると……幻転地蔵様だった……。
思わず、俺はミカの方に顔を向けた。
ミカも俺と同じ気持ちのようで、互いに顔を見合わせる。
「お地蔵様…ですか、なんで?」
メフィストファレスのその声で我に戻った。
彼も疑問に思ったようだ。まさか転送装置が地蔵様だなんて誰も思わないよね。
ああ、あと、それと。
お地蔵様に気を取られちゃって、一瞬忘れてたけれど、メフィストファレスの強制契約って確か、代償が必要だったはず。それはどうしたんだろう。
「ねぇ、光さん。契約内容は何にしたの? 前に、なにか代償が必要だっていってたじゃない」
彼は答えた。
「アナズムを離れられたのなら、悪魔の力を無くす…ですよ。俺にはもう、必要ないですから」
「なるほど」
そう言うなり、メフィストファレスは地蔵の頭に手を置いた。
「これに、悪魔神の力などを流し込めば良いんはずなんです。予言の悪魔が言うには」
そう言って、光さんは地蔵様の頭の上に手を置いた。
その手から、悪魔神としての力が流れていくのがわかる。
一体、あのお地蔵様はどういう仕組みになっているのか?
気になって鑑定してみようとしたけれど、詳しいことはわからなかった。
説明欄には『異世界と異世界を紡ぐ地蔵』ぐらいしか書いてなかったかな、価値は神具級。
この俺が鑑定できないなんて、珍しい。
彼は地蔵様にサマイエイルの魔力を注入し終わったのか頭から手をどけた。
それに、羽もどうやら消えてしまったようである。
一方、幻転地蔵様の方は光り輝き始めた。
「これで……良いですか?」
「うん。じゃあまた、とりあえず拘束されてて。抵抗しても無駄だからね?」
「……………………………………えぇ」
俺は、未だに悪魔姿でいる光さんを再度、先程よりは軽めに拘束しつつ、そのお地蔵を一旦、マジックバッグにしまった。
……………試そう、本当に帰れるかどうか。後で。
「じゃあ、次に国王様を生き返らせて現状報告だ。俺達だけでこの人をどうこうできないからさ」
アムリタを取り出し、ミカが倒れていた場所まで戻り、国王様の遺体を取ってくる。そして光さんを拘束した場所で国王様に振りかけた。
そしてその数分後、国王様は目覚めた。
「ん……お、おぉ?」
「国王様、おはようございます」
「おぉ、アリムか………っ!? 何やら空から黒き靄が降ってきて皆……」
「わかってます。それはボクがどうにかできますから」
「……その様子を見ると、できるのだな。しかし…何があったか話してくれぬか? ワシは状況がわからぬ。ただ、カルアを誘拐した悪魔は捉えられたようだな」
国王様は、メフィストファレスを睨みつける。
この人から、膨大な魔力が感じられる……怒ってるよな、当たり前だ。
俺はゆっくりと、重要なことを事細かに何があったかを国王様に教えた。地球のことは伏せて。
「そうか………つまり、あの悪魔は元人間なのだな?」
「はい」
「それで…処分をどうするか、ワシに訊こうと考えた」
「はい」
「まぁ…個人的には死刑だ。しかし、これは国の幹部らと相談する必要がある。とりあえず、その者をそのまま牢に入れる。まずは……皆を、国民を生き返らせることが先決だ」
「わかりました……では……あ、でもちょっと待ってて下さい!」
俺は、どこかに向かおうとする国王様に声をかけて足を止めさせた。
今、思い浮かんだ事があるんだ。
「なんだ?」
「少し……時間を下さい」
俺はミカの手を握る。
驚いたミカは、こちらを振り返った。
俺の意図が読み取れないんだろう。
「少し……時間を? 何故?」
「色々と、生き返らせるのに効率の良い器具を、ミカと考えますので」
「ふむ…まぁ、わかった。なるべく早くな」
「ありがどうございます」
俺はマジックポーチを出し、そこにミカと二人で入る。
ミカは『なんだ、そんな事か』と言いたげな顔をしてるが、本当は俺がマジックルームに籠るのは器具を考える為ではない。
今、ここでミカと俺は、今、やらなきゃいけない事があるんだよ。
……俺達が日本に…帰れるかどうかをメフィストファレスより先に試すんだ。
明日公開予定だった百八十話もそのままにしときますね(;^_^A




