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第千八話 人間味

「ぎゃああああああ!」



 一人の男の悲痛な声が、不思議な空間にこだまする。ヒュドルという男の特殊な毒をその身に入れられた男は生き絶えたように肩を落とした。しかしすぐに白目を向いた状態で力強く立ち上がる。口を開けたままヨダレを垂らし、意識が無いようなもの様子が見られた。



「こんなもんでいいのか?」

「便利でござるな、お主の毒は」

「メフィラド王国一の奴隷商でポイズンマスターなオレにはこのくらい朝飯前ってわけよ」

「これは……所謂ゾンビってやつですか」

「あ? ぞんびー?」

「アンデットって意味だよ。ねー、メフィストファレス!」



 しばらくしてヒュドルの手によってアンデットにさせられた男は口を閉じ、白目を向いたまま姿勢をただした。皮膚が緑色に変わって行く。それ以降、直立のまま動こうとはしなかった。



「よし、俺の兵隊第一号だな。この調子で各地から冒険者を掻っ攫ってきて俺たちの兵隊にしようぜ」

「私がさらって来なきゃいけないんですけど、そんな簡単に言わないでよ」

「お前なら簡単にできるだろうが。ま、でもこいつは捨て駒程度にしか使えないだろうな。どんな強かったやつでも簡単な作業しかできなくなる」

「本来の目的は同士討ちだ。戦力にならなくとも問題ない」

「お、クロ! どうだ本当の勇者の様子は」



 カオスブラックドラゴンの人間態は、何故かニヤニヤしている殺人狂のガイルを連れて皆の前までやってきた。近くにあった椅子腰をかけ、質問されたことに答える。



「この調子なら明日には吾輩達の仲間として迎い入れることができるだろう」

「おいおい、これで導者、賢者、勇者が全部揃うことになるのか? 豪華だな」

「だが吾輩は思うのだ。勇者とはいえあの男、本当に強いのか?」

「と、言いますと?」

「あの勇者、一度は悪魔になっている時点で今回の件を含めメフィスト、お前には二度負けていることになる。その上勇者や導者ですらないギルマーズという一般のSSSランカーにタイマンで敗北したというではないか。それも悪魔となって強化された状態で、だ」

「たーしたしたしたしかにかにかにかに! 私達との戦いでも! クロちゃんのスキルにひれひれひれれ! 悪魔になるまでひれ伏してるだけでしししししし!」

「クロちゃん言うな。だがまあ、そういうことだ」

「そんなことは……」

「いや、そりゃちげぇ」



 メフィストファレスはヘレルの弁護をしようと口を開こうとした。しかし先に発言したのはヒュドルであった。これはその場にいた誰もが以外であるという反応をみせた。彼は調子の悪そうな顔で話を続けた。



「ギルマーズ……おまえらはあの男の事をよくしらねぇからそんな事が言えるんだ」

「ヒュドルが震えるほどなんて相当だね?」

「ふ、震えてなんていねーよ。馬鹿なこと言ってると毒塗れにすんぞ!! あいつは俺が知る限り最強の男だ」

「……偽の勇者、その周りにいる賢者や転生者達よりも強いのでござるか?」

「どうだろうな。ありえなくはないぜ。とりあえず一つ言えるのは、カミサマによって強くなった今の俺ですら一人では勝てないってことだ」

「……ふーん」



 ヒュドルの話を聞き、イルメは急に機嫌が良さそうな表情を見せた。彼女はそのまま勢いよくヒュドルの背中に飛び乗り、今度は笑い出す。



「ふふふふ! じゃあ、もし戦うことになったら私がギルマーズを貰おうかな!」

「あ? お前は偽の勇者の記憶が入ってんだから、あいつの恐ろしさがわかるだろ?」

「実はねあの子、ギルマーズの強さについて大まかにしか知らないみたいなんだ! ヒュドルが怯えるほどだもん、興味あるなー! ね、みんないいでしょ?」



 イルメがそう言うと、カオスブラックドラゴンは立ち上がって彼女に近づいた。眉間に皺を寄せ、イルメをヒュドルから話しながら頭を掴んで忠告するように喋り出す。



「そんな面白そうな相手、吾輩が相手してやろうではないか」

「え、私が先に宣言したんだよ! それにクロにはあのスキルがあるでしょ? 楽に倒せたらつまんないじゃん」

「今まで強者として蔓延ってきたやつほど悲鳴のききがいがあるんだ」

「うわ、このヘンタイ!」



 イルメは瞬間移動でカオスブラックドラゴンの元を離れ、口を膨らませながらヒュドルの背中に出現した。今度はヒュドルがイルメの頭を掴み、自身から引き剥がす。



「おい、俺の背中で遊ぶな」

「えー、ダメ? 大きくて背負われ心地がいいんだもん! もうちょっと居させてくれたら、今夜は昨日よりサービスするよぉ」

「……変なことすんなよ」

「何をさせてるか大方の予想はつくが、少女の姿をした魔物とするその男の方が所謂変態ではないのでござろうか?」



 それを聞いたヒュドルは明らかに不機嫌そうになった。そして普段より若干早口で言い訳するように喋り出す。



「お、俺はお前らみたいにブシドーもねぇし、ドラゴンじゃねぇし、故郷に妻子がいるわけでもねぇし、痛みと甚振るのが快楽の本当の変態じゃねぇからな! 自分より強い奴を恐がりもするし、人間としての営みも必要なんだよ! あと女はこいつしかいねぇんだ!」

「私は一理あると思いますよ。ええ、仲間同士で仲が悪いよりはいいでしょう」

「わ、わかってくれるか!」

「まあ俺も元は人間でしたし、妻子もいるわけですからね」



 ヒュドルの一連の人間臭さを見たカオスブラックドラゴンは一際大きなため息をつくと、別室へと移動した。やはり人間は愚かだ、という一言を残して。

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