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第百五十二話 当日-4

 俺は王様の近くまで来た。



「おぉ、アリムよ。調子はどうだ?」

「はい、上々ですかね」

「そうか、それは何よりだ」


 

 国王様は玉座から立ち上がり、俺のそばまで寄ってきた。

 


「ところでアリムよ、ティールから既に聞いたとは思うが……」

「ええ、聞きましたよ。『ブレイブ』という称号を持ってないと、本当は勇者になれないって事でしょう?」



 まぁ、俺にとってはそんな事、些細な問題に過ぎないんだけれどね。



「そうだ、ワシはそれを黙ってお前を勇者に仕立てた。この事は詫びを言おう」

「ええ、でもしょうがないですよ、この短期間で勇者を探すわけにはいかないですもんね?」

「本当にすまない」



 国王様は俺に深々と頭を下げた。

 周りには大臣さんや騎士団長さん、大司教さんもいるけれど、止めようとはしていない。

 


「あ、頭を上げてくださいよ! 国王様」

「ワシは……アリムにその事を話さずに、勇者に仕立て上げてしまったんだ…このくらいの事をして当たり前だろう」

「そ…それは……」



 国王様は頭をゆっくりと上げた。



「アリムよ、言い出したワシがこう言うのもなんだがな、勇者を本当にやるのか?」

「…はい」

「そうか…なら、お前を勇者に選んだ理由を教えておこうと思う」

「それってボクが勇者の剣を作った人物であり、勇者の剣を抜けるからですよね?」

「まぁ、確かにそれが直接的な一番の理由なのだがな」



 ん? 

 直接的な一番…だって? じゃあそれ以外にも理由があるというのだろうか。

 外部に。



「アリム、実はな。ここ300年間、『ブレイブ』の称号を持つ者は一人も現れておらんのだ」



 それって…どういう事だろうか。

 王様は話を続ける。



「『ブレイブ』はその称号を保持している者が死んだら、他の者に移る。そういう称号だ。しかし国の最重要機密の文献によれば、ここ300年間ずっと、新しい『ブレイブ』の所有者は現れていないのだ。現れたらすぐに我が国はその者を把握するからな。この事は国王であるワシか、歴史学者達しか知らぬ」



 ……そうだったのか。

 じゃあ、本来なら3日の間に見つけるなんて無茶なことしなくても、勇者の準備はされていたんだ。

 問題はなんで『ブレイブ』の所有者が現れなかったのか…だね。



「どうして、ブレイブを持っている人が現れないのでしょうか?」

「さぁな、ワシにもわからぬのだ。それに、本来ならば勇者の剣も、お前が作らなくても良かったハズだしな」

「えっ!?」



 まさか、勇者の剣も…?

 勇者の剣も、何かの要因でブレイブと同じように出現しなくなったとかなのかな?



「どういう事ですか?」

「本来ならば勇者の剣とは、悪魔神の封印に勇者の剣が使われればその当時の勇者の死と同時に、再度、何処からともなく出現する物だったのだ」

「えっ…それって?」



 国王様はゆっくりと頷く。



「これらの事から考えて………前の勇者は生きておる」

「そう、なりますよね」



 でも、でも300年前だぞ?

 なんで人間がそんな長い間生きる事が出来るんだろうか?

 だって…前の勇者はエルフ等のそういう特別な類の人間じゃない、普通の人間のハズなんだ。

 伝記にもそう書かれている。



「それってありえるのでしょうか?」

「わからん……が、ただ一つ言える事は今の悪魔達は300年前より、考え方が違うという事だ。例えば……前の悪魔との戦いでは、誰かを誘拐するなんて事はなく、今回が初めてのようだ」



 「それに……」と、国王様は続ける。



「アリムはメフィストファレスなる者と闘った…そうであったな?」

「はい」

「そのような悪魔、過去にはおらんのだよ。其奴以外の…アスモデンスやアスタロードと言ったか? そいつらは、過去にも勇者が倒した事があるという事が一昨日、歴史学者らによって確認されたがな」



 なんだか、いろんな事の辻褄がここで繋がった気がする。

 300年前から現れなくなった『ブレイブ』と勇者、それと過去には確認されていない新悪魔、メフィストファレス……。

 という事はつまり、メフィストファレスが前の勇者であるのだろうか…?



「王様! それって…メフィストファレスって…」

「あぁ、アリムが考えていることを、ワシも考えておる。ただ、相手が何者出会ったとしても、ワシの愛しい娘を攫い、妻の遺体を生贄に使った事は変わらぬ」

 


 そう言いつつ、彼は拳を固く、悔しそうに握り締めた。


 そんな国王様に大臣さんは近づいてきて、何やら耳打ちをした。



「ぬ? おお、そうか。アリムよ、そろそろ時間だ。この城の中央大テラスまで行きなさい。そこで高らかに勇者の剣を掲げ、剣を鞘から抜くのだ」

「はいっ!」


 

 俺は大きく返事をしたが……。

 待って、俺が訊きたかったこと、訊けてない。



「こ、国王様、一つ聞きたいんですけれど?」

「なんだ?」

「その…この場所には、この国内の村の村長さんや、隣国や友好国のお偉いさん達が居るんですよね?」

「そうだが? それがどうかしたのか? 新しい勇者の発表は昔から、友好国や隣国にも知らせる義務があるからな」



 いや、俺が訊きたいのはそんな事ではない。

 どうやってこの人達が来たかが問題なんだよ。

 だって……。



「この方々、どうやって来たんです? 特に隣国なんて、馬車で行くのに2週間かかるじゃないですか!」

「ああ、その事か」



 彼はなんの不思議もないかのような振る舞いだ。



「それはな、ワシのスキルと大司教のスキルがあれば簡単な話なのだよ。教えてやりたいのはやまやまだがな、スキルを詳しく話している時間はない、また今度でいいか?」

「……はい」

「じゃあこの城の中央大テラスまで行くぞ」



 思ったより王様、すごい人なのかもしれない。

 まぁでも、疑問は晴れたし…勇者として宣言する事に専念しよう。

 ぶりっ子全開でね。


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