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子供と大人の境の聖夜 (叶&桜)

「お待たせ、まった?」



 クリスマス……一番盛り上がるその前日。

 曲木家宅の前で待っていた叶の前に、気合を入れてオメカシしたのであろう桜が、この日一日の全てに期待を込めているかのように、目を輝かせながら姿を現した。



「ううん、全く」

「そっ。……で、どうかな。お姉ちゃんがね、いつもと変えていけーって言って……今日はその、こんな感じになったんだけど、ね?」



 桜の髪型は日頃、二つ結びで決めていた。

 しかし、今日は髪を下ろし編み込みストレートで決めている。服装も白くふんわりとさせており、総じて社長令嬢にふさわしい気品と美しさを放っていた。


 叶はそんな桜の頭頂部に手を触れ、崩れない程度に髪を撫でる。



「うん、ドキっとしたよ」

「へ、へー! ほー。ふぅーん! そうなんだ……よかった。ふ、普段とどっちがいい?」

「それは難しい質問だな。我がフィアンセは何をしても可愛い。それは、世界の法則により約束されていることだから」

「もー……。えへへ、ありがと。でもね、叶も随分気合い入れてるように見えるよ! うん、とってもかっこいい」

「それはもちろん、今日一日ずっと美しい花の隣に立つのだから、当然なのだ」



 子供らしさを感じない大人びた服装。それに反して叶自身は年頃の少年らしい屈託のない笑顔を浮かべている。

 それを見た桜は嬉しそうに微笑みながら、自らの定位置、つまり叶の片腕に寄り添うようにベッタリと抱きついた。



「でも、どんな格好をしても、姿勢はやっぱりこれが一番落ち着くな」

「うん。さ、冷えるしそろそろ行こうか。二人だけのスウィートなクリスマスデートに……!」

「まだイブだけどね!」



 そうして、普段通りの惚気を見せながら、普段通りではない特別な気持ちで、二人はデートへと繰り出した────。



____

__

_



「はー、楽しかった!」

「そうだねー」



 午後七時より少し前、存分にデートの時間とその雰囲気を楽しんだ二人は満面の笑みを浮かべたまま、帰路に立っていた。

 出かけ始めと同じよう、ピッタリと腕を組んだまま。



「今年もたくさんケーキ食べたねー!」

「デートスポット行って、ケーキ食べて、また別の場所行って、ケーキ食べて、イルミネーション見て、プレゼント渡しあって、最後にディナー。去年のクリスマスもこんな流れだったね。マンネリ化する前に、来年は少し違うようにしようか」

「ううん、これでいい。なんなら毎年これで」

「そう? じゃあ飽きるまでそうしよう。ただ来年は俺達も高校生だからもっと大人っぽく。いや、かっこよく……だな」

「もう十分大人っぽいんじゃない? うん、中等部でこんなデートしてるの、私たちくらいだって! なんならフツーの高校生よりオトナかもよ?」

「そうかな?」



 来年もその先もずっと一緒、それが大前提で話が進んでいく。

 既に許嫁同士となっている二人には、なんらおかしな話ではなかった。

 

 この日が10代前半最後のクリスマスであったが、自分達が10代後半になったとしても、20代になったとしても、きっとこのまま、清らかで仲睦まじいまま────。


 そう考えていた、自宅付近まで辿り着いた二人の目に……とある光景が映り込んだ。



「あ! お兄ちゃんと美花姉……」

「ほんと……だ……あー……あっ⁉︎」



 クリスマスゆえ、当然、二人の兄弟姉妹である有夢と美花のカップルもこの日を大いに楽しんでいた。


 二人より先に玄関前に辿り着いていた三つ歳上のカップルは、周りに自分の弟達がいる事に気が付かず……あるいは気にせず、たっぷりな愛情を確かめるようなキスを重ねている。


 しかしその程度なら、桜と叶だって行ってきた。

 ディナーをとったレストランの個室、そこで十分に唇を既に重ねに重ねていた。


 ただ、玄関前にいる二人はその先をいく。

 互いの柔らかな頬を、遠目から見てもはっきりわかるほど紅に染めつつ、一応男である有夢から、美花の肩を抱き抱え、成上家の屋内へと入って行った。


 そこから有夢の部屋で何が行われるかは……口に出さずとも、弟と妹は理解できる。



「……え、えっと、その、か、かにゃた……ど、どうする? き、今日は私のお部屋に……とまる?」

「うん、そうさせてもらおうかな」

「……! じ、じゃあ……その……あの……」

「家には俺が連絡しておくよ」

「そ、そっか……」



 桜が言いたかったことはそれじゃない。

 しかし、真実を話したところで返ってくる言葉、そしてその真意を理解しているので、「自分も姉達のように、この身を愛する人に預けたい」……出かかっていたその言葉は飲み込む事にした。

 

 自分達はまだ中学生、しかし、あと少しで高校生。

 約束の時は、高等部へと進学したその日。その日まであと数ヶ月。

 たった数ヶ月を我慢すれば良いだけの話であった。


 

「……ね、桜」

「……ん?」



 叶は、桜をみて悟ったのか。自分の兄の真似をするように、彼女の肩に優しく手を回しながら語りかける。

 互い稀な最高峰の頭脳を誇る天才が、目を泳がせ、しかし口調では何も気にしていないかのようなそぶりを見せ……。



「約束は約束だから、もう九割くらい俺のわがままに近いけど、それは守る。でも今夜は……そう、俺がまだ色々慣れてなかった頃に一時期やっていた、鼻血を止めるための訓練を……少し、いや、かなり。復活させたい、な」

「……そっか。へ……へぇ! な、なるほどね! うん、お、お姉ちゃん達も最初は慣らしてから本番したって言ってたし……い、良いと思う。うん、ほ、本番はもう3ヶ月もないしね! 慣れはね、いいよね、うんうん」



 桜はそう言いながらも、内心少し驚いていた。

 叶が誰にも責められない状況にも関わらず、こうして期間を設けて自分に手を出してこなかった理由を理解していたために。


 大切に、とても大切に守り続けたがために、例え愛し合った行為だとしても傷つける事そのものが、恐怖に変わっている。

 その恐怖を一歩だけ乗り越えた、大人と子供の狭間、天才と普通の狭間で思い悩む少年の一言に……桜は。



「………叶、私、叶が大好きっ。だから……ね、何してきても良いよ」

「……うん」



 そうして、子供ながら大恋愛を経ている二人は……大人になる、その練習をしに、屋内へと歩みを進めたのであった。



「となればまずは……一緒にお風呂入る……とか?」

「うん、わかった。そうしよう」

「ば、バスタオルはなしだからね? ほんとに入る?」

「うん」

「ほ、ほぉー……やっと……か。よ、よぉーし……」



 二人のクリスマスの夜は、長くなる。

 物理的に、アイテムで伸ばすから。










うおお、この話ゲロ甘っ!

お久しぶりです。Ss侍です。

まずはLevelmaker、なんの総計1300話に到達いたしました! 応援ありがとうございます!


ほんとは12/24のイブに出すつもりだったのですが、書ききれなかったので当日になってしまいました。

ええ、今回は男の娘がプレゼントばら撒く話ではなく、正統派にしてみたんです。


来年は主人公らを進級させ、特に高校生となる叶と桜にフォーカスした話を多めに出そうかなーと考えたり考えなかったりしてます。

最近は本作も他作も全部含め、1ヶ月に一度ほどしか投稿してませんが、そんな感じでお送りします。

お楽しみに!


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