第千十三話 誘拐対策
「……そうか」
翌朝、ギルマーズさんがお城にやってきて昨夜あったって出来事をまとめてきたの。俺も冒険者誘拐に対抗するものを考えるために朝から会議に出てその話を聞いた。
ギルマーズさん曰く、やっぱり誘拐の実行犯は俺の言ったニャルラトホテプだったって。でも姿は顔と体型だけ俺にそっくりで、髪と肌の色は変えてたらしい。アイデンティティを確立したかったのかな、初めて会った時に同じのは二つもいらないってコピー元のオリジナルを殺しにかかったし。
まあパッと見俺の真似ってわからないような姿で動いてくれるのは、何かあった時俺に濡れ衣がかからないからマシといえばマシかな。何もしてくれないのが一番だけどね。
「でもどうやってボクと弟の瞬間移動の力を持ってるあの魔物からパーティメンバーを守ったんですか? ステータス関係なしに相当手強いと思うのですが」
「いや、普通に攻撃かわして普通に追い払っただけだぜ?」
「ギルマーズならそんなこと余裕でできるだろうな」
「そうなんですか」
国王様もそういうんだからそうなんだろう。ぶっちゃけ、彼が単独でSSSランクの魔物を倒したり、勇者であるヘレルさんをタイマンで圧倒したりとすごい人なのはわかるんだけど、叶を倒せてしまったあの魔物が逃げるしかなくなるほどだとは思ってなかった。
……俺、ステータスにあぐらかいてたけどもしかしてギルマーズさんの方が強い……? いや、まさかね。
「ブフーラ王国といい我が国といい、どちらでも誘拐された冒険者が出ているということは他の国にも被害が広がっていると考えた方がいいだろう」
「メフィストファレスやニャルラトホテプ、人を誘拐しやすいスキルを持った敵のメンバーは結構いますからね」
「誘拐した冒険者はどうしてるんでしょうか、ヘレルさんをはじめ……」
殺人狂とかがいるから、殺してるのかな? たぶんヘレルさんくらいになったら光夫さんみたいに洗脳したり記憶消したりしてるんだろうけど。色々考えてたらギルマーズさんがその疑問に答えてくれた。
「おそらくヒュドルの奴のスキルで従わせてるんだろ」
「この国で捕らえてたポイズンマスターの人ですよね? そんなスキル持ってるんですか?」
「ああ、あいつは元々裏社会最大の奴隷商ってこともあってな、人を無理やり従わせる毒のスキルを複数所持しているんだ」
「じゃあヘレルさんや他の冒険者も……」
「ヘレルほど強かったらそう効かないとは思うが、他の奴らはたぶんそれだ」
この城に攻めてきたメンバーの組み合わせといい、アナザレベルはちゃんと相性を考えてチームを編成してるのがいやらしい。いや、戦いを挑んできてるんだからそれが普通なんだけど、漫画やゲームやアニメじゃ悪者はそういうのおざなりだったりすること多いから……現実はそうはいかないか。
「どうする。……注意を喚起しようとも相当な実力者でなければ相手にすることすら難しい敵だ」
「最悪、まだ殺されるだけなら誘拐されても問題はないんだけどな。アレがあるから……な」
ギルマーズさんはアムリタのことをしっている。あの日のあの時にアムリタの説明をして街の人たちを生き返らせるのを手伝ってもらった。その後記憶を消さなかった人の1人だ。この人ならアムリタが存在するって事実も安全に管理してくれるだろうって考えたからね。
ギルマーズさんの言う通り、可哀想だけど殺されてるだけならアムリタがあるから問題ないんだ。いや、問題は大アリだけど残された側としてはそう言う結論になってしまう。どうしてもね。ただあの俺を付け狙ってるアナザレベルがアムリタについて把握していないわけがないし、きっとさっき出た『操って従わせる』っていう行為に至ってるだろう。
「とりあえず、今すぐこのことを広報したら混乱を招きかねん。ギルド関係者や大手パーティのリーダーのみに伝え、各々で冒険者を見張ってもらおう」
「そうするしかないですね、今のところは」
「それから瓦版などを使って、徐々に、混乱を招かないペースで敵が現れたってことを浸透させていかなければならんな」
さらりとギルドやパーティに教えるなんて言ったけど、これメフィラド国内だけじゃなくてアナズム全体の話だからね、想像以上に大変だよ、伝えるだけでもきっと。そして何かが攻めてくるっていう意識を世界中の人に伝えるのはもっと難易度が高い。
「さて……ではまずすべきことは、この国内で既にどれほどの冒険者が誘拐されているか把握するところからだな」
そのことは私達に任せてくれと国王様は続けて言った。たしかにそういうところは任せるしかない。ギルマーズさんも今日は方々に顔をきかせて国王様のお手伝いするそうな。
俺はやっぱりこれから起こるであろう大規模な戦闘の準備をするしかないかな。あとは必要に応じてアイドルが如くみんなを元気付けたり。あとうちの家からまただれか襲われるとかってことないようにしなきゃ。……日々やる事がみんなに増えていく。




