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第九百四十一話 何重もの恐怖

【あゆにぃぃぃ! かにゃたがあああああああああ】



 サクラちゃんによる悲痛のこもったメッセージが送られてきたのち、一番冷静な口調で連絡を取ってきたリルちゃんの話でカナタに何が起こったかを把握できた。

 俺が対峙したニャルラトホテイプは倒しきれていなかった……というより倒しても任意の場所で復活することができる能力を持っていたため、カナタの元に現れた。そしてカナタの姿と記憶とスキルをコピーし、おそらく俺の記憶を参考にしたのであろう、不意打ちに弱いという弱点を突いて殺してしまったと聞かされた。

 はっきり言って衝撃的だった。何重にも。

 俺の屋敷に住むメンバーの中で下手したら俺より強いのはカナタだけだった。そんな強さを持ち、俺の大事な弟であるカナタが殺されてしまった。全部俺の責任だ。俺が取り逃がした敵が、俺の弟を殺す。最悪じゃないかこんなの。

 それに保持している能力も恐ろしい。俺やカナタからコピーしたスキルを除いても、倒されても復活できることと復活する際に場所を選べるなんてのがあったらしい。つまり、あいつは倒すんじゃなくて封印するしかなかったわけだ。

 俺は全速力で空中を闊歩し、カナタが殺されたという現場までたどり着いた。3分ほどで着く場所だったことだけが幸いだ。そこから俺はトズマホで、カナタのトズマホの場所を探知し念術で海の底から引き揚げた。

 お腹にはずっぽりと、昨日俺が作ってあげた武器の槍形態が突き刺さっており、普通心臓があるはずの場所には風穴が空いていた。なにより死体になっていることと海の底に沈んだおかげで、氷のように冷たい。こんな有様になっててもその顔は美少年を保ってる。

 すぐさま足場を作って全身をアイテムを駆使して綺麗にしてやり、それからアムリタをひと瓶丸ごと振りかけた。

 30秒ほど経った頃に、カナタは目を開けた。



「に……にいちゃん……?」

「かなた……かなたぁあ……あああっ……あああああ」

「うぐっ、そんな抱きしめないで、苦しいよにいちゃん。大体の事情はわかってるからさ、ほら、泣かないで一旦屋敷に戻ろう」

「うええええええぇぇぇ、かなたあああああああ。ごめんねぇ、ごめんねぇ……ごめんねぇ、お兄ちゃんのせいでえぇえええっ」

「にいちゃんのせいじゃないって、ほら、戻るよ」



 無理やりスキルが使われたのか、気がつけばカナタを抱きしめたままいつも集まっている場所へと移動していた。それに気がついた時には、俺が思わずカナタから離れてしまうほど猛スピードでサクラちゃんがカナタに飛びかかっていた。



「かにゃたああああああああああああああああ、ああああああああああああああ! うわああああああああああ!!」



 サクラちゃん以外にもみんな悲しそうな顔でカナタの周りに集まってくる。……どう考えても俺の失態だから、謝らなきゃ、改めて。



「本当にごめんなさいっ。完全に油断してたの! 本当にごめんなさい、カナタ!」

「だからにいちゃんはこれっぽっちも悪くないよ。あんな能力、普通は予測できないしね。それに油断していたとしたらその一番は確実に俺だよ」

「うええええええええ」

「よしよし、サクラも泣かないで」



 サクラちゃんをなだめているカナタは多分、この中で一番落ち着いてる様子を見せている。と、同時に相当悔しがってることがわかる。行動と口調自体は俺とサクラちゃんをあやすためかとっても優しいのに、表情にはこの上ない怒りが溢れているよ。



「わふ、とりあえずカナタ君自体はなんとかなったけれど……どうするんだい? あゆちゃんとカナタ君のスキルと記憶をコピーした上で、復活と分身能力まで持ってる魔物がどっか行っちゃったけれど」

「その心配はないです。これから俺が倒しに行きます」

「か、かにゃた!?」

「わふ……それはやめておいた方が……」



 リルちゃんの言う通りだ。そんな、魔神にも匹敵してしまうような力を身につけた魔物を、やられてしまったばかりのカナタが行くなんて。負けず嫌いだから悔しいのはわかるけれど、絶対にやめておいた方がいい。



「リルちゃんのいう通りだよ、叶君。場所もわからないだろうし、これからすぐ向かうっていうのは無謀なんじゃないかしら。有夢のスキルを応用してうまく姿も隠してるだろうし」

「それは大丈夫だよ、みか姉。実は俺のスキル、瞬間移動先にマーキングができるんだ。……不意打ちされた瞬間、俺の意識が正常に保てなくなることは予測できたから、咄嗟にマーキングしておいたんだよ」



 そういうところは本当にカナタって感じだよね。ってことは殺されて俺に生き返らせられるところまでは計算してたのかな。みんなを心配させて……いや、そうするしかなかったのかも。



「俺やにいちゃん以外にも、アナズムのSSSランカーには強力なスキルを持ってる人が結構いるんだ。マスターって名前のついてるのは特にね。だからあいつを今止めなきゃならない」

「で、でもかにゃた……!」

「ごめんね桜、それにみんな。止めたい気持ちはわかるんだ、でも、俺にはアイツを倒さなければならない義務があるし、観測の難航が予想される中、迅速に対応できるのは俺しかいない。そして……次は絶対に負けないよ」


 

 次は絶対に負けない……そう言うってことは、もう対策とか何から何まですでに計算済みなんだろう。こうなったらカナタは負けない。本当の本当なら俺が行くべきなんだろうけれど、いち早く動けるのがカナタで、対策も取れてるっぽい以上……兄として情けないけど、任せるしかないのかな。



「そこまで言うなら言ってくるといい。……ただ、もう死なないでくれ」

「わかったよ、父さん。……じゃあ」



 カナタはサクラちゃんを離させてから瞬間移動を使おうとした。しかし、瞬間移動は発動しなかった。



「……あれ?」

「飛べないの?」

「……うん」

「マーキングしてなかったとか?」

「いや、それはない」



 能力が消えたと言う線も、ここに帰ってくるまでには瞬間移動で来てるわけだしないだろう。



「俺のスキルやアイテムで回避できるようなものじゃないし、一つ考えられるとしたら、瞬間移動できないような場所にいる事くらいか……でもそんな場所って……」

「わ、わふー!? わふーーっ! ショーーーッ」

「ん?」



 リルちゃんがモニターの画面をみて慌てふためいてる。

 瞬間移動できないことはひとまず置いておき、俺たちはリルちゃんの元に近づいた。



「どうしたの?」

「わふ……ショーが……ショーが……!」



 リルちゃんの指差す通りに、俺らも画面をみた。

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