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第九百三十九話 にいちゃんの偽物 (叶)

「それで、誰?」



 叶は槍を構えた。彼の中ではすでに、このアリムが偽物であるということは結論づいている。およそ偽物のアリムは諦めたような表情をしながら両手をあげた。



「そんなものボクに向けないでよ」

「本物のにいちゃん相手にだったら向けてないさ」

「おーこわい。この可憐な顔に傷をつけるつもり?」

「まあ、そうなるね」



 明らかに敵意があると判断し、叶は偽物のアリムの腹に向かって槍を突いた。ステータスも使っている本気の攻撃。しかし、その攻撃は偽物のアリムには届かなかった。正確には、届いてはいたが刺さらず突き抜けてしまっていた。

 槍を丁度回避できるような穴が偽物のアリムに空いており、穴の周囲は人の体ではなく、銀色の液体のようなものに変わっている。



「あっぶなー」

「その流動体はまさか……」

「ああ、モニターって言うんだってね、それで見たんでしょ?」



 偽物のアリムは、口角を人間の限界以上にニィッと上げると、全身が銀色に変化していく。



「スライムみたいな魔物……にいちゃん、倒し損ねたのか」

「私の名前はニャルラトホテイプって言うんだ。以後お見知り置きをね! 君のおにいちゃんはちゃんとボクの事倒したよ。君たちの世界の、ゲームでいうなら、残機が一つ減ったって感じだね。復活した後は好きなところからコンテニューできるのさ」

「……コピーするタイプまでは予想通りだ。でも記憶まで読み取る上に復活するのは計算外。とは言え、さすがににいちゃんの強さまでは真似できないでしょ」

「んー、それはどうかなー」



 完全に銀色のゲル状に戻ったニャルラトホテイプは、海に落ちないうちに再び身体を形成していった。その姿は、叶だった。丁寧に眼帯までつけている。



「どう、なかなか精度高いでしょ?」

「俺に変装してなんかメリットあるの? この世界でアイドルみたいなにいちゃんに化けてた方がまだ……」

「ああ、私が……いや、俺が……ボク? いいや、私で統一しよう。私がコピーできるのは記憶だけじゃないんだ」

「まさか」



 叶が気がついた時にはニャルラトホテイプは槍の前にはいなかった。それと同時に叶は後ろからほっぺたを突かれる。



「にいちゃんの記憶を探ってから、キミのスキルが欲しくてたまらなかったんだよね。空間操作スキルなんて私にとっては最高の代物だから」

「…………」

「……あは、しくじっちゃったね! くやしいねぇ! キミの記憶探ったけど、いつもこんな難しいこと考えてるの?  アイキュー200ってほんとすごいんだね」



 偽物のカナタは、本人に見せつけるようにあたりを蝿みたいに瞬間移動で舞っている。叶はその行き先を計算し、見定め、念術を発動して動きを止めた。



「ううっ!」

「倒しても復活するなら封印した方が早いね」

「あはぁ、まさか捕まるとは。本物には勝てないねー」



 ニャルラトホテイプは捕まっているというのに余裕を保っている。叶は十分に警戒しつつ、見失わぬように広範囲高威力の攻撃はやめ、封印に特化するために槍を構え直した。

 しかしその槍はニャルラトホテイプに向けて放つ前に叶の手の中から消える。叶は腹部から焼けるような熱さを感じた。喉からは血が込み上げてくる。



【か、かなたっ!?】

「グフっ……ガバァ……ま、まざが……」



 叶の脳内には桜からメッセージが届いている。しかし、痛みと焦りによりそれに返答する余裕はない。



「だれが私が一人だといったのかなぁ?」

「どう? 魔神でもステータスカンストした人間でもないただのSSSランク亜種の魔物にやられるのは!」

「悔しいだろうねぇ?」

「悔しいよねぇ?」

「分身能力もあるのでしたーっ!」



 空中から複数人の銀色の叶が出現する。どうやら透明化できるアイテムを作成し、分身体をそこら中に仕込んでいたようだった。



「しかし、このスパーシオペラティオンって能力は……」

「チートだねぇ、チートもいいところだよぉ」

「なんで叶君は瞬間移動しか使わないの?」

「まあ、使うべき場所や相手がいないからだってのはわかるよ!」



 複数人のニャルラトホテイプは今度は逆に念術で叶の槍を操る。叶の腹部を貫いたままそれを回転させ始めた。上下左右、前後にも激しく揺さぶる。



「うぐあああああっ…があっ……!?」

【かにゃた!? かなた、かなた! かなた!!】

「痛みを感じなよ」

「わかってるんだ、記憶を読み取ったからさ」

「キミの弱点は不意うちや予想外の出来事。まさか自分の腹が貫かれるとは思ってなかったでしょ? 

「もうキミは実際のところ、まともに思考できてないはずだ。今のキミのアイキューは、痛みと驚きによって一般人以下なんだろう?」



 ニャルラトホテイプらの言う通り、すでに叶の意識は朦朧としている。すでになにかを考えることはできていなかった。必死に呼びかける桜のメッセージだけが頭の中に響いている。



「キミの胃と槍の場所を交換した。ま、なにと交換されたかくらいは理解してるでしょ?」

「事実、その手に握ってるのは槍じゃなくて胃だもんね」

「ステータス差は何十倍もあるのに、そんなことは一切関係ないんだ、このスキル。キミのにいちゃんが把握してるより数段鬼畜だね」

「キミのにいちゃんはキミのこのスキルを瞬間移動専門くらいにしか思ってなかったようだよ。他のみんなもきっとそうだよ」

「じゃあ次は、ここにある空気とキミの心臓を入れ替えようかな」



 ニャルラトホテイプの一人の手のひらに、脈打つ臓器が乗せられた。





#####


 ラスボス戦にラスボス側で参加する最強の敵の一人がやっと出せました。

カナタの瞬間移動+アリムのアイテムマスター(ダークマター、伝説級まで)+姿、SK、記憶コピー+強力な身体操作系(後半二つはニャルラトホテイプとしての固有)といったスキルを保持しています。

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