第九百九十七話 勇気とは
夜が明けて、起きて、朝ごはんをたべて。それから俺とミカは特にこれといって行動することなく日光のあたる場所でぼーっとしていた。普段だったらイチャイチャしたり、映画みたり、ゆっくりオヤツ作ったり、特にしなくてもいい家事等をしている時間帯。何もやる気が起きないというか、もうどうしたらいいのかわからない絶望感というか……とにかく動く気になれない。もちろん、国王様から呼び出される可能性はあるからそうなったらすぐに活動するけども。
ミカが俺を背中から抱きしめながら話しかけてきた。
「有夢、やっぱりこわい?」
「まあね……初めてRPGやった時のラスボス戦前くらいにはこわいよ」
「それってあんまり怖くないんじゃない?」
「当時は四歳だよ、そのことも踏まえてね」
「でも怖かったならゲーム続けてないでしょ?」
「まあ、そうだけど……」
「ふーむ……」
ミカは俺の両方のほっぺたを数回つつくと、つまみ、軽く伸ばし、グニグニしてきた。
「ひゃめてね」
「あゆむ……私もこわい」
む、ミカがこわがってる。それなら俺は怖がってる暇ないね。いざとなった時にミカを守るのは俺なんだから。
「だいひょうふだお! ミキャのこちょはオリェがじぇったいまもふ……そりょそりょこれひゃめてね」
「守ってくれなくていいから、無事でいて」
「ひぇ……」
「私自身の安否より、有夢がまた目の前からいなくなる方がこわいから。……ね、全員でどこかに逃げることはできない?」
至極真面目なトーンでミカはそう言った。相変わらずほっぺたから手は離してくれないけど。でもそっか、全員で逃げる……か。今まで立ち向かうか和解するかしか選んで来なかったから、そういう選択肢もあるよね。うん、確かにRPGにも逃げるってコマンドがしっかりとある。
「逃げる……ねー」
「有夢は見かけによらずそこそこ負けず嫌いだから、逃げるの嫌?」
「ううん、それが一番の解決策ならどこへでも逃げるよ」
「そっか」
「でもどこに逃げようか」
地球に引きこもろうにも、すでに向こうに影響を与えてきている。というか受けた被害で一番最初は誰かのお家の氷漬けだ。俺たち自体なら隕石だけど。
「そんなの、アイテムマスターなら新世界とか作ることできるんじゃない? 空間とかいくらでも作れるでしょ?」
「ほほう、空間だけマルっと作ってそこに住むのね」
「そうそう」
確かにそのくらいならやれそうだ。親しい人はみんなそこに引き込んで。でも、それって解決したことになるのかな。
「ほら、やっぱり不満そうな顔してる」
「え、してた?」
ミカが前に回り込んで俺の顔をのぞいてきた。表情に出てた覚えはないんだけどな。逃げるっていうこと自体は悪いアイデアじゃないと思うし。
「世界一つ作って私とずーっとイチャイチャラブラブするんだよ? どう?」
「逃げるのが目的じゃなかったの」
「そうだよね。……それに、まあ、現実的じゃないわよね。どっちみち」
ミカは悲しそうな顔から、哀しそうな笑顔になった。俺はそんなミカを抱きしめる。日向にいるから暖かいのに、なんだか寒い。
……ああ、こんなネガティブな話し合いをするのも、アナザレベルとやらに目をつけられてから何回目なんだろう。どうして弟が殺されたり、彼女が悲しそうな顔をしたり、友達の家が荒らされたりしなきゃならないんだ。そう考えたらなんだかとーってもイライラしてきたぞ。理不尽じゃないか、理由だってわからないし、自分で言うのはなんだけどこの見た目で多数の同性の趣味を歪めた以外には悪いことした覚えないし、ずっといい子にしてたはずなのに。
「よし」
「……どしたの?」
「今まであったこと全部話して、国王様とかギルマーズさんとかに協力してもらって、本格的にアナザレベルをどうにかしよう。もう俺たちだけの問題じゃないから協力してくれるはず」
「そ、そっちの方にやる気出すんだね」
「うん、なんで俺たちが受け身になってビクビクしなきゃいけないんだ。もうたくさんだよ! 俺だって怒るんだからね!!」
昨日がいい機会でしょ。いや、本当ならカナタがやられた時点でこうするべきだったと思う。ともかく反撃をしよう。このままじゃなにも解決しない。そのうち本当に、逃げるという選択肢しかなくなってしまわないように。
「……ふふ、まあ有夢がそう思ったなら、私はそれについてくだけだけど」
「うん、ありがと!」
さあ、まずはどうしようかしらん。
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【ふ、ふふふふ。やっとか……やっとその気を出したか】
とある空間で、誰かが笑っていた。
その声を偶然聞いていた者は、その存在に質問をする。
「え、やっとその気ってどういうこと? モノホンの勇者の洗脳、うまくいったの?」
「敬語でないとは、珍しいでござるな」
その存在は慌てて自分に協力してくれている、賢者と魔物にメッセージで返事をした。言い訳をするために。
【その通りですよ。手こずったので少々嬉しくなってしまいました】
「神様でもそういうことあるんだなぁ、おい」
「いやいやぁ、神様でも感情はあるのでしょう。喜怒哀楽のうちの一つくらいは見せても……ねぇ?」
【ええ。あと少しで勇者を私たちの仲間として紹介できそうです。それまでお待ちください】
ある存在は協力者たちとの会話を切った。そして、側で横たわっている誘拐してきた勇者には目もくれず、目の前にある画面に映し出されている光景を眺める。
「あ、目を離したスキにまたキスしてる。何かするたびにイチャつかないとダメなのだろうか、この子たちは……」




