第百四十一話 戦争の準備-4
マジックルームはカルアちゃんの部屋の中にあるから、一旦他の場所に移そう。
カルアちゃんの部屋に人がぞろぞろと来ても困るからね。
俺がマジックルームの外に出ると、二人はカルアちゃんの部屋に居たままだった。
ミカとカルアちゃんは俺の顔を見るなり心配そうな顔をしてきた。
「アリム…すごく…顔色悪いよ?」
「ミカちゃんの言う通りですわ、本当に真っ青…」
ん? そんなことは無いはずなんだけどなぁ?
アムリタをこまめに飲んでるから、健康状態は完璧なはず…。
そう思いつつも、カルアちゃんが差し出してきた手鏡を覗いてみると、元々真っ白だったアリムの顔が、血でも抜かれたように真っ白になっていた。今にも貧血で倒れそうだ。
でも、俺は元気だぞ?
まぁ、連続作業で疲れたんでしょ。
俺は二人を心配させないように元気に振舞いながら、アムリタを飲んだ。
みるみる顔色が戻って行っているような気がする。
「あははは、連続作業でMPを使いすぎちゃったみたい…まぁ、大丈夫大丈夫、この通り元気だから」
「ほ、本当? 無理しないでくださいね」
「アリムは昔から少し、一人で無茶するとこあるから…」
その忠告はとりあえず聞いておいた。
二人が俺を心配してくれるのは嬉しいけれど、今は自分のことより戦争のことの方が重要なんだ。
体調のことを気にするなんてあとだよ、あと。
とりあえず、二人にもう一度「大丈夫」だと言っておき、マジックルームを担いでカルアちゃんの部屋から出た。
そして、そのマジックルームをカルアちゃんの部屋から一番近い空き部屋へと移し、俺は国王様、大臣さん、騎士団長さんの3人をメッセージで呼び出した。
『伝説級の軍事アイテムを大量に作ったから来てくれ』なんて言ったら来てくれるよね?
国王様から返信が来た。彼はお抱えの鑑定も連れてくるらしい。
大臣さんと騎士団長もちゃんと来てくれるようだ。
数分して3人と、鑑定士が俺の指定した部屋まで来た。
俺はその部屋の中にあるマジックルームの中へと案内する。
俺ら5人で俺のマジックルームの中に俺から順に、王様、鑑定士さん、騎士団長さん、大臣さんの順で入る。
「このマジックルームのなかにあります」
彼らはマジックルーム内にある大量の装備・ポーション・大型の置物をみて、口々に感想を述べ始めた。
「うむ、自由に行動したいと言っていたが…」
「この物量…圧巻ですな」
「もしやこれ、全部伝説級なのか…?」
国王様は鑑定士さんに命令し、レジェンドポーションと腕輪と置物を一つずつ調べさせ始めた。
調べている鑑定士さんの顔はこの世の物を見る目ではなかったね。うん。
いちいち、なにかブツブツ言いながら驚いてる。
「鑑定、終わりました。アリム様の御製作になられた物を説明します」
鑑定士さんはポツリポツリと俺の作った物の鑑定結果と効果を3人に説明する。
3人が3人とも顔をしかめて唸っていた。
国王様が、俺にさらに詳しく説明を求めてきた。
「アリムよ、これは一体何個ずつあるのだ?」
「はい、まずあの置物は20個ですね。1つ半径10キロメートルには効果があります。ステータスを上げる腕輪は戦争に参加する方達に一人2個ずつ計算で作り、多めに4万個用意しました。レジェンドポーションは一人1本で2万個あります」
その数を聞いた4人はさらに顔をしかめた。
「アリムよ、私はこんなにもの数の伝説級の物が数万個単位で置いてあるのは人生ではじめて…いや、この国始まってでも初めてだと思うぞ」
「あぁ、こんに伝説級の物があったらそれ以下の物の価値が大暴落するだろうな」
その心配はない。
戦争が終わったら消えるように作ってあると追加説明をした。
「そうか…だが、これ全部合わせて最大で兵士一人を7倍の強さに上げられるのだろう? 十分だと言えよう」
「……鑑定士の私が言うのもなんですが……"伝説"という言葉が不確かなものになった気がします」
えー、なんでみんなそんな反応なのさ。頑張って作ったのに。頑張りすぎたせいか、少し頭がクラクラする。眩暈もすってのに……ん?
