第百三十七話 勇者の剣
大臣と騎士団長さん、部屋に戻っていミカとカルアちゃんを見送った国王様は、今度はこちらを振り向き頼みごとをしてきた。
「そしてアリムよ、一つ頼み事がある」
「なんでしょうか?」
王様直々のお願いか。
俺のスキルであるアイテムマスターをこの人は知ってるからな、そのことについての頼みごとだろう。
俺の両肩を掴み、国王様は話を続ける。
「勇者の剣を作ってくれ。おそらく、お前にしかできない」
「勇者の剣はどのくらいの価値ですか?」
「伝説だ」
あぁ、そうか。
過去の文献からして、悪魔神サマイエイルを再度封印するには、勇者の剣が必要だからね。
勇者の剣…俺ならば、何の問題無く作れるだろうね。ならば全くもんだいないね。
ただ、効果とかデザインとか詳しく知りたいから、なにやら参考になりそうな書物が欲しい。
「わかりました。文献さえ見せてくれれば全く同じ物を作りましょう。必要ならば勇者の剣よりも性能の高い剣を作りますが?」
「ほう、文献を見せれば作れるのだな? しかも勇者の剣より性能の良い物を。わかった頼もう」
俺は召使さんの一人がとってきた文献を一瞬で読む。
正直、勇者の剣って俺の気痛剣より大した事ないね。読んでてそう思った。
やっぱり勇者の剣程度じゃあ物足りないよ、勇者の剣を、いっそ悪魔神を滅せるように改良しよう。
それには、数秒時間がいる。
「王様、少しお時間ください」
「どのくらいかかる?」
「オリハルコンも使いますから…だいたい30秒もかからないくらいでしょうか」
国王様は驚いたように目をパチクリさせている。
よくよく考えたら、俺が言っていることは大層なことなんだよな。
「…その程度で本当に作れるのか? まぁ良い。よろしく…頼んだぞ」
「では、失礼します」
俺はその場にマジックルームを出して、中に入り、勇者の剣……いや、その改良版である剣を作り出す。
名前は…そうだな、封印の大勇者の剣にでもしておこうか。
ふふふ、エンチャントしまってやったぜ。
ついでにダークマターで普通の勇者の剣10本作っておく。何かに使うかもしれないからね。、
まるで勇者の剣のバーゲンセールだ。完全に勇者の剣の作り方は覚えてしまった。
「王様、できました。書物の通りの勇者の剣では、なにやら物足りなく感じたので改良しております」
「本当に数秒でできたな。それも改良してか。こうも簡単に伝説の剣以上の物を作られると…なにやら虚しくなるが………」
虚しくなる……それは俺も同感だ。
この現状、女子中学生が歴史的な文献に残るようなものを忠実に30秒で再現した挙句、さらには改良までされているのと同じだと言っても過言ではないからもの。
ん? これって自画自賛?
「ところで、その他の剣は何だ?」
国王様は、俺が担いでいる10本の勇者の剣を指差してそう言いった。
「全部、勇者の剣です」
「…………なるほどな。しかし、勇者の剣は勇者にしか抜けん。それに勇者は一人しか指名するつもりはないし、そもそも勇者はまだ決めておらんぞ?」
あー、忘れてたわ。
じゃあ、この勇者の剣はぜんぶ、その勇者になるべき人に渡さないとね。
10本も要らないと思うけど。
てか、俺は何で10本も作ったんだか。
「……まぁ良い。カルアの救出と剣についての礼は今度しよう」
「え…」
えー、お礼なんていらないんだけどなー。
もう、ミカと二人で一生遊んで暮らしていけるだけのお金はあるし、土地や地位も必要ないからね。
俺に考慮するだけの財があるんだったらその分は全部、悪魔との戦争に回してほしい。
「いえ、ボクは礼は要りませんよ。お金も十分あるし………地位や名誉も、これと言って必要ないですし」
「むぅ……しかし、この国の王として、そういうわけにもいかん…。それに、カルアへの危険をいち早く察知し、悪魔から助けてくれたことは……正直、一生礼をしてもし足りないぐらいなのだぞ?」
そうは言われてもねぇ…。
俺が望むのって、ミカと一緒に居る、平和な暮らしだし。
悪魔との戦争をさっさと終わらせて、ミカとデートしたい。
つまり、俺の今の願いは戦争を早く終わらせること。
…………はっ! そうだ!
