織り姫と織り姫
「まって、彦星居なくない?」
「ああ、今は美花が織姫で、有夢も織姫だからな」
「えぇ……」
ある日の夢の中、唐突にアナザレベルが姿を現した。
ひとまず、なんとなーくだけど、この夢の題材が七夕であることはわかる。
変な形になった七夕の夢なんて、アナズム来てから何回目だろうか。……それになんかすごい、三~四年ぶりくらいな気がする。
どうやら例に漏れず、この夢は美花も一緒に参加しているようで、俺の目の前に可愛らしい単を着て、ポカンとした表情を浮かべながら立っている。
そして、俺自身も美花と同じ着物を着ていた。
つまり今の俺たちは『織姫と彦星』ならぬ『織姫と織姫(男)』。
夢とはいえ、まさかこんな変化球を投げてくるとは思わなかった。
「なに、なんなの、何が目的なの?」
「この夢は我が魔力を捻じ曲げ、直接二人に干渉しているのだが……我の中のシヴァが特上の百合ものが見たいと言い出してな。百合といえば有夢と美花だろう?」
「……」
「そんな目をするな、可愛いだけだ。どうやら今の我はそれすらご褒美に感じている」
「……えぇ」
どうしちゃったんだろう、いくらシヴァは半分ストーカーみたいなことしていたとはいえ、流石にこういう趣向は持ち合わせていなかったはずなのに。
うーん、新しく芽生えたとか?
趣味趣向って時間で変わるものだし、仕方ないのかな。
「で、何すればいいの? 『織姫と彦星』のお話になぞって両方織姫役でいちゃつけばいいの? ……なにそれ」
「そういうことだ、よろしく頼む」
そう言って目の前からアナザレベルは消えた。
煌びやかな宇宙の世界に、おそろいの着物を着た俺とミカだけが取り残される。
「……美花、今の話聞いてた?」
「うん」
「どう思う?」
「無茶振りと変態性と変な夢は今に始まったことじゃないし、私は有夢といちゃつけるならそれでいいかな……あ! でも百合が見たいって言ってたから、アリムにならなきゃだよね!」
「ノリノリだなぁ」
とはいえ、ミカの要望通りにアリムになってしまうボクもどうかと思うけど。
【準備は整ったな? えー、では。ごほん。 昔々あるところに、天の神の娘である、織姫という名の働き者が居りました……】
頭の中で声がする。
えー、そこから始めるんだ。
「自社の新商品はスイーツで行くべきか、飲み物で行くべきか。昔の期間限定商品から人気のものを復活させるという手もあり……?」
そう言ってミカは色々作業を始めた。
ちゃんと働き者の役に入っている。
じゃあボクも働かなくちゃ……とりあえずゲームして……いや、冒険者の方がいいかな? とりあえず剣を持った。
【すると、彼女は同じく勤勉な若者である織姫と出会います】
「うわぁ! 剣持ってる⁉︎ 銃刀法違反だ!」
なんかミカがボケて地球基準の反応を見せてきたので、ボクもボケ倒すことにした。
「うわぁ! 同じ服で同じ名前だ⁉︎ 違うところ、顔と髪の毛の長さくらいしかないよぉ⁉︎」
「ううん、私はアリムよりおっぱいが格段に大きいよ」
「……」
ボクがアリムの状態で気にしていることを、ニヤニヤとした表情を浮かべながらミカは言い切った。
ちょっと泣きそう。
「……」
「ご、ごめんね。言いすぎた……」
「あっ……厚手の着物着てるから、パッと見じゃ……わ、わかんないよ……今は」
「う、うんうん。そうだよねっ……!」
【とにかく、二人は結婚することにしました】
「だってさ」
「えへへー」
「えへへー」
夢の中ごと場面が移り変わり。
本来のお話であれば、働き者だったはずの織姫と彦星が怠惰になって一日中遊び回るようになってしまったシーンに入った。
【そんな二人は毎日仲睦まじく暮らしましたが、これまでと一転してイチャついて過ごすようになり、日常生活に支障が出始めました】
ボクとミカはいつのまにか一つの長椅子に一緒になって座らされている。
場所は屋外だけど、星空が満天で素晴らしい景色だ。天の川も見えるし超ロマンティック。
そんな中でボクはミカのことをじーっと眺めることにした。
いくら夢の中で、お互い織姫同士の役とはいえ、このあと一年に一回しか出会えないシーンに移るんだ。
今のうちにミカを目に焼き付けておかなきゃ。
【……これまでと一転してイチャついて過ごすようになり、日常生活に支障が出始めました】
「二回も言わなくていいよ!」
