第九百八十一話 神と道化
「とりあえず、なぜまた俺はこの世界にいるのでしょうか」
「うーんとね、神様が呼び出したからだよ!」
褐色肌の少女が元気に答えた。その少女はよく見ると、肌色と髪型以外は全てアリムに酷似していた。
メフィストファレスだった男、愛長光夫はもう一度よく辺りを見回す。居住できるようにできてはいるが、暗く禍々しい雰囲気を放っている空間。元々悪人として過ごしてきた光夫でもこの場にいるのは少々寒気を感じるほどだった。
「多く質問はありますが……俺を賢者として呼び出すにはまず術者がいないといけないはずです。エグドラシル神樹国の王族の。術者はどなたですか?」
【私ですよ、サマイエイル】
「メッセージの感覚、久しぶりですね……」
メッセージは届いているが送り主の姿は見当たらない。さらに光夫はなんだかそのメッセージに酷く懐かしさを覚えた。そして質問をするため返信しようとしたが、なぜか送り返すことができなかった。
「普通に喋った方が早いですか。……あなた、何者なんです?」
【私達は初対面ではありません】
「ではどこかでお会いしたことがあると?」
【そうですね、きちんと対話したのはあなたがアナズムに初めてきたばかりの時です】
「いや、はは……まさかアナズムの神様だとでもいうのですかあなた」
光夫が馬鹿馬鹿しいと言いたげに鼻で笑いながらそう言うと、周りにいる邪気を含んだもの達が同意するように頷いた。
頭にちょんまげを結っている男が親しげに話しかけてくる。
「信じられぬでござろうが、実はそうなんでござるよ。拙者も直にステータスから呼びかけてみたのでござるが、見事に対話できたのでござる」
「そう……ですか」
こんな場所に侍風の男がいること自体光夫にとって不可解だったが、この男からは他の者よりは悪い雰囲気を感じられないので気にするのは後にすることにした。
「たしかに神、アナザレベルならばあの王家の執事の者でなくても私を呼び出すことは可能でしょうね」
【納得していただけましたか】
「ええ、まあ、ある程度は。それでなぜ俺はアナズムに呼び戻されたのですか?」
【あなたに協力して頂きたいことがあるのです。ちなみにあなたの前にいる方々は皆、その協力者達なのですよ】
「なるほど、老若男女様々な人を集めているのですね」
光夫はもう一度その場にいる者達の顔をよく見た。しかし何度見てもやはり、侍以外はひどく悪人に見えてしまうのだった。アリム似の少女ですら大量に人を殺してきたような気がしてくる。
「それで俺が何か神様のお役に立てるのですかぁ? 俺はあなたが統治するアナズムの住民を魔人と手を組んで何万人と殺した大罪人ですよ? 死んだ者はほとんど生き返ったとはいえ、もう少しいい人選があったのではないですか?」
【いえ、あなたが前に何をしていようが関係ありません。私は見ていましたし】
「でしょうね。正直な話、ステータスの介入からはっきり存在しているとわかっているのに私やサマイエイルが何をしてもお咎めはなかったですから、そこらへんには無関心だったのでしょう。それに……」
光夫は少女の真後ろにいる男似注目した。この男については光夫は記憶にあったのだった。
「そう、女の子の後ろにいる彼。戦争を仕掛ける前に俺たちの計画の障害になるかもしれないSSSランクの冒険者は引退した者も含めて知見を集めていましたが……彼も俺ほどではありませんが多くの人間の人生を踏み潰した大罪人。そしてかなり厳重に投獄されていたはず」
「おお、よく知ってんじゃねぇか」
「俺の故郷には奴隷制なんてないんです。俺から見たら貴方はそれだけ衝撃的だったのですよ。で、そんな男もその協力者とやらに含まれている。なにが目的なのですか? 人選が正気とは思えない」
「なんだと?」
男は身体から毒を噴出しようとしたが、周りの者がなだめてそれを止めた。光夫をはそれを気にすることなく神と名乗る声と話を続けることにした。
【神が正義だと誰が決めたのですか?】
「たしかにそうですが、中には貴方を信じて信仰している方々だって何百万人といるのに。……とりあえずその件については別に良いです。それで、わざわざ普通の生活に戻った俺を呼び戻してまでやってほしい事とはなんなのですか?」
【ある者達を滅してほしいのです】
「ある者達……なんだか嫌な予感がしますね。まさかだとは思いますが……」
「うん、そのまさかだよ! 成上ちゃん兄弟に、曲木ちゃん姉妹に、火野くんにフエンちゃん! そしてその他楽しい仲間たち!」
少女がアリムは絶対にしないであろう邪悪な笑みを浮かべながらアナザレベルの代わりに答えた。その答えを聞いた瞬間、光夫は躊躇することなく右手に自身のスキルで魔法の鎌をつくりだした。
「俺は大罪人ですが、恩人を、それもあんな良い子供達を殺す趣味はありません。むしろ俺はアナズムに呼ばれたこと自体に恨みがあるのです。なぜ恨むべき対象の願いを聞き、恩人を滅さなければならないのです? 馬鹿げている! 貴方方全員があの子達の敵となるならば……こんなこと言ったらあの子にまた怒られるかもしれませんが……貴方たちを殺します」
【やはりこうなりましたね。わかってました。……幻転丸さん、手筈通りお願いしますよ】
「承知した」
鎌を向けている光夫の前に幻転丸と呼ばれた侍のような姿をした男が出てきた。いつでも抜刀する準備はできているようだった。
「ゲンテン……! その名前を聞いたことがありますよ。それ、変なコスプレだと思っていましたが……貴方本物の侍なのですね」
「お、拙者のことも存じていたか」
「賢者として俺の大先輩ですね。そして賢者ならなんにせよ厄介だ。貴方も殺しますね」
「やれるものならやってみるがいいでござるよ。まあ、無理でござろうが」
光夫は幻転丸に向かって魔法で作った鎌を振り下ろした。
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ミツオサン が タタカッテルョ!!




