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ラーメン編『麺を作ろう! 終わった誰かの物語』‐6





 胡椒のような希少な品は、必要な時のみ、亜理紗が生み出して使い切ることにしている。

 ――この家にいる以上、お父様に見つかる可能性はゼロではありませんもの。

 見つかれば、亜理紗ごと奪われる。

 そうなれば、僕の負け――暁之宮の天下だ。

 かといって、この屋敷以外で作業すると、それこそどこから情報が漏れてしまうかわからない。

 だから、この家で誰にも見られぬよう注意を払い、一切の証拠を残さず、作業する。

 彌生を含む使用人の全ても、僕と亜理紗が厨房に入っているときは近づかないように言い含めてある。

 もちろん、作業するときは父が仕事で家を空けているときのみ。

 なのに、どうして――ここにいる。


「お父様、あの、本日はお仕事では……?」

「ああ。抜けてきた。どうしても確認したいことがあってね」


 と、見る先は――亜理紗。

 フレンチメイドスタイルの彼女は、現在太ももや二の腕を露出している。当然、そこに刻まれた魔紋――【地母神】も。

 僕のせいだ。

 僕がつまらないことで怒って、罰なんて与えようとしたからだ。ぞぞ、と顔から血の気は引いた。

 亜理紗は険しい顔で、しかしそれらを隠すことなく、玲王と対峙した。


「私になにか御用でしょうか、暁之宮様」

「御用、御用か。もちろん用があって戻ってきた。セントラル、キミは助六という人物の名前に心当たりはあるかな?」

「……あります」


 ――正直に答えますの!?

 亜理紗は、渋々といった調子で答えた。


「私の魔術の師匠筋にあたります」

「では、その魔紋は助六氏の遺作――で、間違いないのだね?」

「いいえ。それは違います、暁之宮様」

「なに?」


 遺作、という物言いからすると、どうやら【地母神】のことを指していると思ったのだが、どうやら違うらしい。


「確かにこれは助六師匠の術式がベースではありますが、私がこつこつ組み上げた術式で、オリジナルです。師匠の遺作ではありません」

「ほう。では、遺作――【薬祖神(やくそじん)】はどこにあるんだい? 弟子のキミなら知っているだろう?」

「知っています。ですが――どうしてあれを求めるのです?」


 亜理紗は挑むように言った。


「あれは――名前こそ薬の神と謳っていますが、それはあくまで使う者が薬として使った時の話。毒として使えば、国をも亡ぼす毒と成り得ます。それを――どうなさるおつもりですか?」

「どうなさるもなにも、あれはもとより暁之宮が術師『六の坐盤』に発注した術式だよ。開発にかかる諸費用も前もって払ってある。死んだふりをして、助六と名を変え、炭焼きに成りすまして逃亡するとは思わなかったけれど……ようやくキミという後継者を見つけられたわけだ。僕に【薬祖神】を受け取る正当な権利があることはわかったかな?」

「……ならば、場所だけはお教えいたしましょう。しかし、私があれを扱うのに協力するとは、決して思わないでください。あれは――私が背負うには、あまりにも重い」

「ふむ。まあ、良いだろう。どの道、あれの運用は内々で済ませるつもりだったしね」


 玲王・暁之宮は優しげな顔で頷いて、言った。

 ――なんの話をしていますの?

 【薬祖神】なる術式の話なのはわかる。しかし、【地母神】というチートスキルを持つ亜理紗がここまで恐れるほどの術式が――本当にあるならば。

 それを玲王の手に渡れば、どうなるのか。

 想像に難くないが、想像したくない程に恐怖感がある。


「――奈良。平安の街のどこかに、と聞いています。それ以上は、私にも」

「なるほど。あとは自分の伝手で探せ、と。そういうわけか。――ふむ、ふむ」


 玲王は眼を閉じて何度か頷き、ややあって目を開いた。


「信じよう。すぐに手配する。だが――セントラル、奈良で術式が見つからなかったり、キミがもしもほかになにかを隠しているなら――」


 ちらり、と玲王は僕の方を見た。

 ――なんですの? まるで……。

 娘を見る眼ではなかった。獲物を見るような、そんな眼で。

 ぞくり、と背筋が震えた。


「――そのときは、わかっているね?」


 玲王はにこやかに告げた。





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