第九百四十八話 多忙すぎる1日の終わり
「ふぃー、終わった終わった」
装置に一定値以上の魔力を持つ人間も映せるように改装の最終調整が終わった。データを見る限りでは案外、アナズムにはSSSランクの冒険者はいなくもないみたいで俺らがSSランクの魔物を俺らは対処してないのにいつもあまり人里の方で被害が出ないのは納得がいった。
ただ、最初にちょこっとだけ機能追加をしてから1時間くらい、観測機にアナズム中探させたんだけど、侍と脱獄犯らしき魔力はどこにもなかった。俺の作ったアイテムから逃れるなんてことは普通ありえないし、ニャルラトホテイプって魔物がカナタの瞬間移動から逃れられているように、あの二人も俺の予想がつかず力も及ばない場所に匿われてるのかもしれない。としたら二人と一匹は同じ場所にいるんだろうか? 戦力としてニャルラトホテイプを保有する可能性だって十分に考えられる。
ともかく今日の仕事は終わったんだ、夜になったら相手も休むっていう希望にすぎない仮説を信じて、これから何もない事を願おう。
「終わった?」
「終わった終わった! やっとだよ。でもどれだけ調整してもサムライと脱獄犯とニャルラトホテイプは見つからなかった」
「でもこれで決まったようなものでしょ? その三方は組んでるって」
「うん」
「お夕飯これから作るよ。何が食べたい?」
「ミカを……」
「んふふ、それは後でね」
「今日はカレーライスがいいな」
「わかった!」
スパイシーで元気が出そうなものを食べたい。いくら心の準備はできてたって、こんだけのことがあれば疲労困憊。どうせまた明日も面倒なことになるんだから少しでも英気を養わないと。
「できたよー。力が出そうな食材をたくさん使ったからね」
「気がきくなぁ」
「なにせ有夢の未来のお嫁さんですから! さ、食べよ!」
本当はミカだって疲れてるはずなんだけどな、俺に気を使わせちゃって悪いな。本当に早く俺たちにとって平和にしてのんびり暮らしたいよ。
「そういえばさ、有夢」
「なぁに?」
「あの叶君を手にかけた液状の魔物、二人の記憶もコピーしたのよね?」
「うん。そうじゃなきゃ、いきなり瞬間移動とアイテムマスターをあそこまで使いこなせないよ」
「……じ、じゃあさ、もしかして……よ?」
ミカが恥ずかしそうにもじもじしながら何か喋ってる。このまで恥ずかしがるなんてめずらしい。ちょっとよく聞き取れなかったけど幼馴染としての勘で、なんとなく何が言いたかったかわかった。
ミカが言いたかったのは、記憶を見られたということは自分と俺が様々なイチャイチャをした事を読み取られたんじゃないかという事だった。……そう考えると、たぶん漏れなく見られちゃってるだろうね。
「やっぱり見られてるよね? やーっ……」
「は、恥ずかしいね。でもミカがここまで恥ずかしがるのは予想外だな。俺の前じゃすぐ着てるものを脱ぎ捨てるのに」
「そりゃ私は有夢のモノだもの。専用なの。だから二人だけの思い出を赤の他魔物に知られるなんて最悪よ。恥ずかしがってるっていうより、腹立たしいの」
確かにそうだ。うむむ、あの魔物にはどうやら何個も借りができちゃったみたいだね。カナタが復讐心に燃えてるけど、俺も見つけ次第とっちめないと。アナズム中に俺が本当は男だって事を言いふらされたら困るし。
「そだね、早くなんとかしないとね」
「有夢との思い出は私と有夢だけのものなんだからね」
「うんうん」
しばらくミカの俺へ愛を語ったような愚痴は続いた。それが止むころには二人ともカレーを食べ終わってお風呂に入るころになっていた。ミカが一緒に入ろうと誘ってきたので、一緒に入ることにする。無論、女同士じゃなくて普通の性別のままで。体を洗いっこして湯船に浸かるなり、ミカがしんみりした様子で抱きついてきた。
「今日はころころ表情が変わるね」
「……食事中だったからしんみりしたこと話せなくて」
「なるほど。じゃあ好きなだけ話してよ」
「うん。叶君がやられちゃった時、私、なんというか少しだけフラッシュバックしたの。有夢が死んじゃった時のこと」
「ああ……」
「私ならわかるよ。数時間経った今でも、たぶん桜は精神崩壊したみたいに泣きじゃくってると思う。……ねぇ有夢、いくら私と有夢は身も心も繋がってて、アイテムによってお互い別れられないようになってたとしても不安で不安で仕方ないの! ね、怖いの」
ミカの身体は震え始めた。俺はミカをそっと抱きしめ返した。お肌がスベスベしてる。
「だから、戦わないでとは言わないから、私からもう離れないでね? お願いね?」
「俺も同じだよ、当たり前だけどミカもだよ?」
「うん、私も絶対離れない」
お風呂から上がった後は、ニャルラトホテイプに記憶を覗かれて恥ずかしいと言ったにもかかわらずお互い昨日のようにマジックルームにこもっていちゃついた。
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レベルメーカーの書籍、最終の校正まで行きました!
すごいですよ、ちゃんとラノベのようになってて感動しました。
ラノベのようっていうかそのままラノベなんですけどれどもね、誤字脱字もないからもうすっかり垢抜けた感じになってるんですよー。
楽しみにしててくださいねーっ。




