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ラーメン編『麺を作ろう! 終わった誰かの物語』‐4





 小麦粉にも種類がある。

 強力粉、中力粉、薄力粉――これら三つの違いはどこにあるかというと、これはそれぞれに含まれるグリアジンやグルテニンや生成されるグルテンの性質などで決定されている――と、小難しく言うならいくらでも難しくできるけれど、割愛。

 要するに『粘り気が強いかどうか』である。


「パン用のものと発注しましたけれど、ようするに強力粉ですの。中華麺も強力粉ですから、これで作れるはずですわ」

「なるほど。ところでリリィ君」

「なんですの?」

「帰ってくるなり、私の服装が長袖ロンスカエプロンドレスのヴィクトリアンスタイルから、半袖ミニスカのフレンチスタイルに有無を言わさず着替えさせられたわけだけれど、これはどういう意図があってのことかな……? すごく恥ずかしいんだが」

「駄目なメイドにお仕置きをしただけですの」

「その発想めちゃくちゃおっさんくさいね……!」

「あらやだ、亜理紗ったら。わたくし、貴女のためを思っておりますのに……」

「いや、うん、馬車の中でつれない態度を取ったことは謝るから、どうかせめてロンスカに戻してくれないかい? こんなミニスカなんて……」


 亜理紗は太ももを隠すようにもじもじとミニスカの裾を引っ張りながら、言った。


「前世でも着たことがないよ、こんなに短いの……。というか、よく持っていたね、こんな服」

「彌生に言ったらくれました」

「どうしよう、私もう彌生君をまともな眼で見れそうにない」


 それは僕もけっこう同意見だったりする。


「……前世でも着たことがない、と仰いましたけれど、貴女の前世って、少し想像できませんわね」

「そうだね。前世の記憶があるからといって、前世と同一の精神というわけではないけれど、私の前世は――いまの私とやっぱり似ているように思うよ」

「似ている、と言いますと?」

「うむ。食いしん坊だった。西に気になる店があれば行って食べ、東に気になる店があれば行って食べる。そんな生活を送っていたようだね」

「自堕落ですわね」

「大学生だったからね。時間はたくさんあった。趣味の食べ歩きのために、少しばかりバイトをすれば、それで事足りた」


 ある意味羨ましい生活だ。

 というか、そうか。前世で大学生だったということは、亜理紗は前世から合計して僕より年下ということになるのか……。


「そういえば、リリィ君。ひとつ、聞きたいことがあったんだが――。キミは、前世の記憶と現在のキミを、私以上に切り離しているように思えるが、それはやっぱりなにか理由があるのかい?」

「興味本位で聞くことですの、それ。……まあ大した話じゃありませんわよ。わたくし、今生は女ですもの。前世の記憶があったところで、今のわたくしは女。同じものとしてとらえることなど到底不可能ですわ」

「じゃあ、キミの前世といまのキミは似ても似つかぬと、そう言っていいのかな?」

「さあ、それはどうでしょうね」


 こればっかりは本当にわからない。

 自分が誰かと似ている、だなんて。

 自分自身が判断できることじゃないだろう。


「さて、与太話はここまでにして、さっさと麺作りに入りますわよ」

「そういえば、リリィ君。中華麺には鹹水が必要なのではないかね?」

「あら、よくご存じですわね」


 中華麺の最も大きな特徴は、鹹水を用いる点だろう。鹹水とはアルカリ塩水のことであり、ざっくり言うと苦い水である。塩湖とかでとれる。


「日本で塩湖というと、蔵王山の御釜なんかになるのかな」

「あそこ酸性ですのよ」

「じゃあダメか」


 そう、駄目である。

 が、ここは似非とはいえ大正時代の日本だ。科学だって発展してきた1900年代なのだ。


「そこでわたくし、これを用意しましたの」


 僕は二枚の皿に盛ったそれぞれ白い粉を亜理紗に見せる。

 科学的に生成されたそれは――。


「怪しい白い粉だ……! 鼻から吸ったりするんだろう!?」

「そんなに吸いたいなら呼吸できなくなるまで突っ込んで差し上げますけれど?」


 亜理紗が腰を九十度曲げて謝罪してきたので許すことにした。


「で、それはなんだい?」

「炭酸カリウムと炭酸ナトリウム――ソーダ灰ですわね」

「……なにそれ」


 正直、僕にもよくわからない。





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