第千二十六話 ここで倒してやる
結論。俺一人で敵うかどうかわからないけど、ここで全員倒してしまうしかない。とても頭の悪い考えだと思う。でも俺は無限コンテニューできる状態。ミカやカルアちゃんに危険が及ぶくらいならここで一人でも多く倒すべきだ。………。
「……ま、まて!」
「あん……?」
「なんだ、まだ生き残りがいたか」
「いや、俺様の毒霧の中じゃ生きられないだろ、普通……。テメェらは抗体を打ち込んでるから無事なのであってよ」
や、やっぱりこ、こわい! とてもこわい! あ、足が震えるし漏らしちゃいそうだし。魔神やSSSランクの魔物と対峙するよりはるかに感じるこの恐怖心はなんなんだろう。……やっぱり身内が殺されてるのを何度も目の当たりにしてるからかな。精神的な刷り込みというか。……でも、やるしかないんだ。
「この声、これはこれはアリム・ナリウェイさんではありませんかぁ~!」
「うん、そうだね! 私のコピー元、アリムちゃんだよ、この娘」
「ほう、自分が狙われていると気がついているはずなのに向かってくるのでござるか」
「どーやらこいつ一人だけみたいだな。大したもんだぜ。めちゃくちゃ震えてるけどな」
まず一番警戒すべきはニャルラトホテプの攻撃。カナタの能力を持ってるから直接心臓や脳を取り出すことでステータス関係なしに即死攻撃を仕掛けてくる。死んだらミカの元まで戻っちゃうし、そこからまたこいつらと対面するまで多少時間がかかっちゃう。
時点でブラックカオスドラゴン。ローズみたいにつのと耳元のヒレがついてるからきっと目をぎょろぎょろさせていかにも狂人って様子の人の隣にいるのがそうなんだろう。こいつはステータスを無効化できる。おそらく防御力やHPまで下がるわけじゃ無いんだろうけど、攻撃力や素早さは完全に奪われ、魔法もほとんど撃てなくなる。その状態で袋叩きにされたら何回再生しようとなす術はないだろう。
「たった一人で吾輩らに挑むなど笑止」
「たしかにかにかにかに、個としては強くても、てもても! わたわたわた私達まとめては無理リリリリ!」
「しかし拙者達、今まではそれぞれが強大な個だったのでござるがな」
「おいチョンマゲ、それは言うな。急に格が下がった感じになるだろ」
「どっちにしろこの娘はそれほどの者が集まって戦わなければならないということ。たしかに勝てるかもしれませんが、慢心はいけませんねぇ」
まずはカオスブラックドラゴンに身体能力を下げられてもいいよう、ロボットに変形できる武器兵器を全てポーチから取り出す。そして起動する。
「おー、流石アイテムマスター。どの人形もとんでもない代物だ」
「ヒュドルが扱ってた奴隷、何人分くらいなの?」
「一万人居ても足りないぜ、たぶん」
次にゾーンを展開する。ミカみたいに時間を止められればよかったんだけど、俺は習得しなかったから、スピードで物を言わせるしかない。ロボット達で撹乱しつつMPをたっくさん注いだ剣で全員を一撃で仕留める!
まずは一番厄介なニャルラトホテプ……と行きたいところだけどこいつは封印しなきゃ復活するから、カオスブラックドラゴンから。こいつさえ倒せば戦力差を覆せる。おそらく相手から見て一瞬よりも短い時間。俺はカオスブラックドラゴンにむけて剣を真上から振り下ろした。
血飛沫が飛ぶ。ただ、その血は俺に向かってくるのではなく、俺がいる方向から出ていた。前を見ればカオスブラックドラゴンの顔より少し手前に日本刀の刃。本人の後ろに腕を伸ばした侍。斬られたのは俺の腕。肘下から先が宙に浮いている。
燃やされてるような痛みが走り、集中状態も解ける。
「……っ!!?」
「くっ、なんだこの血は」
「勇者の腕から出た血でござるよ」
「そうか、まあ強くて美しく幼い、生娘の血を浴びるというのなら悪くない。最高の価値を持つ血と言える。ともかくチョンマゲ、助かったぞ」
「お主まで拙者をチョンマゲ呼ばわりでござるか」
「あとねクロ。アリム、生娘じゃないよ……」
「なん……だと……!?」
なんで、なんで俺が斬られた!? ステータスだけなら俺が圧倒してるはず。油断だってしてなかった。なのにどうして! ショーを斬った侍が俺の腕を持っていったみたいだけど……一体……。
「驚いてるでござるか? 先に言っておくでござる。今のはスキルなど一切使ってないでござるよ」
「あれだよあれ、武術を鍛えすぎて、相手の攻撃を気配で予測して先に攻撃できるってやつだよね!」
「そうそう、それでござる。あ、でも腕を斬ることができたのはスキルのおかげでござるな。拙者のスキルの一つは、斬れないものを完全に無くすという内容であるが故。だから……」
侍は刀をまるで時代劇の殺陣でも見てるかのように華麗に振った。その刹那、俺が作ったロボット達は細切れになり、全滅。
どれもこれも再生機能があるから良いし、俺の腕も自動的にアムリタで元に戻した。握ってた武器も自分から戻ってくる。
ただ……恐ろしく強い。想定以上に強かった。賢者であり導者でもある人間がここまで強いなんて……逆によくショーは片腕を斬られただけで済んだな。
「げ、見ろよ。もう腕が再生してやがる。こんな可愛い顔してるのに人間か疑いたくなるようなことするな」
「ヒュドルの毒が効いてない時点で相当だと思うよ」
「しかし十分に隙はできた。……吾輩を殺そうなどとは思えないほど完膚なきまでに叩き潰してくれる」
ど、どうしよ。負けるかも。




