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閑話 翔と有夢の二人旅 その2

「空港来るの、修学旅行以来だね」

「ああ、そうだな」



 空港に着いた。だが、まだ飛行機が出るまで一時間半はある。搭乗手続きをしたりする時間をとったとしても一時間は余裕があるな。空港ってのは場所にもよるが、中に店や見て回れるような場所が大量に入っている。歩き回るだけでも楽しめるだろう。



「お土産やさんみにいこー」

「行きだし、誰に土産を買うわけでもないけどな」

「そーいうのが楽しいんだよぅ」



 てな訳で俺と有夢は空港内を歩き回ることになった。昼飯は空弁を買うと決めたからまだここでは食わねーけど、食欲をそそられるような店が多く立ち並んでいる。

 そんな中、オシャレで恋人と行くような、そう、俺がリルと、有夢が美花と行くようなカフェにある看板が立っているのが見えた。『カップル割中!』の文字だ。



「ほほう、カップルで同じスイーツを頼むと合計から3割引かぁ」

「……有夢、何を考えている?」

「俺たちでも通用するかな?」

「やっぱりそうきたか。何回やったんだこれ」

「えへへ、久しぶりにやってみようよう」



 俺と有夢が二人きりで街に繰り出した時に、二回に一回の割合でやることがある。そう、それは俺たち"男二人"でカップルに見えるかどうか試すんだ。世の中には男同士のカップルでも割引を認めてくれる所はあるだろう。だが、俺たちは違う。有夢を女子だと見立ててカップルに見えるかどうかを試すんだ。ちなみに今のところ成功率は100パーセントだぜ。

 てな訳で、俺と有夢は店に入って同じケーキとコーヒーを頼んだ。やがて運ばれてきたコーヒーを一口飲んだが、正直、美花が本気で淹れたやつには程遠い。いや、美花の本気のコーヒーが美味すぎるだけだが……。ちなみに美花の親父さんが運営してるチェーン店はこの空港内にもあるし、俺たちは無料券を何枚も持っているが、んざわざカップル割が効くかどうかという遊びをしたいがためだけにこの店に入ったんだぜ。

 四十分ほど駄弁って、会計の時が来た。建前では俺が全額払う、という風に見せかける。事前に金を集めておいてな。レジの前で有夢は俺に恋人だと悟られるくらいの距離まで近づいてきた。



「すいません、カップル割お願いしたいんですけど」

「カップル割ですね、3割引となりまーす」

「ではこれで」

「はーい。ちょうどになりまーす」



 ……支払いが終わっちまった。やっぱ成功したか。有夢がやけに嬉しそうな顔をしてやがる。俺も叶君も女子っぽい行動はあまり避けるようにしてるんだが、こいつはむしろ女の子扱いされると喜ぶ。一時期は嫌がってたような気もするんだがな。



「満足したか?」

「うんっ」

「まあ、もう冬も近いのにわざわざ短パンにタイツ履いてくるくらいだもんな。男だとバレるわけねーか」

「翔も同じ格好してみる?」

「単純にキモいだろ」

「……うんっ」



 しばらくして時間になったので、空弁を近場で買ってから、俺たちは搭乗手続き等を済ませ、飛行機に乗り込んだ。俺と有夢の先はもちろん隣同士だ。俺が窓側で、有夢がその隣だ。有夢は宣言してた通り、思い切り寝るつもりのようで、キャビンアテンダントに毛布を頼んでいる。



「お弁当食べたら寝るからね」

「おう」



 飛行機が離陸し、ベルト着用サインが消えてからすぐに俺と有夢は弁当を広げた。照り焼き弁当なんだが、有夢も合わせてきて同じものになっている。なんか一緒のが食べたい気分だったらしい。あざとくそう言われた。いや、本人はあざといつもりはないんだろーけどな。

 そして有夢は食い終わるなり、おやすみと宣言して眠りについた。食ってすぐ寝たら太ると思うんだが、こいつには余計な心配だ。おそらく中年になってもこのプロポーションを保ってやがるだろう。



「すぅ……すぅ……」

「寝んのはえーなぁ……」



 有夢は学校の授業中もよく寝ているが、寝顔が可愛すぎるせいで誰も咎められないらしい。社会科の先生が言ってたぜ。実際、この席は三人一列なんだが有夢のさらにその隣のビジネスマンらしき男性が、有夢のことをチラチラ見ている。



「んぅ……しゅげぃ……4096分の1の確率が連続で二回も……」



 どんな夢見てるんだ。夢を見てるってことはまだ眠りは浅そうだが。それはともかく、有夢が体をこっちに倒し、俺の肩に頭を乗せてきた。こいつが、こいつが普通の男だったら肩を動かして跳ね除けてやってるんだろうがそんなことはしない。いくら男だとわかっていても、親友だったとしても、可愛いものは可愛いからだ。

 ちなみにリルもよくこれをやる。めちゃくちゃ可愛いんだこれが。

 有夢に肩を占領されたまま、機内モードでスマホアプリをいじっていたらいつのまにか目的の空港まで着いちまった。ほっぺたをいじくりまわして有夢を起こしてやる。

 


「ほっぺだウニウニ……やめちぇ……」

「おい、おきろー」

「うにぃ……はっ! あさごはん!」

「ちげーよ。もう着いたぞ」

「……ほぇ。あ、ああ、そうだった。おはよ」

「ああ、おはよう。よく寝れたか?」

「そこそこかなー」



 俺と有夢は荷物を準備し、飛行機から降りた。さて、次もバスで移動だ。移動時間長いな。仕方ねーけど。

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