第百七十八話 帰りたいピエロ
メフィストファレスは泣き続けている。
とりあえず、泣きやませないと、話は続かない。
俺はマジックポーチからアムリタを取り出した。
「………アリム…さん? 貴女、何をするつもりですか?」
「ん? ミカを生き返らせるんだよ?」
因みに今、俺はミカを膝枕している状態だ。
何回見ても、魔力も温もりも感じられない、ミカの姿には心には、深くくるものがある。
はやく生き返らせよう。
「…できませんよ……ハルマゲドンによって死亡したなら…レジェンドポーションでは生き返らせる事ができません!」
そんなメフィストファレスの言葉を無視して、俺はミカの口にアムリタポーションを流し込んだ。
本当だったら一滴で良いんだけどね、ミカだから、特別に。
「ごめんなさい、本当に……俺達のせいで……ですが現実は…正気に…」
正直言うと、俺もアムリタでミカが生き返るかには不安が残ってる。
スキルによる感覚のみ…ってのはやっぱりね。
確証できる証拠がないから。
思えば、一回もアムリタを生き返らせるのに使った事ないし。
でも、アムリタポーションは確かに、効果があった。ミカの身体から魔力を感じたのだ。
俺は思わず涙ぐみ、ミカを抱きしめる。
わかってた、わかってたけど嬉しい。この上なく。
「嘘…でしょう? 本当に生き返るなんて……」
メフィストファレスは驚いてる。
ていうか、この人さっから驚きっぱなし。
それよりも、これで国中全員生き返らせられるんだって事がわかった。
俺の頬を涙が伝う。
その涙がミカの肩に落ちた。
それと同時に…ミカはゆっくりと目を明け始める。
「んにゅ……?」
「ミカっ! ミカ!」
「あ、あれ? 有夢? え、え、え? いまどうなってるの? なんでアリム泣いてるの? えっ、え?」
正直、もっとこうして抱きついて、キスしたい気分だけど、それはまた後だ。
「アリム…? ねぇ、抱きしめてくれるのは…すごく…う、嬉しいけどさ。私、イマイチ状況がわからないから、説明してほしいなぁ…なんて。あの、その…こういう事は色々と終わってから2人でゆっくり……」
「あ、ご、ごめん! そうだね。…今から説明するよ」
俺はミカに、何があったか…、主にサマイエルを封印したこと、サマイエイルを封印して気付いたらみんなが死んでたこと、メフィストファレスがサマイエイルを吸収したけれどそれを無効化し捉えたこと、メフィストファレスが日本人だったことを教えた。
「んと…状況は把握したわ。つまり、戦争には勝ったのね?」
「そういうこと」
「で、今はそのメフィストファレス………さん…かな? あの人…をどうするかって話なの?」
「うん」
俺とミカはメフィストファレスの方に向き直す。
「メフィストファレス、こうやってみんなを生き返らせるから、大丈夫だよ。実質、最終的にはこっちは被害ゼロになるかもね。貴方がした事で、みんなを結果的に殺した事には変わらないけど」
「ぅ…そう…なん…ですね、で、ですが驚きました。先程のポーションはレジェンドポーションより上位なのですか?」
「そうだよ」
俺はアムリタポーションを見せびらかすように、メフィストファレスに見せている。
「良かった…良かった」
「……で、本題だよ、メフィストファレス」
メフィストファレスはゆっくりと首を頷けた。
ちらりと首を見たが、どうやら強く唾を飲み込んだようだ。
「貴方はなんで……シャイターンに入って、サマイエイルの部下になったの? それにサマイエイルも吸収しちゃったし……何がしたかったの?」
きっと、これの答えがこの戦争のすべてのはずだ。ミカは黙って様子を見ている。
メフィストファレスはゆっくりと口を開いた。
「……サマイエイルは魔神…つまり、この世界の神の一柱なのですよ。この世界に来て、2年が経ち、冒険者として過ごしていたある日、とある予言能力を持った悪魔に、『魔神の力を取り込んだ状態で、その魔神の魔力と、300年後に登場する赤毛の少女が戦争中に、お前さんのために創ったアイテムを混ぜれば、世界と世界を紡ぐ物ができる』という話を聞いたのです」
なるほど、それでサマイエイルを吸収し、俺に2回も強制契約を迫ってアイテムを作らせようとしたのか。
「そうなんだ」
「はい、ですから私はその悪魔に頼んで、悪魔に成り、サマイエイルに仕えた。シャイターン首領代理としてね。その悪魔に成ったのがいけなかったのかもしれません。どんどんとサマイエイルを手助けする案ばかりを考えるようにのり、悪に染まっていった……。例えば、勇者を捉えて次の『ブレイブ』の出現を阻止するとか…ね。それ以外のときには大体眠ってましたかね」
なるほど、その予言の悪魔というのが、すごく気になるところだけれど…?
普通だったら悪魔の話、それも予言だなんて嘘臭いの信じないもの。
もしかしたら、洗脳されてたってのもありえるね。
「で、その予言する悪魔ってのはどうしたの?」
「さぁ…わかりません。しかし、彼の魔力は感じませんから、その…ミカさんの出した白い雨により死亡したのではないかと」
やったね、ミカのお手柄だ。
ふと、ミカの顔を見ると別になんとも思ってないようで、真顔でメフィストファレスを見つめていた。
「……そうだ、お二人はこの世界にどうやって呼び出されたのですか? 私は……この世界の神だとかいう者に、暇潰しだと言われて……」
メフィストファレスのその唐突の問いに、俺とミカは顔を見合わせた。
つまりこの人は、死なずにこの世界に来たんだ。
「ボクとミカは…事故で死んじゃって…近場のお地蔵様に、この世界に転生させてもらって……姿は最初からこうで…」
「なんと、通りで姿がこの世界の人族の人間なのですね。つまり、生まれ変わった…輪廻転生だと。そうなんですね。……俺がこのような姿になったのは悪魔に成ったからなんですが」
悪魔になってピエロになるってのもね。
でもまさか、この世界に来た方法が違うとは思わなかった。
「因みに、強制契約はその神からもらったのですよ、煙魔法はダンジョンで見つけたんです。この鎌も」
メフィストファレスは今更だけど、拘束されながらも、話し続けている。
それにしても………300年か、長いな。
俺だったどうだろう、ミカと一緒だったら300年…過ごせるかも? いや、過ごせる。
でも一緒じゃなかったら? …ゾッとする。
その事には同情しよう。
……だけど……。
俺の独断で、この人をどうこうして良いのだろうか?
被害を受けたこの国の人達は納得するんだろうか?
誘拐されて怖い思いをしたカルアちゃんは?
娘を誘拐され、奥さんの死体も盗られた国王様は?
もしかしたら、何かしらの判断をしなければいけないかもしれない………。
日間ランキング…1位ですか…。
本当に…本当にありがとうございます!
ひとえに皆様のおかげでございます。
深く…深く感謝致します。
もうそれは本当、文章なんかじゃ表現できないくらいに。
これからもどうぞ、このLevelmakerと、私をよろしくお願い致し申し上げまする。