「む? アリムよ、なにやら思いついたような顔をしたな。欲しい礼でも決まったのか?」
「はい!」
俺は満面の笑みでニコッと笑う。
「そうか、なら望みを言え」
「ボクは悪魔との戦争なんて嫌なんですよ、さっさと終わらせたいんです」
国王様はその長い顎髭をいじりつつ、俺の話を聞いている。
「ほう、それで?」
「戦争をさっさと終わらせるためにボクはボクの思うように行動するので、それの黙認と協力をして欲しいんです。それがボクの望みですね」
「そうか……」
国王様は何か深く考えるように手に顎を当てる。
髭を弄るのはもう止めたみたいだ。
「わかった。なにやら礼になっておらん気がするが、お前がそう望むなら、そうするしかない。唯……無茶して、身体を壊すような真似だけはするなよ」
「はい、それは考慮して行動します。さっさ悪魔との戦争なんか終わらせてましょう!」
俺はそう言いながら、発達途中の胸を張る。
そのよう様子をみて、国王様はかすかに笑った。
「ふむ、だが今日は休め。今は夜中だからな…寝るが良い。なんなら、何時ものようにカルアの部屋で寝るのもいいぞ? ミカと一緒にな」
「あ、はい、そうさせていただきます」
国王様の言葉通りにカルアちゃんのお部屋へと向かう。
そこにはすでに、ベットに横になって眠っているカルアちゃんと、椅子に座ってトズマホを弄っているミカがいた。
部屋に入ってきた俺に気づき、ミカは俺の方に寄ってくる。
「ミカ、カルアちゃんは寝ちゃったんだね」
「うん、どうやらものすごく疲れちゃったみたいでね。この部屋に入るなり、フラフラと倒れるようにベットに潜ったわ」
「そうなんだ」
よかった。
眠れないよりはマシだもんね。
俺はそう安心した。
「ところで、ミカはなんで起きてるの?」
「アリムを待ってたの」
「……なんで?」
「ほ……ほら、妻って、夫が帰ってくるまで先に寝ないのが、一部の男の人の理想だって聞いたことがあるから……」
自分で言って、自分で赤くなっているミカは可愛い。
妻が先に寝てるとか、俺は全くそんなことは気にしないんだけれどね。
ただ、気遣いは嬉しいな。
「ふふ…ミカはきっといい奥さんになれるね」
「有夢以外と結婚するつもりなんてないもん」
「ボクもだよ、ミカ」
俺はそぉーっとミカを抱きしめた。
なんで抱いたかって?
なんか、今なら抱けそうな気がしたから…。
ミカは俺に抱きしめられつつ、袖をぐいぐいと引っ張ってくる。
なにかあるのだろうか。
もう苦しいからやめて欲しいとか?
「どうしたの? ミカ」
「ねぇ、アリム。アリムは私のこと…好き?」
いきなりなにを訊き出すんだこの娘は。
そんなの決まってるじゃないか。
「嫌いなら、抱きしめたりしないよ」
「うん…うん! アリムぅ…大好きっ!」
どどど、どうしたと言うんだろ。
妙にいつにも増してデレてくる。
俺が有夢のままだったら、鼻血を垂らしていたに違いない。
てか、大好きって破壊力ヤバイ。
でも、そろそろ寝ないと。
「ボクも大好きだよ、ミカ」
「えへへへっ……」
「でも、そろそろ寝ようか。明日から忙しいからね」
「うん、一緒に寝ようね」
俺はマジックルームを取り出し、その中に入る。
マジックルーム内にマイホームにある大型ベットと同じベットを作る。
そこに俺たちは横になった。
ミカはまるでコアラのように、俺の腕にしがみついている。




