第千百十五話 全部終わって
「本当に、申し訳ないと思っている」
メフィラド城にて。アナザレベルは一通りの説明や今後どうするかを述べた後、みんなに向かって頭を下げた。この場に関しては二代目に乗っ取られた不覚に対しての謝罪ではなく、魔神だった頃にめちゃくちゃやったことに対して謝ってるみたいだ。特にヘレルさんとエルさん、カルナさんにカルアちゃんは迷惑を被ったとかってレベルじゃないからね。
「頭を上げくだされ神よ! ……状況はまだ飲み込みきれておりませんが、今日から我々は本物のアナザレベルを信仰することができるという解釈でよろしいのですか」
「その通りだ。メフィラド王、そして各国の王達よ。少なくともこの神が、民の重荷となることは今後一切ないと約束しよう」
アナザレベルがそう宣言すると、みんなホッと胸を撫で下ろしたような顔をした。魔神の脅威が無くなったってことだからね。
そんな中、カルアちゃんがアナザレベルに向かって挙手をする。
「どうした、カルア姫よ」
「あ、あのっ……アナザレベル様のお話を聞く限りでは、私達メフィラド家のような勇者や導者といった者たちを導く一族は全て、二代目が神、貴方様の分身体である魔神を封じ込めるために用意したものなのでしょう! 私達は……このまま王族として生きていてもよろしいのですか?」
アナザレベル曰く、なんとメフィラド家をはじめとした勇者、賢者、導者を扱える人達はみーんな二代目アナザレベルの子孫らしい。アナザレベルが三人の女性を別々の地方で侍らせて、できた子供を初代の英雄を選定する者にしたらしい。血で受け継がれるタイプの称号を与えて。カルアちゃんはそのことが気になったんだ。
アナザレベルはいつになく優しく答えた。
「無問題だ。長く英雄達を定めてきたということは、王として永年にわたって民達を守ってきた証拠。自滅した例外もいるが。ともかく我は国や政治に口を出すつもりはない。このまま王族を続けていたら良いだろう」
「そうですか……!」
口を出すつもりはないって、シヴァの時あれほどめっちゃ口を出してきたのに。あの魔神三柱が合体してできたのが今のアナザレベルなんだから、そのうち口出したくてウズウズしだしたりしそう。ま、これは偏見だけどね。
「そ、その、それではもう一つだけ質問を……!」
「わかるぞカルア姫よ、アリム・ナリウェイ達のことだろう? 心配するな、皆、今後もこの世界に頻繁に訪れてくれるそうだ」
「本当? アリムちゃん?」
「うんっ、ほんとだよ!」
カルアちゃんはとっても嬉しそうな顔をしてくれた。ニッコニコしながら俺たちの方を向くカルアちゃんをみるとこっちも嬉しくなっちゃう。ふふふ、この世界には一生入り浸るつもりでいるからね、例えばセインフォースの四人の結婚式とかにもがっつり参加できちゃうはず。
「以上だ、アナズムの民よ。これからは、元のように、この世界の創造者である我が見守っていること、そしてその信仰をゆめゆめ忘れないように」
「………!」
みんなが一斉にアナザレベルの宗教のポーズをとった。うーん、こうしてみると本当に神様なんだなぁって実感させられる。いや、見た目的にも雰囲気的にも立派に神様なんだけど、どうしてもあの中にのぞき趣味だったシヴァが結構な割合で入っていると思うとね……。
「では、我はこれにて去るとしよう。もう! 全ての脅威は去った!! 人間達よ、安心し、今宵は枕を高くして眠るが良い! ……アリム達も戻るぞ」
「うん」
何も枕を高くして眠れるのはアナズムの人たちだけじゃない、俺達だってそうだ。生死に関わるような厄介ごとが全部終わったんだから安眠できるね。
俺達はお屋敷に帰ってきてからアナザレベルに再び呼び出された。全員で幻転地蔵が置いてあった部屋に集まる。
「最後に確認したいことがあるのだ。先ほどの集まりでアナズムの民のこれからはひとまず安定した。……次はお前達だ。アリムやミカ、ショー、その親族らは地球とアナズムを行き来するのだろう。それはよしとしよう。それ以外のまず、リル・フエンとその両親よ、どうしたい?」
「わふっ」
指名されたフエン一家はそろって耳をピンとたてた。そしてすぐさまリルちゃんが焦ったように答える。
「わ、私はショーと一緒がいい! ショーと一緒に地球とアナズムを行き来したいよ!」
「まあ、そうだろうな。で、二人はどうする?」
