ラーメン編『スープを作ろう! 畜生街道激闘伝』‐23
エドガーの武器は木刀。
両手でしっかりと握り、相手を見据えている。
対するリュー・ノークランの武器はやや短めの木刀……脇差の模造だろう。
魔法戦主体のリュー・ノークランにとってはもっとも扱いやすいサイズの武器。
――ゲーム通りですわね。
それぞれ、記憶にあるゲームと同じ武器種を扱っている。
「よっ」
最初に仕掛けたのは、エドガーだった。
気の抜ける掛け声とともに、木刀で斬り込んだ。
振り下ろし。
それは、いともたやすくリュー・ノークランに防がれるが、
「ぐ……!」
上から抑え込むエドガーと、下から脇差で支えるリュー・ノークランでは、エドガーの方が有利だ。
――あそこは避けるのが正解でしたのに、あえて受けましたわね。とすると、狙いは当然――。
リュー・ノークランとエドガーの間で、闇が弾けた。
――やはり、魔法戦主体!
「うおっ、と」
魔法で弾き飛ばされたエドガーが、数歩たたらを踏む。
「いまのは闇属性魔法の【ダークボム】だね。広範囲魔法を出力を下げて扱うとは、良い発想だ。自爆レベルの距離で撃ったけれど、純粋な闇属性の魔力の爆発だ。ノークラン君自身に被害は及ばない、と」
「ですけれど、エドガーのほうもほとんどダメージ受けていませんわよ? いえ、ほとんどというか、あれ無傷ですわよね……?」
見れば、エドガーは着物の袖からなにかを散らせた。
――紙片?
引きちぎった紙のようなものだ。
「……生徒会長、それはなんだ? なんで、俺の魔法を受けてぴんぴんしてやがる」
「これか? これは拾った流木とブラック烏天狗の抜けた羽から作った護符だ。闇属性の魔力に反応してそれを吸収し、自壊する。1回限りで使い捨てだが、なかなか便利だろう?」
「小細工だな。華族様らしくもない」
「そうかもなー」
エドガーは軽く言って、笑う。
「だがあいにく、僕の家は華族としちゃ貧乏でな。たいそうな装備は見せられないが、まあ、キミのいう小細工は得意な方だ。舐めてかかると痛い目にあうぞ?」
「戯言だ。生徒会長こそ、俺を舐めていないか? 俺はこれでも、新宿で名の通った術師だぞ」
「へえ。ジャイアント餓鬼が怖くて震えていた程度の実力で咆えるか」
「……貴様」
「無理をするなとは言わないが、勝てる見込みがあるのに震えて蹲っちまうようなやつはな、臆病者っていうんだ」
「……黙れ。お前みたいなのになにがわかる……!?」
「わからねえよ、キミのことなんて。わからせたいならかかって来いよ。それともあれか? 初撃防がれたからもう怖くて戦えないか? ん?」
指をちょいちょいと振って、エドガーは挑発する。
――露骨ですわね。
誘っている。
――なにが目的ですの?
挑発したところで、リュー・ノークランは後衛の攻撃職だ。魔法が苛烈になればなるほど、後衛なのにレンジの長い魔法攻撃を持たないエドガーが不利になる。近づくことが難しいレベルで弾幕を張られたら、木刀一振りじゃ勝ち筋が薄くなってしまう。
ゆえに、エドガーは距離を取らせずに打ち込み続けるべきだったはずだけれど……。
「あれは誘い受けだよ、リリィ君。薄い本はどこだ……!?」
「ちょっと黙っていてくださいな」
「つれないね! ……まあ、実際誘い受けだと思うよ、私は。エドガー君の作戦はおそらく、ね」
「? それはどういう……?」
ご、ご、ご、と何かが炸裂する音が連続する。
リュー・ノークランがばかすか【ダークボム】を撃ちまくっているのだ。
対するエドガーは、回避を――していない。全て木刀で叩いて誘爆させて、そのたびに袖から紙片が散った。どうやら、先ほどと同じ護符を複数所持しているようだ。
「リュー・ノークランは馬鹿だね。オーディエンスを巻き込むような『腕比べ』をしてどうする。いや、そこまで誘導したエドガー君が見事なのか」
「エドガーが律儀に全部捌いているからいいものの、ひとつでも避けたら大参事ですわよ……!?」
「ふむ。案外クレバーだね、エドガー君は。ただの百合厨かと思ったら、いやはや……」
紙片を散らしながら、【ダークボム】の炸裂を受け続けるエドガー。
――どうして攻めませんの!?
いま攻め込まなければ、いずれ護符がなくなって、エドガーは負ける。
これはそういう局面のはずだ。
けれど、亜理紗は愉快そうに言う。
「リリィ君、わからないかい?」
視線の先で、エドガーがついにダメージを受けた。炸裂を受けて吹き飛び、身体中すり傷だらけにしながらも立ち上がる。
袖から紙片が散ることはない。
「わかりますわよ。エドガー様の負けですの」
「いいや、違う。見ておくといいよ。誘い受けからの――」
亜理紗はくすくすと笑った。
「――逆転だ」




