友達を作りましょう。(3/12)
どれだけ飛ばしても、道の先に車の影は見えない。
道はあっているはずなのに。
先行している玲王・暁之宮の車は、影も形も見当たらない――。
――半日以上先行されていますもの。そうそう追いつけるものではありませんわよね。
わかっている。
わかっているとも。
わかっているけれど。
それでも――胸が掻き毟られるように軋むのだ。
「亜里沙」
と、呟いてみる。
返事はない。当たり前だ。
この小さな車の中には僕しかいない。
亜里沙がいないだけじゃない。
エドガーもノークランもいない。
――二人はどうしているかしら。
おそらく、彼らは無事では済まないだろう――現に、ノークランなど右腕を炭化させていた。
罪悪感がある。また、胸が軋んだ。
悪いことをした。
申し訳ないことをした。
彼らを捨て石にした。
――あれは彼らが望んでやったこと。
ああ、そうだ。わかっている。
けれど、たとえそうであったとしても、胸がどうしようもなく軋み――痛感する。
僕は悪役ではあるけれど。
悪ではないのだと。
「――捨て石なんて、当然ですわよね」
と、明るく言ってみる。
返事はない。強く胸が軋んだ。
けれど、それでも。
――悪役らしく、醜くあがき続けなければなりませんものね。
見せてみろ、とあの百合厨は言った。
だったら、見せてやろうじゃないか。
言おう。
「……わたくし、悪役ですもの」
醜く。
みっともなく。
引き際なんて知らずに。
あがき続ける小悪党――悪を演じる程度の小心者。
「わたくし、リリィ・暁之宮は悪役ですもの」
それが、僕。
所詮、役でしかないのが僕――本物にはなれないのが僕。
――駄目ですわね、どうしてもエドガーとノークランの犠牲がちらついてしまいますの。
吹っ切れるなんて、無理なんだ。
どうしてもどこか引っかかってしまう。
引っかかったまま、吹っ切れたような顔で前に進もうとするだけのちんけな女。
僕は頭を振って、ふたりの顔を振り払うように、車の速度を上げた。
車は街道を進む。ぐんぐんと、ぐんぐんと――すでに夜。
東京を出たのが夕方ごろで、それから何時間車を走らせているだろうか。
――この速度ですと、どれくらいで奈良に着くのでしょうか。
高速道路などない時代だ。
二日はかかるだろうか――確か、鉄道を使っても関東から関西へはけっこうな時間がかかったはずだ。
と。
「宿場町ですわね」
道の先に光が見えてきた。
街道沿いに発達した小さな町。
街と街の間にできた、旅人たちの休憩地点。
――お父様が休憩するとすれば、あそこでしょうか。それとも、休憩などせずに進んでいるのでしょうか。
確かめなければならない。
僕は自動車の速度を落としつつ、街の入口に差し掛かったところで、それに気付いた。
道の脇に生えている大きな木。桜だろうか。ともかく、それ――に、なにかが吊られている。
――え?
人間大のなにか――いや。
事実、人間だった。
両手を麻縄で縛られ、吊り上げられている。
髪色は鮮やかな桃色。肌は褐色で、スタイルは抜群。苦しげに歪む顔もまたかわいらしく、美しい――。
「――亜里沙ッ!?」
僕は叫び、慌てて車から飛び降りた。
すると、亜里沙はゆっくりと目を開けて、こちらを認識し――信じられないものでも見るかのように目を見開き、
「リリィ、君……? ……駄目だ、リリィ君、来るなッ!」
鋭い声。
来るなと言われて止まれるほど、僕は冷静ではなかった。
「ふむ。彌生からの連絡通り、本当に追いかけて来たね、リリィ。――卑しい取り換え子め」
だから、背後から聞こえたその声にも、いつのまにか背後に立っていたその声の主にも、まったく気づくことができなかったのだ。
ガッ、とその音はどこか遠くから聞こえたように感じた。
けれど、実際は、そう。
僕が背後から打撃された音で。
この音を最後に、僕の記憶は途絶える。




