第九百五十一話 朝の呼び出し
「ふぁ……おはよ」
「おはよう、あゆむっ」
「昨日は寝落ちしちゃったはずなんだけどなぁ。ずっと俺にしがみついてたの?」
「離れないでって言ったじゃない」
「物理的にかぁ」
ニコニコしながら抱きついてくるのは可愛いからいいんだけど、服を着ることすらできない。ミカは冗談だと笑いながら下着だけ着てマジックルームから出ていった。しばらくご飯はミカが作ってくれるって言ったからね、朝ご飯を作るんだろうね。
俺もささっとお湯を浴びて着替えてからマジックルームから出る。食卓には生クリームと果物のシロップ漬けが乗ったホットケーキが置いてあった。
「甘いものは元気が出るから今朝はクリームたっぷりホットケーキね!」
「いいねー」
シナモンや蜂蜜もかけてあって美味しい。
さて、今日はどうなるんだろうか。昨日はミカが予感したいた通りとんでもないことになった。アナザレベルという神様が何かを組織しようとしていることがわかったし、ものすごく強いSSSランクの魔物にカナタが殺されてしまった。ショーもサムライに斬られるだなんて奇怪な目にあったし。
これからどんどん面倒なことがやってくるに違いない。……もしアナザレベルがSSSランクの魔物の大量発生や、サムライの出現、凶悪犯の脱獄、これら全てに関与しているなら元をなんとかすれば一気に解決しそうだけど……うーん、そう簡単にはいかないんだろうなぁ。
「そういえばさー、あゆむー」
「んー?」
「私と有夢が離れられないようになったみたいに、桜と叶君、翔とリルちゃんにも同じペアリングと赤い糸をあげたら? この二つ装備してればどっちか一方が昨日の叶君みたいになっても、一方が生きてれば生き返るんでしょ?」
「うん、神具級の装備だからね。それと生き返る時はペアの隣で生き返るよ。封印されてもすぐ隣に現れるし」
「そうなんだ!」
だから漫画みたいに不死身の敵をずっとダメージを与えてくれる場所に飛ばして、復活を無意味にするっていうのはあるけれど俺とミカはその点は大丈夫なんだ。
それにしても、武器を新調するよりそれを作った方が良かったかな。そうだよね、やっぱり。誰か死ぬなんて考えたこともなかったから今までやらなかったけどさ。今日の作業はここに住んでるカップル(既婚者含む)の分だけ指輪と糸をつくることにしたほうがいいかもしれない。流石に指輪はミカの誕生日にあげた特別なものだからデザインは変えるけどね。
「ミカの言う通り、今日はそれらを作ることにするよ」
「それがいいわよ。食べたら早速作るの?」
「うん、そうする」
朝ご飯を食べ終わって身だしなみを整え、作業に入る頃には午前9時くらいになっていた。おそらくここに住んでる人数分作るのだとしたらマジックルームにこもって6時間はかかるだろうから、頑張って作らなきゃ! たくさん作業してもずっと平静でいられるのが俺の強みだし。
「じゃあ作ってくるよ」
「頑張ってねー」
【有夢、叶、美花ちゃん、桜ちゃん、翔くん、リルちゃん……ちょっと全員聞いてくれるかな?】
「あれ、おじさんからだね?」
たしかにうちのお父さんからだ。今言った大人に属してないこの屋敷の住人全員にメッセージを送ったみたい。なんだか優しい感じじゃなくて研究の話をする時みたいに真面目な雰囲気を醸し出している。
【いつも集まってるのは食堂だから、そこがいい。真面目な話をしたい。全員10時にそこに集まってくれないかい。じゃあ頼んだよ。話といってもお昼時までには終わるからね】
返事をする前にメッセージはきれた。
なんだか小さい頃に怒られた時のことを思い出す。普段は俺みたいにまるで女の子みたいな見た目だし喋り方も不思議でフワフワした感じのお父さんだけど、真面目に話さなければいけない時は急に背中が大きくなると言うか、なんというか……男の人っぽくなる。まさに今はそれだ。となると相当なことを話すらしい。
まあそれも仕方ないか。昨日はあれだけのことがあったし、この状況だし。親として何か言ってきてもおかしくない。いや、むしろそれが普通かもしれない。
作業はできなくなったけど仕方ない。
「なんだろうね?」
「なんか怒られそうな雰囲気……」
「わかる?」
「わかるわよ、有夢がおじさんに怒られてるとこ見たことあるもん」
「そうだったっけ」
いつのことだったかな。少なくとも小学生になる前だと思うけど。それが最後に怒られた時だし。俺ってゲームばっかりやってた割にはあんまり怒られなかったっけな。カナタはもっと怒られてないけどね。
膝枕と耳かきをしてもらい、1時間の暇を潰した。俺とミカは食堂に向かう。途中で他4人ともに会ったけどみんななんで呼ばれたか検討ついていないみたいだった。あ、カナタだけはなんか察した感じだったかな。
食堂に入るとお父さんとお母さんだけでなく、美花のとこのおじさんとおばさん、翔のところの親父さんとおばさん、リルちゃんのお母さんとお父さんが険しそうだったり悲しげな顔をして立っていた。
お父さんが口を開いた。やっぱり雰囲気は真面目だ。顔は相変わらず女の子だけどね。
「みんな時間通りだ。いい子だね。椅子に座って楽にしてね。……そうそう。じゃあ何から話そうかな」




