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ラーメン編『スープを作ろう! 畜生街道激闘伝』‐13





 ジャイアント餓鬼の攻撃は重いが、その全てがテレフォンパンチなので避けられる。

 フライングスネコスリの攻撃は軽いが噛みつきによる出血はシャレにならないし、なにより奴らは空を飛んでいて、速い。

 厄介なのは、それぞれ個別に対応すればさばききれないことはない点。

 ――亜理紗の対空防護蔦の結界の中で戦えればよかったんですけれど、そうしますと蔦ごとこなごなにされかねませんし。

 蔦がなくなれば、僕らはフライングスネコスリに追いすがられ、対処できずに殺されてしまうだろう。

 蔦がある限り、フライングスネコスリは大した脅威とならない。

 蔦を壊せるジャイアント餓鬼を蔦に近づけるわけにはいかないから、僕はこうして防護壁の範囲外で戦うことになり。

 フライングスネコスリはそれほど賢い妖ではないけれど、近づいたら叩き落される蔦よりも、ジャイアント餓鬼と戦っている僕の方が比較的狙いやすい。

 亜理紗がここまで考えていたかは不明だけれど――状況は噛み合った。

 こちらが倒れるまで、延々と続く消耗戦だ。

 30秒を1度しのいだ。

 まだ生きていた。

 30秒を2度しのいだ。

 まだ生きていた。

 そしてまた30秒しのいで3度――こちらの損害は軽微。しかし、それはエドガーによって回復してもらった結果。

 【陽炎舞】を途切れることなくかけ続けているけれど、それも次の30秒で終いだろう。

 1分30秒。

 合計すれば、たったそれだけ。カップ麺すら満足に作れないその時間をしのぐだけで、僕らのリソースは尽きかけていた。


「――援軍はまだなのか、セントラル君!」

「見ればわかるだろう! それよりもエドガー君、MP回復アイテムはないかね!? 気力回復系のお守りでも符でもなんでもいい!」

「あればとっくにリリィに渡しているさ! くそ、どうすれば……」

「どうもこうもありませんわよ、2人とも。リソースが完全に尽きるまで、30秒を繰り返すだけですの」


 刀を構えて、敵を見遣る。

 3メートルの巨体は棍棒を引きずりながら、肩で息をして、しかしその眼は爛々と燃えていた。

 ――疲れていますわね。

 ジャイアント餓鬼。大型の妖だが、餓鬼だけあって体力はない。体力はないが執念深い――こちらを見逃してはくれないだろう。

 のそりと動いて、低く呻く。棍棒が風を切って振り回され、僕はそれを受け流したり避けたりしてなんとか均衡を保つ。

 餓鬼もなかなか死なない僕にイライラしてきたのか、ただでさえ大味な挙動がさらに大雑把になってしまっている。

 棍棒が振り上げられ、叩きつけられた。僕はそれを回避して、

 ――土埃を影にして、横の振り回しが来ますわね。

 定型パターンだ。このジャイアント餓鬼は、とにかく獲物のいる方へ棍棒を振る癖がある――短絡的な思考だと言ってしまえばそれだけかもしれない。

 後方に大きく跳び退って、安全な距離を取る。この30秒も耐えきった。

 と。

 そう、安心してしまったのが、いけなかった。

 ご、と土埃をかき分けて、棍棒が現れた。それは今までの軌道よりもリーチが長く――僕に届く。

 ――投擲ですの!?

 ここにきて。

 ここにきて、初めて。

 ジャイアント餓鬼は、頭を使った。

 ブーメランのようにぶん投げられた棍棒は猛烈な勢いで僕へと迫る。

 ――回避は間に合いませんわね!

 だったら、防御だ。

 咄嗟に構えた日本刀――疲れのせいか、やけに重たく感じる――に、棍棒が直撃した。


「――あ」


 直撃して、あることに気が付いた。

 最後の30秒。その期間はすでに過ぎていると。

 つまり。

 僕の【陽炎舞】は、もう機能していないのだ。

 気付いた時には、もう遅い。

 僕の身体はおもちゃみたいに吹き飛ばされた。





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