第百六十六話 VS.輝ける堕天の悪魔
____南口
「ふぅん、なかなかやるじゃねぇか」
ギルマーズとルシフエイルは互いに剣で打ち合っている。
その様子はどう見てもギルマーズが優勢。
そんな様子もあってか、ギルマーズのパーティの者たちはギルマーズとルシフエイルのタイマンに一切横槍を入れていない。
また、もう1つの理由として、逆にギルマーズの邪魔になるとわかっているからでもある。
「くそっ……くそっ……」
ルシフエイルはひどく困惑していた。
ベアルが壊したはずのバリアが、すぐに復活したのもあるが、一番の理由は、自分と対峙している男が自分の予想をはるかに超えて強かったためだ。
ルシフエイルは自分の事は最低だと自覚していた。
しかし、己の強さに対しては…大きな自信があったのだ。
実際、大悪魔の4体の中でも1番強いのは彼だった。
「くぅっ……ライト・マーチレス!」
ルシフエイルはギルマーズに向かって光属性の最大魔法を放った。
しかし、放たれた光はギルマーズの剣捌きにより、切り刻まれ、打ち消されてしまう。
「お前…悪魔のくせに光属性の魔法を使うのか」
「……っ…」
「なーんか、悪魔のくせに光属性の攻撃は大して効いてないようだし、そもそも光属性の魔法を撃ち始めるし…本当に悪魔なのか?」
そのギルマーズの疑問は、的確に的を得ている。もっともそのことは、ルシフエイル本人しか知り得ないのだが。
「うるさいっ…俺はっ…やらなければいけないことがあるんだっ…俺の正体なんてどうでもいいだろう? 俺は…お前を倒させてもらう」
「……そうかい」
ルシフエイルは自分の剣にオーラを纏わせ、上段に構えて切りかかった。
光かの如く素早く、威力の高い一撃。
しかしその一撃は難なくギルマーズにいなされる。
いなされたことにより、体制が崩れたその一瞬、ギルマーズの剣はルシフエイルの脇腹を切り裂いた。
「ぐぁあぁっ!?」
痛みに表情を歪ませたルシフエイルだったが、すぐに身体を翻し、持っている剣をギルマーズに向かって突いた。
それでも当たった感触はなくやはりギルマーズはこの突きが来るのをわかっていたかの如く身体を横にずらし、もう片腹を剣の峰で殴る。
「ぐふっ」
それにより一瞬ひるんだルシフエイルの背後から、先程斬りつけた方の脇腹めがけ、いつの間にやら取り出した槌を打ちつけた。
「ぐがぁっあぁぁっあ!?」
ルシフエイルはついに倒れてしまった。
「……何故だっ…何故勝てない? 俺…俺は……」
「まぁ、お前は弱くねぇよ。ただ相手が悪い」
ギルマーズは、片手で脇腹を押さえて倒れこんでいるルシフエイルに剣を突きつけながら語りかける。
「相手が……悪い?」
「そうだ。俺は相手の次に起こす行動を感覚で掴むことができる。…スキル…バトルマスターのおかげだ。まぁ、バトルマスターの効果はそれだけじゃねぇんだが……」
ギルマーズは顎髭が生えている顎を剣を持っていない方の手で掻く。
「つまり、お前じゃ俺に勝つのは無理って訳」
その台詞からルシフエイルはなにかを感じ取ったのか、手から剣をするりと落とし、諦めたかのような表情で静かに涙を流し始めた。
「わかった…もういい、完敗だ。……俺は愛しい者すら救うことができなかったんだ………殺せ」
「愛しい者? お前にとってあの…悪魔神ってのは愛しい者なのか?」
ギルマーズは問いた。
しかし、ルシフエイルは首を振る。
「俺の愛しい者は…悪魔なんかじゃない。れっきとした人間だ」
「ふぅん……人間ねぇ? 悪魔が人間を救う…てか?」
ルシフエイルはなにかを考えるかのようにゆっくりと目を閉じた。
「…………………そうだ。だが…俺は元々悪魔だったわけじゃない」
「元……人間、とか…か?」
「あぁ、その通りだ。俺はメフィラド王国出身のヘレルという者だ。今は……違うが」
その名前を聞いたギルマーズは目を丸くさせて驚いた。
「じっ…じゃあお前……いや、あんたは…先代の勇者…なのか?」
「勇者…俺が勇者……確かにそうかもしれない。だが今は悪魔の幹部だ」
そう言って、勇者だと言われたことをルシフエイル、いや、ヘレルは否定した。
まるで、そう呼ばれたくないかのように。
「で、なんでその元勇者様が悪魔達の幹部をやってるんだ?」
「………それは……俺の愛しい者……婚約者…エルを生き返らせるためだ」
「エル…………?」
ギルマーズはその名前に覚えがある。
……いや、もしかしたらこの世界の一般教養をうけている者ならば必ず一度は耳にする名前なのだ。
「エルって…あんた…前の悪魔神の生贄になった姫様じゃねぇか?」
「そうだ…俺は彼女を救いたかった」
ルシフエイルはひときわ大きな涙の雫を目から落とす。
「なぁ…ヘレルさんよ、一体、あんたになにがあったんだ?」
「………知りたいか? なら教えよう…あれは本当に昔のことだ……お前らにとってはな」