「……わふ。私達はこのままアナズムだけで暮らそうと思います。娘がチキューとアナズムを行き来するなら、アナズムだけで過ごしても、娘と一緒に居る時間は設けられる」
「わふふ、せっかくリルとショーくんはラブラブなのに私達がチキューへリルを追いかけていくのも悪いしね」
「了解した」
実はリルちゃんの両親、二人とも自分たちの村に戻るつもりでいるらしい。というのも瞬間移動を使えばいつでも会えるし、うちにずっとお世話になるのも悪いからだとか。美花はまだリルちゃんの両親は二十代半ばだし、二人きりでしたいこともあるんだろうって推測してた。
「では愛長光夫と幻転丸はどうする? 愛長光夫よ、二代目アナザレベルと同じように全ての記憶を消して元に戻すこともできるぞ」
「そうですねぇ……つい先日までの俺ならばその選択肢がある時点ですぐ選んでいたのでしょうが……。皆様がアナズムに行き来できるのに俺はそうしないのはなんだか損な気がしてきましてねぇ。ステータスも芸の役に立つでしょうし。と、いうわけですから、私も有夢さん達と同じようにしますよ。新しい目標もたった今、思いついたところですし」
「ほう、それはどんなものだ?」
光夫さんはピエロの格好をしている時のように広角を釣り上がらせ、元気はつらつと新しい目標を宣言した。
「ずばり、この世界にもサーカスを広めるのです! 実のところ百年間、俺の心が休まる時は、悪魔業の合間を縫って人前で曲芸をしている時だった。この世界の方々にも、俺の芸で楽しんでもらえたのです! それをふと思い返しましてね。ならば私が、この世界において曲芸の第一人者になってやろうってわけですよ」
「いかにも愛長光夫らしい考えだ」
「あ、でも私の凍った家は元に戻してください。絶対狙って凍らせましたよね、二代目」
「それはそうだと思う。なるほど、了解した」
すっかり元気になってくれてよかった。いい目標だと思う。百年間孤独に頑張ってきたんだもん、きっと光夫さんならアナズムにサーカスを広めるのだってできちゃうよね。
「それで、幻転丸はどうする? 元の時代に帰るか?」
「いや、拙者が元の時代に戻ってしまったのなら、おそらくアリム殿らに小さくない影響があると思うのにござる。親に顔を合わせたいという気持ちはあれど、過去の死者が今生きる若者達の阻害をするのは武士道に反している。……そこで拙者は光夫殿と共に考えたのでござる」
「……というと?」
「アナズムの住人の幻転丸さんとして地球へ転生するんです。フエンさんと同じように」
「拙者の武芸の練度は、皆の時代では人智を超えた芸にもなり得るとお聞きした所存。故に拙者、地球では光夫殿の下で曲芸団員として働いていくのでござる。無論、アナズムは第二の故郷。他の者と同じように自由な渡航を望むでござる」
「了解した」
へー、光夫さんったらいつの間にそんな契約を。本当に商売熱心だね。それにしても、うーん、光夫さんの商売の話をするとあの強制契約のスキルを思い出しちゃう。
「……さて、全員の今後を聞いたところで。改めて言っておこう。すでに皆、自由にアナズムと地球へ行き来することができる。アリム・ナリウェイ達にとっては久々の帰還となることだろう。長く拘束してしまい苦労をかけた。聞くところによれば、数ヶ月は地球に滞在するつもりなのだろう?」
「うん!」
アナザレベルのいうとおり、俺たちは今回帰ったら結構長く地球に滞在するつもり。もうすっかり地球人って感覚が鈍ってきてるからね。このままじゃ人前で堂々と魔法使ったりしちゃいそうだもん。長めの期間でゆっくり慣らしていかなきゃ。
「では、我も地球とアナズムの境目の門……地蔵のある地から守っているとしよう。もう二度と頭に花瓶が落ちてこないようにな!」
「……見守ってくれるのはいいけど、もうお風呂とか着替えとかは覗かないよね?」
「覗かない覗かない、絶対覗かない。大丈夫。安心してくれ……。覗く、と言いそうだったがスルトルとサマイエイルの人格が抑えてくれた」
「本当かなぁ」
「本当、本当」
うーん、それじゃあ今日明日でたっぷり休んだ後、明後日にでも地球に帰ろうかな。次アナズムにくるなら春休み明けぐらいが時間的にちょうどいいだろうか。
あっ! そうなるとすっかり忘れてたけど俺、高校三年生になるね。
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次回、最終話です。
とうとう、最終話なのです……!