第九百四十話 獄中
メフィラド王国城下町の大罪人収容所____________。
「昼飯だ」
厳重に固められた牢屋に、お盆に乗せられたパンとスープ、干し肉が兵士の手によって持ってこられた。別の兵士がそれをひっかけ棒を使ってお盆を獄中の囚人の前まで滑らせる。
「今日はチャイルドラゴン肉のベーコンが食いたい気分なんだが」
「………」
「まあいい。脚と手をこんながんじがらめに拘束されちまったら食いにくい。外してくれよ、なぁ?」
「………」
兵士達は囚人と必要以上のことを喋ろうとはしなかった。囚人は収容された日からその対応が変わらないことはわかっていたので、大人しく身体を前に突き出し、口のみで犬のように食事を始めた。
ものの5分程度で食事が終わり、兵士がそれを確認するとお盆はひっかけ棒により下げられる。
「は、ははは、はははははは、ははははははははは! 惨めだよなぁ! おいっ! 惨めだ! ははははははははは! そう思うだろお前ら、え?」
囚人がそう兵士たちに叫ぶように呼びかけるも、彼らはうるさそうに耳を塞ぐ。その態度をとることも彼はわかっており、聞いていないこと前提で叫ぶことを続ける。
「惨めだよなぁ、惨めだ、ははははは! アナズムで一番の奴隷商だったこの俺が! こぉぉんなくっせーところに収容されてるぅ! 惨め、惨め、惨めぇぇぇ!! 惨め、惨め!」
繰り返し狂ったように囚人は自分の頭を強く地面に叩きつける。ステータスまで拘束によって実質封印されているので、傷がついたのは額のみだった。息を荒げ、兵士達のいる方を睨む。
「おぃ……愛しのアイツはどうしてるぅ?」
「………」
「どうしてるかって聞いてるだろ、聞いてるんだろうがよ!」
「うるさいぞ、ヒュドル! いい加減大人しくしろ、口も塞がれたいか!」
兵士が痺れを切らして受け答えをした。ヒュドルと呼ばれた囚人は暴れるように再び自分の額を地面に打ち付ける。
「あいつ、あいつ、あいつはどうしてるんだよぅ、あいつ! あいつ! あいつ! 新聞でもなんでもいい、あいつ、あいつ、あいつの情報をくれよ! あいつのあいつ、あいつの! ………ラストマンの!!」
囚人は額から血が出ようが、地面に頭を擦り付けることをやめない。それぐらいしかやることがないのだった。
「俺ぉ、こんな豚箱にぶちこみやがったあの化け物スキルをもつ男おぉぉぉおおおおおおお! おお………おおお、お?」
血で顔が真っ赤になる頃、ヒュドルは兵士の息遣いさえも牢屋の外から聞こえなくなったことに気がついた。そして、頭の中に長い長いメッセージが送られてくる。
ヒュドルはそのメッセージを全て読んだ。食い入るように、久しぶりの娯楽だと思って。そして読み終わった後、兵士の息遣いが再び聞こえ始める。彼は疑いつつもそのメッセージ内で支持された通りに自分の足元を見てみると、そこには二つの手錠のような腕輪が置かれていた。
さらに、拘束して半ば封印状態にもかかわらずスキルが使えるようになっていることも理解した。
「神様って、いるんだな! 神様っているんだな! 神様っているんだな! 神様はあんなクリーチャーよりも、この俺をお選びになられた! ははは、ははははははは!」
「おい、何を喚いている? アナザレベル様がお前のような、人々の自由と希望を奪ってきた人間をお救いになるはずないだろう!」
「あんまりそいつと喋るなって……」
嬉しそうに喚いているヒュドルを、さっきと同じ兵士がたしなめた。それを相方の兵士が注意する。しかしヒュドルにとってはすでにそんなことどうでもいいのである。
「それが選んだんだよぉおおおおおおおお!」
「なっ……!?」
ヒュドルは全身から紫色の液体を放出した。封印機能付きの拘束が、その液体により溶かされていく。壁の一部がえぐれるほど溶ける頃には彼は完全に自由の身になっていた。
「あはぁ……!」
「あ、わ、わわわわ、わわわわわ!」
「この腕輪、神具級って言うんだっけ? まさか伝説級より上があるなんて初耳だな。ああ、おい、どこに逃げるんだよ」
足元に置いてあった腕輪を装着しながらヒュドルは檻に近づき、それを握る。そこから檻は腐食してゆき一瞬でボロボロになってしまった。
「ど、どどどど、どうやって、なんで脱獄を……!」
「だから言っただろ? 神様が俺をお救いになられたと」
「そ、そんな……!」
「SSSランクってのは、2年間拘束されたくらいじゃ、弱くなったりしねぇって知ってるか?」
「う、う、うわああああああああああああああああああああぁ!」
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「あーっ、久しぶりのシャバだぜ」
ヒュドルは辺りを見回した。大勢の兵士が収容所に向かってきているのがスキルによってわかる。彼は伸びをしてから、全身から再び紫色の液体を吹き出した。
「まさか、俺から買ったウサギ女と結婚してガキまでこさえてるとはな。……待ってろよ、待ってろよ、待ってろよ……2年間の俺の苦痛を、何千倍にもして返してやるよ! ラストマンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンッッ」
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なんかこう言う敵の強そうなのが名乗り出るみたいな展開好きなんですよ。




