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第千十一話 夜中の違和感

「……」



 メフィラド王国のとある場所にある館の一室。その部屋には様々な武器が飾られており、それらは全て伝説級を誇っている。真夜中だが、カーテンは開けっぱなし。この部屋の持ち主は、椅子に腰掛け、足を机に投げ出して窓から見える月を眺めながら物憂げにパイプを蒸していた。



「今回も規模がでけぇな……」



 男は誰に言うでもなくそう呟いた。そして、自身が所持している中でも一際強力なコレクション数本に目を移す。そのうち一本は、最近別世界からやってきたと判明した最高のアイテム制作スキルをもつ少女が作り出した剣である。男が念術をつかって剣を自分の手元に寄せようとしたその時、部屋の戸がノックされた。



「団長、僕です。どうせ寝てないんでしょう?」

「ああ、なんだ」

「ちょっと、僕も眠れなくて。お話でも」

「入れ入れ」



 中肉中背、丸坊主の髪型をした男性が彼の部屋に入る。団長と呼んだ男のコレクションを一望し感嘆の声を漏らした。



「相変わらずのコレクションっすね、団長。前に来た時より十本くらい増えてません?」

「まあ俺が個人的に金を使う先は、女か酒かタバコか武器かだからな」

「かなりあるっすね」

「お前はどれが好きだ?」

「あれですね」



 丸坊主の男性は少女の作った剣を指差した。男はパイプの煙を口から吐きながら口をにやけさせる。



「やっぱりそれ選ぶか」

「なんとなくわかるっすよ、アリムちゃんの作ったやつでしょ?」

「お前のモーニングスターもあの娘が作ったものだもんな、そりゃわかるか」

「いやー、ほんとあれには助かってるっす。お陰であと少しでSSランクになれそうっすよ」

「今Sランクの魔核9個集まってるもんな」



 男はパイプを吸うのをやめ、カーテンを閉め、部屋の明かりをつけた。一瞬にして薄暗かった部屋が明かりと金属の光沢により眩しいほどになる。坊主頭の男性は思わず目を瞑った。



「ひーっ、相変わらずの明るさっすね」

「まあな。明るい方が気分が晴れるだろ? ところでお前、あの娘をどう思う?」

「あの子って、アリムちゃん?」

「そうだ」

「そりゃアナズム一の可愛さをもってるなーって思ってるっすけど」

「グッズも集めてたよな」

「俺らの半分はそんなもんっすよ」



 事実、男が率いるメフィラド王国最大のパーティ、ピース・オブ・ヘラクレスの団員のほとんどはアリムのファンであり、世間でアリムグッズと呼ばれるものを各自で集めていた。団員同士でどれだけ集められたかを自慢し合うのは日常茶飯事であり、なかでも直接伝説級のモーニングスターを作ってもらえた丸坊主の男性団員はいつもその自慢大会で優位に立っていた。



「まぁ、いくらお前らがアリムちゃんをどれだけ応援してるかで競おうと、まだ有名じゃないころから知り合いの俺には敵わないけどな」

「いいっすよね〜、本当に。……でも団長、なんか嬉しそうじゃないっすね。なんかあったんすか? 最近、幹部達もみんな複雑そうな顔してるし」

「あ、ああ……いや、色々とな。近いうちにでかい仕事が入ってくるかもしれないんだ」

「そんな噂はちらほら聞くっすね」



 男は少しだけ目を閉じる。これから起こりうるだろうことに、パーティのリーダーとして乗り越えていけるかどうかを一筋の不安をかき消す為に。

 ……その目を閉じた一瞬、その一瞬に男の中でなにか違和感が湧き上がった。坊主頭の団員はそんな男の異変に気がついた。



「どうしたんすか、団長!」

「しっ、静かに。……お前、ここで待機してろ」

「え」

「ちょっと様子を見てくる」

「えっ」



 男はそう言うなり、一番近くにあったコレクションの得物を掴み、ステータスを生かした速さで団員の目の前から消えた。向かった先は団員達が普段過ごしている宿舎であった。もう真夜中にも近い為、部屋の半数は寝静まっていた。

 男は目を閉じ、何かしらの気配を探りながら宿舎の廊下を疾走していく。そして、ある一人の女性団員の部屋の前で立ち止まった。部屋の前には『睡眠中』の文字看板が扉から下げられている。



「……なにがくる……?」



 男は得物を構える。その姿勢のまま二分、扉の前で待ち続けた。

 そして何かの気配を再び感じ取ると共に得物でドアを破壊し部屋の中に突入、部屋を光属性の魔法で照らした。

 そこには女性団員と、その団員を念術で浮かせてどこかへ運ぼうとしている真っ只中であったとみれる、青髪褐色肌の見知らぬ少女がいた。



「なにをしようとしている?」

「え、うそ。なんでわかったの!?」

「そいつをベッドへ戻せ。俺の仲間だ。お前はどうせあれだろ、アナザレベルを名乗ってるやつの手下の一人だな」



 アリムと同い年ほどに見える褐色肌の少女は言われるままに女性団員をベッドに戻した。そして男の顔をしばらく驚いたような顔で凝視する。

 その少女の顔をじっくり見ることとなった男もまた驚いていた。年齢だけでなく、顔までアリムそっくりであったからだった。

 しかし男はその存在が何者か、すぐに気がつくことができた。



「お前あれだろ、アリムちゃんによく似た顔をしているが……ニャルラトホテプっつー魔物だろ? 違うか?」

「……重ね重ね驚いたよ、流石は武神、生きる伝説、アリム・ナリウェイが現れるまでアナズム全冒険者の中で最強だった男って呼ばれてるギルマーズだね!」

「その通りだが、今はそんなことどうだっていいんだ。お前、俺の仲間になにしようとしていた?」



 ニャルラトホテプは、今度はクスリと笑った。


 

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