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ラーメン編『スープを作ろう! 畜生街道激闘伝』‐1




 暁之宮。

 華族としての地位は上流で、帝都で三指に入る――とまではいかずとも、十の指には入るくらいの名家。

 江戸時代に商家として成り上がり、四民平等以降、金の力で権力を……つまり、華族の身分を買ったため、成金華族とも揶揄される。

 けれど、その印象の悪い成金主義さえ、暁之宮の表の姿に過ぎない。

 暁之宮家の本質は、闇にある。

 すなわち、闇市場――ブラックマーケット。

 有り体に言ってしまえば、僕の実家はヤクザの元締めみたいなものだった。


 場所は帝都、新宿。50年前の星墜ちで異国人が大量に流入したことで形成されたスラムが、そこにある。官憲すら手を出すことを躊躇う無法者の地帯だ。

 なんと、驚くべきことに、その一角に暁之宮の館は建っている。


「……なんというか、ゲーム画面では何度も見た光景だけれど――悪趣味だね」


 馬車は暁之宮邸宅の門をくぐって庭を通り、本館の前で止まっていた。

 煉瓦造りの洋館だ。僕の祖父の代に建築したものらしく、それほど古ぼけた印象は受けない。広い庭と別館があり、『たぶん華族の屋敷ってこんな感じなんだろうな』という外観そのままである。

 馬車から降りた亜理紗は、


「密室殺人事件とかが週一ペースで起こりそうなビジュアルだね。これで雪山か孤島ならなおそれっぽかったのだが」

「……やめてくださいな。わたくし、ここに住んでいますのよ」

「そしてこれからは私もここに住むわけだ」

「勝手に住み着こうとしないでくださいません? ……まあ、許可が出れば住んでいただきますけれども」


 もちろん、近くに置けるほど信用していないし、油断ならない相手である。しかし――それでも、近くに置きたいと思えるほどの価値がある。


「いいですこと? わたくしは貴女を利用し、貴女もわたくしを利用する――それだけの関係ですわ。ヒロインである貴女がシナリオを崩した以上、わたくしの15年はすでに無意味となりましたのよ。であれば――失った15年以上のものを、貴女から得なければ気が済みませんの」

「いいね。実にいい。『お前を利用して金を稼ぐぞ』と、直接的にそう言っているわけだ――いや、実に悪役らしいセリフだね」

「悪役ですもの。ご存知でしょう?」

「ははは、そうだったね」


 僕は笑う亜理紗を置いて、本館の扉を開けた。大きくて重厚な扉は僕には少し重たいけれど、開けられないというほどではない。


「おや、侍女に開けさせたりしないのかい?」

「誰に見られているわけでもない場所でそんなことをするのは面倒でしょう? 屋敷の外ならまだしも」

「ほう、つまり――私になら見られてもよいと」

「……まあ、別に構いませんけれど」

「私は特別だと」

「特別といえば特別ですわね」


 視界の端の方で彌生がほろほろと涙を流しながら「尊い……」とか言っているけれど、無視した。


「そう、馬車の中での情熱的な経験が、リリィ・暁之宮と亜理紗・セントラルを特別な関係にしたのだった――」

「妙なモノローグを入れようとしないでくださいな」

「リリィ・暁之宮はツンデレであった――」

「デレませんわよ、ツンツンですわよ。貴女に対しては」

「それはそれでいいな。興奮する」

「変態ですわね……!」


 出会った時から思ってはいたが、この女、脳の構造が独特過ぎる気がする。

 ともあれ、


「ようこそ、と言っておきますわね。ようこそいらっしゃいました、暁之宮の館へ」

「お招きいただき感謝する」

「お父様がお仕事から帰ってきたら、紹介させていただきますわね。……そうですわね、少し時間もありますし、どこか、屋敷内で見ておきたい場所はありますの?」


 わりと答えの分かり切った質問ではあったけれど、一応聞いておくことにする。

 そして、答えを亜理紗・セントラルは口にした。


「もちろん、厨房を見せていただきたい」


 予想通りだった。


「あと、キミの私室……特にベッドの広さを見たい」

「それを確認してどうなさるおつもり……!?」


 近くに置くには信用ならないというか、軽く貞操の危機すら感じながらも、僕は冷や汗を流しながら彼女を家に招き入れたのだった。





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