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ラーメン編『麺を作ろう! 終わった誰かの物語』‐10





 壮絶な削り合いを制したのは、僕だった。


『ひょうううううううううう、ひょう、ひょう、ひょう、ワンチャンンンンンンンッッッッ!』

「――もうノーチャンですわよ、この猿頭」


 僕は鵺に16コンボを叩きこんで吹き飛ばした。

 ゴミ山に突っ込んだそいつは、ぴくりとも動かない。

 そして雨は止み、雷雲はどこかへと去っていった。見えるのは、オレンジ色に染まった明け方の空――そんなに長いこと戦っていたのか。

 鵺は僕の拳を幾度となく受け、僕は鵺の雷と爪を幾度となく受けた。

 勝敗を分けたもものがあるとすれば、それは間違いなくエドガーの回復と耐雷の護符、そしてリュー・ノークランによる露払いだ。

 ゴミ山にはおびただしい量の低級妖の死体が転がり、リュー・ノークランが仕事を果たしたことを示している。

 鵺の死体も、僕の眼の前にある。

 ――勝ったんですのね。

 感慨深い。これで家に帰れる。家に帰れば亜理紗がいて、そう。

 ――自慢してやりますの。

 鵺を討ち取ったぞ、と。攻略サイトなんてなくても、僕はできるんだぞ、と。


「……リリィ。よくやった」

「お褒めに預かり光栄ですわ、エドガー様。そちら、お怪我の方はどうですの?」

「ん? ああ、問題ない。僕は一匹も倒していないし、今回は刀すら抜いていないからね。回復に専念できた。ああ、リュー・ノークランも無事だぞ。魔力の使い過ぎでぶっ倒れてるけど」


 と、エドガーが指をさす方向に、黒い者が倒れている。

 リュー・ノークランだ。荒い息を吐きながら、嬉しそうに空を見上げている。


「……やった。やったぞ、俺は……!」


 ガッツポーズまで掲げている。

 そんな彼に、近づく人影がった。小さな影だ。

 ――あら、あの子は確か……。

 少年。ジャイアント餓鬼討伐時に、家を破壊してしまった少年だ。

 少年はとたとたと駆けてきて、


「リューおにいちゃん! 大丈夫!?」

「ああ。大丈夫さ! お兄ちゃんはいつでも元気で最強なんだ」

「すごい! おにいちゃんすごい!」

「そうさ。それに、今回はおりんさんが勝てる作戦を教えてくれたし――」


 ――なるほど。妙にやる気を出しているようだと思ったら、あの子が……。

 仲良くなったのだろう。仲良くなって、少年の存在がかけがえのないものとなってしまい、鵺を倒し新宿を守る覚悟を決めたということか。

 作戦を考えたのがおりんさんだというのは初耳だが、結果良ければすべてよし、だ。


「……いい笑顔してますわね。2人とも」

「そうだね。働いたかいがあったというものだ」


 エドガーは自分の格好――雨で濡れて、ゴミ山の汚れですっかり変色した制服――を見て、顔を顰めた。


「新しいの買う金はないなあ」

「……それくらい、わたくしが用意しますの。いちおう婚約者ということになっていますし」

「いや、それはダメだ。学校でも言ったろう? キミに頼りすぎる気はない、と」

「では、どうするおつもりですの?」

「なんとか金を稼いでやるさ。――はあ、くそ。鵺さえいなけりゃ、こんな苦労を背負うことはなかったんだが。というか、なんで鵺がこんなところにいたんだろうな?」


 ――人造妖魔計画。わたくしの父のせいですの、とは言いにくいですわね。

 というか、先だってのジャイアント餓鬼といい、どうして生み出した妖が簡単に抜け出せているのか。

 その辺、父に追及しておきたいところだ。

 だって、二度目だ。仏の顔も三度までというけれど、この短期間で二度も脱走があったとなれば、それはもう仏だって簡単に許してはくれないだろう。

 ――まるで、研究所からわざと逃がしたんじゃないかって思えるくらいですものね。

 故意に逃がしたのなら、この頻度にも納得が――うん?


「――故意に逃がしたとすれば……?」


 考える。思考を纏める。結論を求める。

 そう。おかしい。あまりにもおかしいのだ。

 どうして鵺が新宿にいる?

 どうしておりんさんは介入しない?

 どうしてリュー・ノークランは助けを求める先を僕らにした?

 どうして――この場に亜理紗がいない?

 戦闘中にも感じたいくつかの違和感が、ぐるぐると脳内で回り、そして、収束した。


「……っ、リュー・ノークラン様! 貴方、この作戦……おりんさんが立てたと言いましたわね?」


 彼は訝しげに首を傾げて、頷いた。


「ああ――そうです。おりんさん本人は介入できない事情があるけど、作戦だけは立ててやるって」

「わたくしとエドガー様は名指しで作戦に組み込まれていましたの? 単なる前衛後衛ではなく、わたくしたち個人をしっかりと指名して」

「ええ。おりんさんは、鵺は強いから同等に強いあなた方を誘え、と。それが、なにか?」

「その中に、亜理紗の名前はありました?」

「いいえ。ありませんでしたが……お嬢様?」

「……まさか、そんな――だとすれば」


 そんな迂遠な手を、玲王・暁之宮が使うだろうか。

 いや、しかし、事実としてそう推測できている。できているなら――確認しなければならない。

 僕はきっと顔を上げて、ぼろぼろの身体を無理やり動かす。エドガーの回復があったとはいえ、本調子にはほど遠い――けれど、行かねばならない。


「エドガー様、ノークラン様。わたくし、至急家に帰らねばなりませんの。ですから、今宵の夜遊びはここまでとさせていただきますわね」

「ええ。ありがとうございました、暁之宮のお嬢様。この御恩はいずれ必ずお返しします。ほら、景太もお礼を言いな」

「ありがとーおねーちゃん!」


 にこにこと少年が言う。

 子供に恩を売る趣味はないけれど、家を壊してしまった償いくらいにはなっただろうか。

 ――さて。


「リリィ。どうしたんだ? いったいどうして――いや。いったいなにに気付いたんだ?」


 エドガーが真剣な顔でそう聞いてくるが、僕は説明するものもどかしく、ざっくりと結論だけ言った。


「亜理紗が拉致された可能性がありますの。確かめるためにダッシュで屋敷に戻りますわね」


 僕は本日最後の魔力を振り絞って、【陽炎舞】を発動した。





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