急かされたので、ボクはミカに向かって距離を詰め……ようと思ったら既にミカに詰め寄られていた。
少し顔を伸ばせばキスできそうな距離だったので、そのまましてそうしまう。
【来たぞッッ! 我の中のシヴァよ、喜べ!】
「はむ……ん……んく……」
「あむ……はふ」
単にキスと言っても、洋画ばりに濃いいやつを。
これでアナザレベルの百合が見たいって要望は叶えたことになるのだろうか。
うん、なんか喜んでたしこれでいいんだろう。
「はぁ……はぁ……ありむぅ……」
「みかぁ……」
「……んー」
「ま、まって、らめらよ、いま変態な神様が見てるから……これ以上は……」
「あ、そっか。そだね」
【我は一向に構わんッッッ!】
「だろうね。でもボク達がやなんだよ」
【そうか……】
やっぱりテンションがおかしいなぁと思いつつも、キスだけは続ける。
それから体感で一時間くらいずっとミカとイチャついてたら、次のナレーションが頭の中に響いてきた。
【イチャつきが尊すぎて、鼻血を出して倒れた天の神は】
「あ、天の神役ってアナザレベル自身なんだ」
【ああ。だから鼻血を出したのは比喩だ。とにかくこのままではイカンと思った天の神は二人を……】
やだなぁ……夢とはいえミカと引き裂かれるのは……。
【一年、三百六十五日のうち、八百日イチャつくことを命じましたとさ。めでたしめでたし】
色々端折られてるし、一年のうち800日分イチャついてるって……それ、マジックルームとか時間停止とかを駆使してボクとミカが普段イチャイチャしてる日数じゃないの。
でもとにかく、大丈夫だった。よかった。
【じゃ、お疲れ。あとは好きなように百合百合してていいぞ】
そっか。なら、このままもうしばらくミカと────。
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「あゆむー、そろそろおきてー。朝ごはん冷めちゃう」
「んっ……んん……。おはよ……あ、あれ? 織姫と織姫は……?」
「何言ってるの? 確かに今日は七夕だけど……え、彦星なしで織姫二人?」
「うん」
「ほほー、いいね」
なんだ、夢だったか。……いや、夢は夢なんだけど。
神様が干渉してあの風景を作り出したわけでなく、単純に俺が一人で見た変な夢だったってことでいいのかな。
うん、だよね。
流石にシヴァが可愛いからって理由だけで、地球でずっと俺のこと覗いてた、変態ロリショタコンストーカーだったとしても、あんな神様の威厳がなくなりそうなことするはずないもんね! ……流石にね?
「あ、でも私、有夢に寝ぼけながらディープキスされて起きたんだよね。えへへへ……ごちそうさま」
「そ、そんなことになってたんだ。ごめんね、起こしちゃって」
「ううん、最高だったよ! ……七夕の短冊のお願いは、もっと有夢にキスしてもらえるよう書こうかな」
「もったいない。言ってくれればどれだけでもするから、お願い事はもっとご利益がありそうで豪華なものにしようね……。ほら」
「んっ……!」
俺は美花をベッドに押し倒してキスをした。
やっぱり俺が短冊にお願い事をするなら、このまま永遠に一緒に居れるように……かな。
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「暴走しすぎじャネ?」
「全てを己の夢だと思われたからいいものの、あのままいけば私達まで一緒に変態扱いされていたぞ?」
「……悪かった」
<お知らせ>
本日、Levelmakerと共にずっと連載をしておりました私の2番目の作品
『私は〈元〉小石です! 〜癒し系ゴーレムと魔物使い〜』
が、5年時を経て完全完結しました。
今まで応援ありがとうございました。
Levelmakerも一応完結作品ではありますが、120万文字を超える大作の完全完結は初めてです。
非常に思い出深い……。
私、ひと作品ひと作品、魂を削る思いで執筆しておりますので、5年も続けた作品となると心にぽっかり穴が空いたようです。
ぶっちゃけちょっと泣きました。
その喪失感が嫌だから、Levelmakerは(今のところ)私が生きてる限り更新し続けるなんて、おかしな方針になっているのですが。
あ。もし未読の方が居ましたら、是非、ご覧になってみてください。自分で言うのはなんですがかなりほっこりします。




