第九百四十三話 サムライ 2 (翔)
【ショーーーッ!!?】
「ほほう」
痛いっつーか、むしろ綺麗に切れすぎて痛くない。出血だけが心配だが、俺はすぐに念術で切られた腕を浮かせ傷口に密着させてから回復魔法を唱えることによりすぐさま接合させた。何故だろう、案外冷静だな、俺。
「これはかなりの強豪……。身体の芯から二つに割ろうと斬撃を放ったが、まさか避けられてしまうとは。それに、腕を切ったとてあまり意味はなかったようでござるな」
「……なー、どう見ても人にしかみえねーが、敵って事でいいんだよな?」
「拙者は鼻からそのつもりでござるよ」
だが一体どうなってやがる? 斬撃を飛ばすくらいはこの世界じゃ普通のことだが、俺のステータスの素早さで追い切れず、防御も意味がないとは。カンストしてんだぞ? これより上なんてあるわけねーだろ。
致命傷にならなかったってのも、おそらく日頃から格闘技やってて戦いに対する勘が身についてたからだ。おそらく、俺以外が対峙してたらさっきので死んでたな。
「しかし、嬉しいでござるな。すてぇたすを上げるだけでは強くはならぬ、スキルで剣技を身につけるだけでもいけない。すてぇたすより外の本人の練度……これも戦いにおいて重要だと気がついたのでござる。……まさか同じような考えの人間が居たとは。いやはや、殺すのが惜しいでござるよ」
そうだったのか。
叶君の話ではエグドラシル神樹国にはやけに剣の鍛錬にこだわる兵士長が居たらしいが、ステータスとスキルと自己鍛錬は別物とはな。となると俺の体術はめちゃくちゃ強いんじゃねーのか? いままで魔法だけで戦ってきたが、リルと出会ったばかりの頃みたいに柔道の技も使っていけば有夢や叶に追いつけるだろうか。
とりあえずこの侍は敵だ。命すら狙ってくる。謎や疑問点はあまりにも多すぎるが、技量でステータスすら凌駕してくる剣技ってのは恐ろしい。ここでなんとかしねーとな。
【ショー、大丈夫かい!?】
【ああ、なんともねーよ】
【翔さん、一旦引きますか?】
【叶君、無事なのか? いや……こいつはここで倒していく。そのままモニターで様子見ていてくれ】
【わかりました】
心配してくれてるな。だからこそあいつらに危害が及ばないように、魔物相手じゃねーけど……この侍をなんとかしなきゃいけねー。
つっても、俺には人を殺すことはできない。とりあえず、封印するのが最善か。人って封印できるのか?
「……脳内でやり取りをしたでござるな? お主の齢なら思い人の一人もいるでござろう。別れの句は告げられたでござるか?」
「いや、お前を倒して帰るという連絡をした」
「はははは、それは良い。やはり負けることを勘定に入れるような弱者とは戦っても面白くないでござるからな。ますます殺すのが惜しいでござるな?」
くる。
いや、来た。ほぼ勘だが次の斬撃は回避することができた。あぶねー……だがこの感覚だな。もう忘れねーからな。
「見事。だが次は外さぬ」
再び刀を振るう。本物(?)の侍と戦うってのはなんだか新鮮な感じがするが、漂う強者感というべきか、一筋縄じゃいかねーような気迫がある。
だが俺の、幼い頃からしてきた柔道の鍛錬も伊達じゃねー。ステータス、スキル、己の技量の全てを使って一瞬で侍の懐に潜り込み、襟首と刀を持つ手をうまく掴んでそこから背負い投げをしてやった。思いっきり地面に叩きつける。
「おりゃっ!」
「なっ、ぐおおおお!」
あまりに思いっきり投げすぎたからか、侍を中心に地面にでっかいクレーターができちまった。
だが今のでは死ななかったようだ。ボロボロになりながらも、ふらふらと侍は立ち上がってきた。
「これは凄まじい……どうやら地の実力は大きく差が開いているようでござるな」
「逆にあんたも、よく生きてられたな」
「ははははは、あまり、賢者を舐めるんじゃない」
「なんだと?」
今賢者と言ったか? この侍は俺たちと賢者なのか? まさか、過去から連れてきたとかじゃねーだろうな……。
「っと……それじゃあ拙者も十割の本気を出してお主を迎え撃つとするでござるよ……っと? あれ?」
俺に向かって再び刀を抜いた侍の動きが止まった。どうやら誰かとメッセージでやり取りをしているらしい。そんな感じがする。
「……ふむ、どうやら戦いはここまでのようでござるな。拙者から喧嘩を振っておいてなんでござるが、拙者の敬愛する者から呼び出されたでござる。さらばでござる。またきっと合間見えるで候」
「お、おい、ちょっと待て……はっ?」
叶君の瞬間移動を使ったかのように、サムライがその場から一瞬で消えた。……なんなんだ一体。今までとかってが違いすぎて全くワカンねー……。
【えっと、ショーさんもとりあえず戻ってきますか】
【あ、ああ、そうしてくれ】
俺は叶君の瞬間移動で屋敷まで帰った。
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それはそうと、私は本日でハタチになりました。お酒って美味しいんですかね? アルコール消毒で肌が荒れるので、たぶん飲めませんが……。