おかしい、ちゃんとアムリタを飲んでるのにさっきからこの二つの症状が治まらない。
おかしいなぁー…。
いやいや、自分のことは良いんだよ、とりあえず皆さん何か不服みたいなんだよねぇ。
「あの…お気に召さなかったら申し訳ないです」
「いや、そういうわけではないぞ、アリムよ。だが一体この量のアイテムをどうやって作ったのかが私は気になってな」
「あ、それはですね_____」
俺はMPさえ消費すれば好きなようにものづくりが出来る、ダークマターの説明をした。
「と、いうわけなんです。ですから短時間でこれだけ作れました」
「なるほどな。MPを消費しアイテムをつくれるのはわかった。だが効果を聞く限り伝説級のアイテムはかなりMPを消費するのではないか? この量の物を作るためのMPはどうやってこしらえたんだ?」
正直にアムリタポーションなんて言ってもわからないだろう。10万冊の文献の中で一冊だけちょろっと書いてあった程度のものだし。
ここは、MP回復ポーションにしておこうね。
まぁ、本当にMP回復ポーションで回復してるんだったら俺はすでに死んでるんだけど。
あれ、副作用が酷いんだよ。
自白剤と同じように、精神的に支障がある。
「あ、それはMP回復ポーションを作り出して飲みました」
「通りでな………………もう俺は見てられない」
そう言うや否や、国王様と騎士団長さんが互いに目配せした後、いきなり俺の背中と膝裏を手で支え、お姫様だっこしだしたではないか!
俺の身体は彼の腕の中に収まる。
…というか、今日スカートなんだけど…。
パンツ見えるじゃん、せめてスカート抑えてよ…。
「え? え? 騎士団長さん、ど…どうしたんですか? あの…それとスカートも抑えて頂けると…」
俺はお姫様だっこされてるのが本能的に恥ずかしいのか、頬が若干火照ってる気がする。
俺をこんなに軽々しくて男らし………あ、俺今、12歳の痩せ型の可愛い美少女だったわ。そりゃ軽いわ。
俺がスカートと言ったのに気づいて、彼はすぐに俺を持ちかえた。
若干申し訳なさそうな顔してるのは弄らないでおこう。
「う……うむ、顔が真っ白で今にも倒れそうな顔をしている。知らなかったのか? MP回復ポーションはな摂りすぎると人体に影響を及ぼす。過去にMPが全回復するポーションを100本連続で服用した冒険者が死んでしまったことがあってな……アリムよ、聞く限りでは100以上のMPを伝説級一つに費やすんだよな。そしてお前はSSランカー、MPは1万にも満たないはずだ。これ程の物を作るのに、一体何本ポーションを飲んだんだ?」
あ、俺が何回もレベルMAX超えてるの、この人知らないんだよね。
もし俺が本当にSSランカーに順当なMPの数だったら……全回復できるMP回復ポーションを、おおよそ680本飲んでることになるわ。
「えっと……680本ですかね?」
「はぁ…その中和剤とやらがあったとしても、よく死ななかったな。その齢ならば本来ならば2本でも限界なはずだ。休め、死ぬぞ」
「いえ、でも数時間前に休んだばっかりですし…それに、中和剤とかで死なないように……」
「それでもだ。本当に死にたいのか? このまま医務室に連れてくぞ」
いや、俺は大丈夫なんだけどなー。
飲んだの、アムリタだし。
俺はお姫様だっこされたまま、医務室へと向かわされた。ちょっと、このまま移動とか恥ずかしいって…。
そう考えつつも、俺の意識は限界だったのか、目の前が暗くなっていきそのうち、意識をなくした。




