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第九百六十話 それぞれの指輪

「じゃあ、とりあえずそれ渡したからね!」

「わかった」



 有夢から指輪と糸を貰った。なんだか詳しい説明は省かれちまったが、とりあえずこのペアリングセットはお互いに二度と離れられなくなる効果があるらしい。パートナーと共に付け、一方が死んだらそのパートナーの隣で生き返る。封印されたり別世界に飛ばされてもすぐに抜け出して隣に来るって代物。離れようとしても絶対に離れられなくなるわけだな、文字通り、死んでも。だから有夢は俺とリルにこれをつけるかどうかよく相談してくれと言っていた。

 いくら俺らがラブラブだと言っても何があっても一生離れられなくなるっていう効果をきくとなんだか壮大に感じる。もし嫌いな人間同士がこれを付けられたら最悪以外の何物でもないだろうな。俺の腹は決まってるが……リルはどうするんだろう。



「なあリル、どうするんだ」

「……ショーは私と一生一緒に居られるかい?」

「ああ」



 即答してやるとリルは嬉しそうに口をにやけさせ、目を玉のように輝かせた。尻尾も荒ぶっている、目に見えて幸せそうだ。くっそかわいいな、なんだこいつは。



「私もショーが良いなら一生側にいたいよ」

「そうか」

「つ、つけようよ。 あ、でも左手の薬指はダメだよ、そこは婚約指輪や結婚指輪にするんだ」

「そうだな」


 

 俺らは同じ指に指輪をはめ、互いの小指に赤い糸を括り付けた。赤い糸はしばらく経ったら消えた。体に吸収された感覚だ。指輪は自由に透明化出来るらしいが、外すことは二度とできないと思っても良いらしいな。それで構わないが。



「わーふーっ」

「よしよし」



 これでお互い死んでも自動的に生き返るわけだ。同時に死んだりしなきゃな。このあいだの叶君の件もあるし、そういう効果の指輪と糸を貰えたのは正直安心する。

 ……だが有夢はこれを結構前から付けてたらしいな、美花と一緒に。あいつらどれだけラブラブなんだ? いや、あの二人だからこそと言ったところか。こんな死んでも離れられないような装備をつくった有夢もおかしいが、たぶん美花も即決したんだろうな。美花はわかるんだ、あの時頃のあの絶望具合と言ったら……。



「わふわふわふわふ」

「………」



 俺もその絶望感は理解してるつもりだ。もしかしたらこの指輪は絶望感が生み出した代物なのかもな。



◆◆◆



「……だって、どうする?」



 兄から指輪と糸を手渡され、その説明を受けた叶はすぐに桜と相談した。桜はすぐさま付けようと言おうとしたが、一瞬冷静になり、よく考えてみることにした。



「か、かにゃたはどうしたい?」

「俺? 桜さえ良ければすぐにつけるよ」

「そ、そっか」



 一分の迷いもなく叶はそう言い切った。桜は照れながら答えを返す。



「わ、私もつける」

「一応聞くけど、後悔はしない?」

「結婚の約束までしておいて?」

「だよね、じゃあ」



 お互い同じ指に指輪をはめ、小指に赤い糸を括り付けた。桜はつけた指輪を優しくひとなでして微笑んだ。



「これでかにゃた一昨日みたいな目にあっても、すぐ私の隣に戻ってきてくれる……!」

「こんなのあるんだったらもっと早く教えてくれればいいのに、兄ちゃんったら」

「仕方ないんじゃない? だって一生って重いじゃない」

「まあね」



 叶も自分に付けられた指輪を眺め始めた。生活しやすいことを求め、微細に掘られた金の模様があるのみのシンプルな指輪。しかしその指輪の模様は最高峰の細工職人を思わせる出来上がり。実際その通りなのだが。

 


「そういえば兄ちゃんがこれ作ったんだよね」

「そうね? あゆにぃとお姉ちゃんも多分つけてるんでしょ」

「うん、さっき前の美花ねぇの誕生日からつけてるって言ってた。美花ねぇならともかく、兄ちゃんってこんな束縛の強い効果を思いつくような性格だったっけ?」

「……前にお姉ちゃんに聞いたんだけど、一度、あのサマイエイルって魔神にお姉ちゃん……」

「ああ、そうだったね。それなら納得だ」



 叶は考えた。あの兄がどうな思いでこれを作ったのかを。自分が死んだことで絶望を味わった桜のことを見てみる。桜はうっとりしたように再び指輪を眺めていた。

 叶は想像してみた。もし桜が自分の前で死んでしまったら。それも内臓を抉られたり、体を衝撃でバラバラにされてしまったり、よくわかんない力により突然死させられたり、灰にさせられたり。そのちょっと想像してみた瞬間に叶の全身に寒気が走った。そして予感した、自分は壊れてしまうだろうと。



「桜」

「なぁに? なんで腕広げてるの?」

「ちょっと抱きしめたくなって」

「……? いいけど」



 自分に向かって歩いてくる桜をハグし、叶は良い指輪を作ってくれた兄に感謝した。



「かにゃた……なんかこの指輪、結婚した気分になるね」

「ん? つけた場所は薬指じゃないでしょ?」

「それでもよ。ずっと一緒に居られる」



 ニッコリと嬉しそうに笑う桜に心を打たれた叶は、その場で思考を停止させ、抱きしめる力を強くした。



#####


なんべんも言って申し訳ないですが、、Levelmakerの書籍版の発売まであと6日ですよ……。これ多分、夜遅くに投稿してるので実質あと5日ですね。

なんだか底知れぬパワーが奥底からふつふつと湧き上がってくるような気がしますよ。

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