第千四十七話 ドラゴンスレイヤー 2
昨日は投稿する前に寝落ちしてしまいました。申し訳ない。
「くっ!」
ガバイナは足元に現れる黒い渦に飲み込まれないよう、地面に向かって槍の技を放った。その衝撃斜め上へ高く飛ぶ。
「冒険者の経験が長いと見える。よく回避した。しかし空中は吾輩の得意場所だぞ?」
そう言ったカオスブラックドラゴンの背中から人間態であるにもかかわらず黒いドラゴンの翼と尾が生えた。そのまま空中にいるガバイナの元まで飛んで行き、地面へ尻尾で強く打ち付ける。
「ごはっ!」
「やはり普通に飛べぬ人間というのは劣等種だな」
「ぐぅう……」
「ドラゴンスレイヤーよ、ステータス的に考えてもまさかこれで終わりではあるまい」
ガバイナは地面に背をつけたまま、槍に魔力を込めて振るう。炎竜の槍砲という技を連続して空中へ撃ち込み始めた。全ての弾が自我を持っている竜のようにカオスブラックドラゴンを追尾するが、当たる前にことごとく消滅していく。重力の塊のようなものに吸いこまれていた。
「その技はもう見た。一撃目から思っていたが、転生者にしては火力も低いし範囲も狭いな。まさかそんなに転生をしていないのか? それならそれで好都合」
「ふっ……炎竜の槍砲!」
「また同じ技……ぬ!」
ガバイナから放たれた次の弾はまるで本物の炎竜と見間違うほどの大きさであった。カオスブラックドラゴンは虚を突かれ、直撃は免れるも炎の翼に身体をかすってしまう。そしてガバイナの攻撃はそれで終わりではなかった。同様の大きさの弾がいくつもいくつも放たれたのである。アリムのつくったこの広い空間は自動追尾するドラゴンの弾で一部が埋め尽くされる。
「一発一発が吾輩の本当の姿と同じくらいはあるだと!? あのスキルはSランクもないはずだ! ご、ごあああ! し、しかも全てが追尾してくるとき……ぐお、ぐおあああああ!」
「本域を出さなかったのは油断させるためだ。この数、流石にひとたまりもないだろう」
空中に同じ姿をとった竜の弾が飛び交う。炎竜の槍砲は決してこのように強力な技ではなかった。まだガバイナがAランク程度の実力だった頃に所持していたAランク中位のスキルである。しかし転生によって得た豊富な魔力とMPが技の昇華を可能にしていた。
慣れている技であるからこそ連発ができる。連発ができる技の一撃が重い。転生し並みのSSSランカー複数人分の実力を手に入れられた後もメインの技として使い続けた。
そしてこのMPが多く込められた竜の弾は、一度被弾した程度では消えない。込められた分のMPが切れるまで、何度も何度も標的の間を往復する。
「流石にやったか」
ガバイナは槍を突き立て、杖代わりにして立ち上がった。拳による連打と尻尾の強打により体の節々が痛む。そのことにガバイナは違和感を感じていた。
「おかしいな、伝説の竜相手とはいえ、SSSランクの魔物の攻撃も楽に跳ね返せるほどのステータスになっているはずなのだが」
違和感を感じるのはそれだけではなかった。ガバイナの探知にはまだカオスブラックドラゴンの命が途絶えていないことになっている。本来ならばとっくの昔に焼き尽くしていてもおかしくはない状況であった。
「……む」
複数の炎の竜によりあたりは明るく照らされていた。その筈であるのに、唐突に影もできなくなり、部屋に入った当初と同じ明るさになった。そして上空から放たれると魔神に近い威圧感。ガバイナは上を見た。
「……やはりそう簡単にはいかないのか」
〔当然だドラゴンスレイヤー。吾輩一匹を倒すのに一体何人の、同様の称号を持つ劣等種どもが死んでいったと思っている〕
「それが本当の姿か」
〔もちろん〕
全身黒の竜が羽ばたいていた。全ての火の竜を消し去り、何事もなかったかのように無傷で。
漆黒のように黒い鱗、あまりの硬度のため淡い光を放つようになった水晶の断面のような牙と爪、おどろおどろしく曲がりくねった山羊のようなツノ、世の中の全ての混沌が詰まっているような白い眼。伝承に違わぬ伝説の邪竜がそこにいる。
〔さあ、これこそドラゴン、だろう? ドラゴン狩りがしやすくなったな、ドラゴンスレイヤー〕
「……俺はそんな大層なドラゴンを倒したことはないが」
〔吾輩が初か? 先程の技といい、貴様、冒険者としての歴史は長いが強者としての歴史は薄いだろう。ステータスの高さ、有り余るスキルポイントに慣れていないな? ……ともかくもう二度とこの肉体にあの技が効くと思うな。ではまたこちらの番だな〕
カオスブラックドラゴンは息を思い切り吸い込んだ。巨体中からMPが集められ、口元に集まっていくのがガバイナにもわかる。相当な大技を放つ前兆であるのがあからさまであった。
「この魔力……とんでもないな」
〔転生者はステータスが強化されている。神はそれに対抗するために吾輩達の強化を行った。貴様の攻撃を人間態であれだけ耐えられたのはそのためただ。……そうだ、先に教えておこう。吾輩がこれから放つ咆哮はかつてひと吹きで一つの街を消滅させた。それも現在はもちろん強化されている〕
「……」
〔痛みも感じずに死ねると良いな?〕




