第1033話 国王達の選択
「黙っていても始まりません。ひとまずお考えをお聞かせ下さい。国王様がどうお考えになっているのか」
長い沈黙を破ったのはルインさんだった。アナザレベルからの手紙には、現段階で一番力を持ち強大な国はメフィラド王国だと書かれていた。そして一番力を持っている国として正しい選択をせよ、とも。ルインさんは俺の方を見て少し微笑む。国王様に間違った選択をさせないから安心してほしい、とでも言うように。
「……わかった。では私個人の考えを聞かせよう」
自分の子供二人に迫られ、この緊迫した雰囲気の中国王様はそう言った。たぶん側から見ても相当怯えてるように見える俺のことをジッと眺めたあと、ゆっくりと、しかしいつもより弱々しく答えを口で紡ぐ。
「アリムを処刑したくない。……いや、させない。それが私の意見だ」
「それなら最初からそういえばいいではないですかお父様! なんでこんなに長い時間渋ったのですか!」
「……カルア、もしぼく達以外の国全てがその反対の意見だったらどうなる? まだ誰も意見を言っていないんだ、どうなるかわかったもんじゃない」
「ティールお兄様……。そ、それは……」
たしかにティールさんの言う通りだ。仮に偽の神様の言う通りメフィラド王国がアナズムで一番大きな国だったとしても、他の全ての国が俺を処刑するように要求しだしたら敵対され、袋叩きにあうだろう。もし俺を殺すんだったら早くしないといけないんだ。
「……子供達の言う通りだ。私は私が非常に恥ずかしい。許してくれアリム。しかしこれは私一人の単独の意見なのだ……この国に住む他の者はどう考えている?」
「全くもって、国王様の言う通りですぞ」
「私も。反対意見は何もありません」
大臣さんや王妃様がそう言った。それに習って兵士さんや騎士さんが賛同するように頷く。
「では私の意見を我が国としての意見としよう。……他の国はどうだ。何か言いたいことはないか」
「……ではメフィラド国王、我が国の意見を聞かせよう」
「ラーマ国王」
ラーマ国王もさっきの国王様と同じように俺の方を見た。なんだかとても悲しそうな表情をしてる。メッセージで連絡を取ったのだろうか、すでにラーマ国王の陣営は呼びかけなくても全員意見がまとまっているようだ。
「アナズムで過去最もと言っていいほど美しい少女を殺すのはアナズム全体始まって以来の大きな損失となる。よってブフーラ王国はメフィラド王国の意見と同じである。……もしアリムちゃんに手を出すつもりなら、武力をもって対応をしよう」
そう、自信たっぷりに言った。つまり俺を処刑するって言い出す国があったら戦争を始めようと言うわけだ。そう言われると俺はそこまでの存在なのかとふと考えてしまう。
今度はエグドラシル神樹国の人達が挙手をした。
「感情論を抜きにして話をするとな、ワシらに勇者を亡き者にする利点がないのじゃよ。そうじゃろ? 良いのか? 迷ってる主ら、もしアリム・ナリウェイが居なくなったらあの神が集めた魔物や犯罪者どもが好きに暴れまわる時代が来るのじゃぞ」
たしかに客観的にみたらそうだ。殺されたくないとばかり考えていたけど、俺がいなくなったらアナザレベルやその仲間達は好き勝手にし始める。結局、どっちを取っても最悪な結果になることは変わりないのか。
アナズムの大国三ヶ国が全て俺の味方をしてくれてる。……嬉しい。喜んでいいのかどうか状況的に悩ましいけれど、それでも……。
「そ、そうですな! なにより年端もいかぬ少女一人を犠牲の上に成り立つ平和などありはしませんしな!」
「我が国もアリム殿の死刑には断固反対します!」
「偽の神には屈しません!」
次々と他の国々もそう言い始めた。最初からそう思ってくれていたのかは別として、言ってくれるだけでも俺は安心する。しばらくして全部の国が大国の意見に賛成する形となった。これで同じ人間から狙われたりしなくて済むんだね。
「……ならば決まりだ! 我々は偽の神、アナザレベルと戦う! アナズム中全ての国で団結し、私達の力で平和を取り戻そうではないか!」
国王様がそう言った。そうだ、取り戻さなきゃ。こういう自体になったんだ。あとはもう、戦って勝つだけ……!
「ふぅ……ひやひやした」
「……だね」
「でもさ、なんでこんなに執拗にあゆ……アリムのこと狙うのかな。ここまでするとわけわからなくない?」
「ん……」
ミカの言う通りだ。動機がわからない。
それから、とりあえず国王様達などの偉い人たちはもっと深く話し合うために会議が開かれることになった。そして俺は精神面の回復と、何故か狙われてるため避難の意味も兼ねて今日は屋敷に戻ることに。というかしばらくは屋敷から出ないほうがいいだろうって。俺もその方がいいと思う。
……とはいえ、もう色々と見越して準備自体はしてきたんだ。いや、あんなまとめて全員かかってくるとは思わなかったから今日は負けちゃったけど。国王様が言ったとおり、早く平和を取り戻さなきゃ。




