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第千八十七話 様子見

「あ、残り4ポイント余った。どうしよっか」

「癒術って1つあげるのに何ポイント必要だっけ」

「5ポイントだよ」

「まあ、あったところでかすり傷も治せないしなぁ、このレベルじゃ」

「水術に使ってもっと水を確保できるようにするか、他の属性を使えるようにするか……」

「とりあえず迷ったら残しておこ」

「そうね!」



 とりあえずこれで水と火は使えるから、まあ、何日間かは生きるだけならできるでしょう。

 さっそくそこらへんに落ちてる木の枝を拾って焚き火を組んだ。焚き火を組むなんて久しぶりにやったのに、なんでだろう、割とすんなりできちゃった。



「やっぱり手際いいわね」

「えっへん!」

「じゃあ火をつけるね」



 小さなキャンプファイヤが燃え上がる。これだけで少しあたりが暖かくなった。そして美花は続けてウォーターボールの魔法を唱え、空中に現れたそれを手ですくった。



「はい、まず有夢」

「ん」



 美花の手から水を飲む。別に空中に浮いてるウォーターボールを啜ればいいだけの話なんだけど、せめてものイチャつき。俺が飲み終わったら美花は再びウォーターボールを唱え、俺の手に乗せてそこから飲んだ。



「プハー。やっぱり水が飲めるのはせめてもの救いね」

「だねー」



 アナズムに送られてきた当初の生活も、水がなかったらあの何百倍も大変だったんだろうなと時々思う。

 ……さて、そろそろいいかな。火をくべて水を飲んで、気持ちは落ち着いてはいないけど、普通の人に比べたら冷静な方だろう、今の俺は。ならばできるはず。死にに行くことも。



「美花、ちょっと俺、ここ以外の様子見てくるよ。この世界にも太陽らしいものがあって、見る限りちゃんと動いてるからね。サバイバルだもん、時間を無駄にはできないよ」

「そっか……え、でもそれって……」

「まあ、何回でも復活するから。美花はここでまってて」

「や、やだよ……」

「……この服、好きなだけスーハースーハーしていいから。泣かないで」



 俺は下着だけになった。めちゃくちゃ寒いけど、仕方ない。服は一点ものの可能性が高いからね。様子見なんかで失うわけにはいかないよ。

 美花は誰が脱いだ制服を受け取ると、本当にそこに顔を埋めた。しばらくそれを堪能してから顔を上げ、涙目で俺を見てくる。心底嫌だけど、仕方ないと分かっている……そう、目で訴えてるのがわかる。美花と俺は以心伝心だからね、メッセージがなくとも。



「ごめんね、行くよ。余裕があればメッセージで連絡する。逆に美花のそばにSSSランクの魔物が現れたらすぐに教えて」

「わかった」

「じゃ、ね」



 近くの棒を拾って地面に立て、倒れた方向に進むことにした。下着姿でまっすぐ突き進む。靴も靴下も脱いだから裸足が痛い。痛いけど、死んだらリセットされる。……ふふふ、だからこそ無茶でも先の様子見をするなんてこと、ゲームじゃザラなんだよ!

 さて、俺の体内時計じゃ三分は走り続けたけど、どうなんだろう。今のところ地球にもいそうな普通の虫くらいしか生き物と遭遇してない。まあ、よく考えたら野生の生き物と遭遇する確率だってそもそも低いしSSSランクしか魔物がいないとしても頻繁に出会うことなんてないのかもしれない。

 加えて、走ってる最中に食べられる草や木のみを結構見つけた。これはアイテムマスターによる知識だ。嬉しいことに、アイテムマスターを失っても、今までそれを使ってきたという知識と経験は残る。つまり記憶力の問題だね。

 スポーツ選手が現役を引退したとしても、その後の人生ずっと普通の人よりその分野が得意であることには変わらない。それと同じ。



「……!?」



 ずっと走り続けていたその時、いきなり膨大な魔力をこの身に感じた。ほほう、来たか。ていうか走って数分圏内でもうここまで感じるってことは、SSSランクなら俺たちの拠点まで一瞬で移動できるはず。結構危ないんじゃ……。

 拠点までSSSランクがやってきて復活してすぐに殺される。永遠に殺され続けるなんてことだけは避けなきゃいけないんだけど。

 とりあえずこのSSSランクがどんな魔物かだけ確認しなきゃ。ガタノゾーアとかみたいに大きな魔物だったらすぐわかるだろうし、SSSランクにしては小さめサイズなのかも。



【美花、SSSランクの魔物、今俺の近くにいるっぽい。そっちは変わりない?】

【ん、大丈夫】

【すぐ戻ってくるからね!】

【あ、あんまり死ぬのを当たり前にしないようにね?】

【まあ気をつけるよ】



 さて、相手の魔力が高いお陰でむしろどこにいるかがわかる。実力差がある存在の魔力に当てられ続けると、弱い方は気分が悪くなるらしいけれど……なんか俺は大丈夫だ。精神が図太いからかもしれない。

 魔力をたどって進んでいくと、白い尻尾がチラリと見えた。遭遇した。心臓の鼓動が高くなるのを感じる。

 相手も俺に気がついたみたいで、いや、そもそも俺がくることは探知か何かで事前に察知していたようで、全部わかっていたかのように木の陰からぬっと顔を出してきた。

 ……犬だ。見覚えがあるぞ、この顔は。そう、金王犬とか虹帝犬の類だ。多分それの進化系だと思われる。ところどころが透明になったりならなかったりしてすごく不思議な感じがする。

 さあ、こいつは俺をどうするんだ。と、考えたその次の瞬間。俺は自分の体を空中から見下げていた。どうやら首だけ弾き飛ばされたみたいだ。痛みは感じない。

 ああ、ステータスに差がありすぎてスピード的に見えなかっ……それより、もう……感覚が……な。

 

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