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ラーメン編『スープを作ろう! 畜生街道激闘伝』‐24





 エドガーにようやく有効打を入れたリュー・ノークランは、そのまま一気呵成に【ダークボム】を連射し続ける。

 その全てがクリーンヒット。弾けた闇色で、見通しが悪くなるほどに――だ。

 というか、あれ、エドガー生きているんだろうか。


「偉そうな口を叩いた割には大したことないな、生徒会長さんよ!」


 リュー・ノークランは肩で息をしながら、勝ち誇った。

 ――あれだけの量の魔力弾を撃ったわけですもの。そりゃあ疲れますわよね。

 おそらく、最後のラッシュは魔力を使い切る勢いで放ったはずだ。

 満身創痍。それで、リュー・ノークランの勝ちと、そういうわけか。

 けれど、エドガーはオーディエンスを守り続けたという美談がある。


「名声のために、負けましたの……? でも、それだけでは勝ちと言うには少々薄いのではなくて?」

「いや、いやいや、リリィ君。いいかね? よく思い返してほしい。今回の戦い――エドガー君は一度でも魔法を使ったかね?」


 つまり、と亜理紗は続けた。


「彼は彼本来の戦い方に終始したわけだね。後衛でありながら近接武器を持ち、魔法防御力の高い術師タイプ。つまり、守り、耐え――癒す」


 立ち込めていた闇色の煙が、次第に晴れていく。

 書生風の服をぼろぼろにしながらも、五体満足で立つ男がそこにいた。


「――さて、服代くらいは請求させてもらいたいところだが、これからキミをぼこぼこにする分でチャラにしてやる」


 エドガー・鬼島。

 彼は、手にした木刀を肩に乗せて笑った。





 ☆





 そこからの展開は、先ほどまでと打って変わってエドガーの一方的な勝利だった。

 治癒魔法を自分にかけながら、MPが切れたリュー・ノークランを正眼に構えた木刀で的確に間接を打ち据え、追い詰めていく。

 対するリュー・ノークランも、やはりスラム住まいだけあって喧嘩慣れした脇差木刀の使い方だったけれど、そもそも体格でも武器の長さでも勝るエドガーには不利だ。

 5分と経たずに手首を打たれ、脇差を落とした。


「魔力切れに加えて武器も失ったわけだが、どうする? まだやるか? 新宿で名の通った術師とやらは」

「……くそったれめ」


 苦々しげに言って、リュー・ノークランは顔を顰めた。

 けれど、彼は負けたとは言わない。


「どうした? 降参しないのか?」

「まだ終わってないってことさ。――【スーサイド】」


 リュー・ノークランが術名を呟く。

 直後、闇色の魔力が2人を球状に取り囲み、弾けた。今までの【ダークボム】の比ではない。聴覚が一瞬麻痺するほどの爆音。地面が抉れて土煙が巻き起こるほどの威力。

 ――自爆技!

 MPの代わりにHPを使うタイプの術だ。闇属性の十八番でもあるそれは、しかし、


「――『腕比べ』で使うような技じゃありませんのよ……!?」


 どれだけ負けたくないんだ、あの男は。

 ――ああもう、見ていられませんわね!

 僕は制止する亜理紗の声を無視して、爆心地へと駆け寄った。


「双方、そこまで! というか生きていますの!?」


 果たして、土煙の中から返事は――あった。


「大丈夫、生きているさ。ぴんぴんしてる」


 エドガーが、回復魔法を気絶したリュー・ノークランにかけながらのんびりと言った。

 彼の周りに、紙片が散っていた。


「まさか……。エドガー様、護符をまだお持ちになっていましたのね?」

「その通り」


 百合厨は、いたずらっ子のような笑みを浮かべて、言った。


「僕はこう見えても小細工が得意でな」


 こうして、エドガー・鬼島とリュー・ノークランの決闘、もとい『腕比べ』は終了した。

 なお、みんなして見物していたため、多くの生徒が1限に間に合わなかった。あいつら本当に迷惑。





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