第百四十三話 国王との対話
おはよう。
カルアちゃんにミカと俺の間柄の現場を見られた。俺はあの後、再び眠ってしまったみたいだ。
もうそろそろ夕方といった時刻か。
医務室の天窓から紅っぽい光が覗いている。
俺の手を握りながら、ミカはベットに上半身のみを投げ出して眠っている。
寝言で俺の名前を呼んだ。
とりあえず、ミカはベットの上に起こさぬように寝かせて布団をかけておいた。
カルアちゃんから伝えられた通り、国王様のところに行かなくちゃね。
国王様にメッセージで、今から行くことを伝えると、すぐさま『わかった』との返信が来た。
ベットから出て、王様の元に向かった。
身体は完全に良くなっていて、もはや眩暈も頭痛もしなくなっている。
よく眠って休んだおかげだ。
医務室の入り口からしばらくまっすぐ進んで右に二回、左に一回曲がったところに国王様の部屋はある。
何回か前に来た時に教えられたんだ。
国王様の部屋の前には見張りに二人の兵士が突っ立っている。
「アリムちゃ……んん"っ…アリム・ナリウェイだな?」
「王様から聞いている。通れ」(あ、こいつ、アリムちゃんのファンか?)
初対面のはずの俺に向かって左側の兵士アリムちゃんって言いかけた。
こいつはアリムちゃんファンの一人だな。
俺はファンサービスとして満面の笑顔を見せてあげながらお部屋の中に入った。
「もう大丈夫なのか? アリムよ」
入ってすぐさま、王様はそう言った。
返事をした。
「ええ、たっぷり休みましたので」
部屋の内装は思ったよりシンプルで、華美すぎる装飾はない。だがこの部屋にある家具やアイテム一つ一つが"最高級"あるいは"宝級"の物。
その中でも王様の宝級の大きな赤と白を主に、中々手に入らない魔物の羽根でできたベットに立てかけてある杖がある。
あの杖は"伝説級"だった。
王様も、もしかして戦えるタイプの人だろうか?
「そうか、良かった。あまり無茶をしてはいかんからな。まぁ、とにかくアリムよ、そこに腰掛けなさい」
「はい」
俺は国王様に促された通りに猫足のような脚の赤いクッションの椅子に座る。背には象のような生き物の刺繍がされていた。
「娘の危険をいち早く察知し、助け出してくれた。兵を増強するためのアイテムを身を削り製作した。この二つに対し、まずは一つ礼を言おう」
「は、はい! でも、カルアちゃんとボクは友達ですから…助けるのは当然です! それに…後者はボクが勝手にやったこと…ということになってます」
王様はフフッと嬉しそうに笑った。
「やはり、私が見込んだ通りだ」
それはどういうことだろうか?
「と、言いますと?」
「事前に私の元には異例の速さでランクを上がっていく、適性年齢以下の冒険者の少女がいるとは聞いていた。そして驚くことにたった10日でその少女はAランカーとなった。さらには数年に一度しかない食会込みの武闘大会Aランクの部で優勝しおった。この時点で私はアリム・ナリウェイが娘の良き友となることを予感していたのだ」
そうか、だから王様直々に俺に優勝旗の受け渡しをね…。それに変にやすやすと俺を城にあげるなぁ…とも思ってたし。こういうことだったのね。
やはり上に立つ人だし、そう言う対人関係については敏感なのかもしれない。
「そうなんですか…」
「あぁ、実際私のよみ通りだった。カルアは毎日楽しそうにしている。お前とミカの話をする時はいつも嬉しそうだ。現に会ってすぐにサンダーバードから娘をかばい、今日は悪魔から救ってきてくれ、自作した装飾品で守り続けていてくれた。何度でも言おう。本当に……感謝している。ありがとう」
王様はぺこりと頭を下げた。
国王様から頭を下げられるとか、思ってもみなかった。
けれど、このまるで騎士のような精神を持つ国王様のことだ。
感謝すべき相手に頭を下げるのはなんの躊躇もいらないんだろう。それこそ、礼をして当たり前だと思ってるからか。
「そして、今日だ。我が国が悪魔との戦争に勝つために自分の身を滅ぼし道具を作成した。ふははは! もはやアリムに対する恩は数えられぬな」
えへへ、正直そこまで言われると照れる。
別に見返りはいらないんだけどね。
とりあえず、本心を話しておこう。
「…それは誰にも死んでほしくないからですし…それに、奇襲をすればいいのに、ワザワザ挑戦状を送りつけてくるなんてどう考えても裏がありますから、それを払いのけられるためにと」
「そうか、やはりそう考えるよな」
裏がある……そう、不安そうな言葉なのに、国王様はなにやら大きな問題はないかのような顔をしている。
何か王様の方にも秘策でもあるのかな?
「しかし、問題はないぞ」
王様が胸を張りそう言った。
やっぱり、なんかあるんだ。
「なぜ、我が国が他国との歪みもなく、一部裏社会を除き平和であるかわかるか?」
「いえ…戦争をしないと宣言したからとしか…」
「無論、それもある。だがしかし本当に大きな理由が一つあるのだ」
俺は少し首を傾げて聞いてみる。
なんでだかサッパリわかんない。
「それは…何故ですか?」
「単純だ、我が国は強いのだ。過去、戦争において無敗を誇っている。ゆえに戦争をしないと宣言してもどこも攻めてこない」
なるほど、この国は戦争で強かったのか。知らなかったわ。てか無敗ってすごい。
でもねぇ…。
「ですが、王様。悪魔達はそのことを覚悟の上で挑んできていたとしたら…どうするんですか?」
「だから、恩にきると言っているだろう。アリムのおかげで勝率がグンと高くなったわ」
なるほどねー。そう言うことね。
やっぱり、自信満々そうな表情をしてる割には不安なことはあったんだね。
「なら良かったです」
「うむ、だが私はまだアリムに頼みたいことがある…。まだ恩を少しも返していないが、聞いてくれるか?」
そう言うや否や、彼は真剣な眼差しになった。ここから先が本題なのかも…。
俺は…人のためになるならば、ミカが心配して泣かない程度だったらなんでもやろうと考えている。
ばっちこいだ。
「お礼なんていりませんよ、とにかくその頼みとは?」
「うむ………………実はな…………」
国王様は深く深呼吸し、目を鋭くしてこちらを見る。
「アリムよ、"勇者" になってくれぬか?」




