表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1014/1307

閑話 兎跳び (翔)

「手伝わせて悪いな」

「それはいいんだよ! でも……これ本当にやる気かい?」

「まあな」



 昨晩、風呂に入ってる最中に思いついたっつーか、屋内でも屋外でも恥ずかしくてなかなかやれない筋トレ法、兎跳びをマジックルームでやればいいことに気がついた。

 つーわけで100段から1000段、自由に調節して脱出用のドアが出現するようにでき、さらにドアが現れた時に何段まで登ってるかをカウントして表示してくれるというギミックのものを作った。階段は無制限に出現し続ける……新しい筋トレ方法だ、めちゃくちゃわくわくするぜ。ちなみに水分補給とかは自分の魔法で行う。



「それで私はどうすればいいの?」

「階段を兎跳びするからな、リルは俺に背負われてくれ」

「んー……わかった」

「俺もしっかり支えるが、落ちたらやばいから捕まっててくれよ。仮に何かあってもクッションが出てきたりして大丈夫なように設計はしてあるが」

「わふわふ、気をつけるよ」



 俺はリルをおぶった。俺は今日は上半身に何もきていない。どれだけ発汗するかわからねーからな。あ、だとしたらリルの服も汗で……いや、アナズムで作ったジャージを着てて一切汚れるはずがねーから大丈夫だ。



「わふぇぇぇぇ……ショーの背筋……」

「背中で何しててもいいけどよ、落ちそうなことだけはやめろよ」


 

 本当に俺の筋肉が好きだな、こいつは。筋トレマニア冥利に尽きるぜ。へっへっへ。



「わかってるよ! ……ねぇ、ショー」

「なんだ?」

「ショーの背筋を直に感じたいから、やっぱり私もブラジャーだけに……!」

「俺は汗をかくとウザってーから半裸なんだよ。お前は汚れない服着てるだろ」

「わふぇ……いつもなら三回に一回くらいそうさせてくれるのに」

「初めての試みだからな。安全第一でいく」



 腕立て伏せやスクワットは安全だから、スキンシップの一環でそういうの許す日もあるけどな。今日は違う。人を背負ってるから意識も集中させなきゃならねー。背中にリルの柔らかいもんが直に当たったりしたらその集中が途切れちまう。

 ただでさえ今でも、背中に相変わらず大きさがわかりやすいモノを押し付けられて危ういってのに。



「んふー、きんにくぅ……」

「始めるぜ」

「ところで、今更かもしれないけど、私が読んだ本には兎跳びって故障の原因にもなるって書いてあるし、スポーツ医学をおさめた私としてはほんとは止めたいところなんだけど……」



 さっきから俺に抱きつくこと以外に関しては乗り気じゃなかったのはそういうことか。きっと、これを実行するのが俺じゃなかったらもっと必死に止めてるんだろうな。

 だが、俺は大丈夫だ。



「ま、そこらへんはぬかりねーよ。下半身の補強よりは体力測定に近い感じだからな、今回は」

「そっか。でも念のため、フォームとかが正しいか見といてあげるね。あと、終わった後は必ずアムリタを飲むこと」

「わかった。助かるぜ」



 んじゃ、兎跳びスタートだな。



_____

___

_



「はぁ……はぁ……」

「わふぇ……」

「そろそろ終いにしたほうがいいな……」



 何段飛んだ……ああ、一切休まず2~4秒1段のペースで登り続けて1100段……か。人を背負って1100段ならいい方かもしれない。

 


「普通な人だったらもうバテてるし、膝壊して入院してるね」

「やわな鍛え方してねーからな」

「そうだよ、ショーじゃなかったら全力で止めてるよ」



 ただ、ここまでやって感じたことは、筋トレ指導書に書いていることやリルのアドバイスの通り、下半身の筋肉を鍛えるだけならスクワットで十分ってことだな。

 リルを寄り添わせて行う筋トレの中でも一番危ないし、こりゃもう滅多にやらない。体力と下半身を鍛えたい時、気が向いたら一人でやる程度にしておこう。



「リルをおぶって兎跳びすんのはこれっきりだな」

「そうかい。それがいいかもね」



 1100と表示されたドアの前に、ゆっくりとリルを下ろす。背中から柔らかい気配が消えた。運動中は気にならないけど、始める前と終わった後でそっちに意識が持って行かれることがある。



「あ、ゆっくり……ゆっくり立ち上がるんだっ……え?」

「ん、どうした?」



 普通に立ち上がってドアを開けようとしたら、リルが丸い目で俺のことを見つめていた。どうしたというんだ。



「な、なんでそんな簡単に立ち上がれるんだい? 膝、膝は痛くないの? 回復しなくていいの?」

「いや、全く。いつもスクワットした後もこうじゃねーか? 1割くらいは体力残すようにしてるし。念のために回復はしておくか」

「……わーふぇ。どうやら私はまだ、ショーの身体の底の無さを知らなかったようだね……」

「そうなのか?」

「そうだよ……」



 なんだかしょんぼりしながらそう言われた。ぶっちゃけ、俺が本当に本気出して体力測ったらどれくらいのことできるか自分でもわかんねーからな。体壊しそうだからやったことないけど。



「今日は足を中心にマッサージしよう。やっぱり、負担のかけすぎだと思うよ」

「そうか。悪いな」

「いいんだよ……ん?」

「お?」



 俺とリルの頭の中にメッセージが流れ込んできた。有夢からだ。ちょっと慌てた様子。



【ごめん、ショーとリルちゃん! 手伝って欲しいことがあるの!】

【なんだ?】

【SSSランクの魔物が3匹同時に出現したから、1匹討伐するの手伝って!】



 そりゃ大変だ。親友の頼みだとか関係なしに行くしかないな。



「行くか」

「身体は大丈夫?」

「よゆーだ」

「そっか、帰ってきてからマッサージだからね」

「わかった」



 俺は有夢に今すぐ行くと伝え、あいつらの部屋に向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