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ラーメン編『スープを作ろう! 畜生街道激闘伝』‐9





 天才キャラってチートだ。だって天才だもん。

 とか、そんな風に考えてしまいがちだけれど、天才だって天才なりの苦悩なり苦労なりがあるのだ――と。

 リュー・ノークランはそんな感じのキャラクターだった。スラム生まれのスラム育ちで孤児。しかしながらたゆまぬ努力で才能を伸ばした生粋の天才――。

 天才なりの苦悩を抱えている彼の唯一の理解者が亜理紗・セントラル(シャーマン化してないバージョン)であり、2人はやがて親しくなってさらと世界救って恋仲になる、と。

 ざっくりしすぎた説明ではあるけれど、本当にそんな感じの天才キャラとしかいいようのないキャラクターがリュー・ノークランなのだ。

 そもそもRPGで難易度高めの戦闘要素がバリバリなのに攻略キャラによってエンディングが違うというのは、なんだかこう、いろいろといいとこどりしようとしすぎてゲームとしての門戸を狭めているような気がする。

 強くてニューゲームモードでしか入れないルートが複数あったゲームの世界だ。周回前提かよ。

 エドガーもリュー・ノークランも1週目のプレイで入れるルートのキャラクターなので、1週目に仲間としてプレイアブルにしておいたこいつらをめちゃくちゃレベル上げておくと2週目以降楽だったため、1週目で育てておくことが推奨されていた。

 最強育成と称して、この2人のために、1週目でできる効率の良いメタル一反木綿狩りについてひたすら検証し続けた攻略ウィキのページもあった。メタル一反木綿は地味に強いので大変なのである。


「ちなみにそのページを書いたのは私だったりする」

「マジですの? かなりお世話になりましたのよ、あのページには。レベル1エドガー単騎でメタル一反木綿に勝つ方法は目から鱗が落ちましたわ」

「マジだよ。暗黒物質を敵ではなくエドガーに使うことを思いついたときは、さすがの私も自分が天才なんじゃないかと思ったよ」

「あれ、いろいろ応用効きますものね。レベル上がりすぎると逆にコンボとして成立しなくなるのは難点ですけれど」


 レベルの差を悪用して強敵を封殺する、通称暗黒エドガーコンボである。けっこう運要素が絡むので、失敗してメタル一反木綿にぶっ殺されたエドガーは数知れない。


「――で、リリィ君。ひとつ質問だが、どうして私達は丑三つ時の新宿に来ているのかな?」

「決まっているじゃありませんの。わたくしが悪役だからですわ」


 一度、家に帰り、家人が寝静まったのを確認してから、僕と亜理紗は動きやすいように黒いコートと洋袴(ズボン)を着て男装している。もちろん、スラムを女性2人で歩いていると余計なちょっかいを出してくるやつらがいるだろうから、という意味もあっての男装だ。


「……悪役だから?」

「亜理紗はもうイベント通りにこなす気なんてありませんわよね? だったら、このイベント、本来絡まないリリィ・暁之宮が――わたくしが乗っ取りますわ」

「乗っ取る、と。それはリュー・ノークランのルートを自分で再現すると、そういうことかい? 私という恋人がいながら」

「貴女という変人と手を組んで良かったのかどうか、わたくしいまいち自分に自信が持てなくなってきましたわよ……」


 まあ、婚約者ならいますけれどね、と付け加えておく。もちろんエドガーのことだ。この世界でも万が一に備えて海岸で暗黒物質を拾っておこう。失敗したら死ぬけどエドガーだし大丈夫だろう。


「この妖討伐イベント……攻略サイトまで書いていたくらいですもの、貴女のほうがよく覚えていますでしょうけれど、放置しておいてもリュー・ノークランルートが解放されないだけで、問題はありませんわよね」

「そうだね。放置すると、結局リューがひとりで新宿の妖を全滅させるという設定だったっけ」

「ええ。そうなりますわね。……まあ、あの中二病が5分で考えましたーみたいな天才キャラと恋仲になる気はさらさらありませんけれど、あの男と縁を結んでおくのはアリだと思いますの」


 なぜならば、彼は――新宿スラムに住み、スラムでは喧嘩の強い魔術師として一目置かれていながら、暁之宮とはなんの関係もない男なのだ。

 暁之宮となんの関係もない、というがポイントである。

 本来、この4月の討伐イベントは、夜な夜な出現し被害をもたらす妖を、毎晩ひとりで討伐して回るリュー・ノークランを助太刀する形で発生するものなのだが――


「わかりますわよね? なぜこんな街中に妖が出没しているのか。そして、ゲームのボスがどういう存在か」

「……ああ、なるほど。キミのお父様――玲王・暁之宮に介入されない個人的な武力が欲しいのか」


 この時代、妖は街には出ない。出ないのに、新宿には出ている。

 なぜか。


「暁之宮家主導の人造妖魔計画と、その妖気に惹かれた妖たちの暴走がこのイベントの裏ですわ。人造妖魔計画はこのゲームに潜む巨悪ってやつですもの。それを討伐するはずの貴女――亜理紗・セントラルがそんな風になっている以上、誰かがイベントをこなさないと勿体ないじゃありませんか。なら――悪役らしく、わたくしが正義を『騙って』みせましょう」

「そんな風とはまた失礼な物言いだね。だが、そういうキミも可愛いよ」

「わたくしが可愛いのは知ってますけれど、ありがとうございますわ。でもあと2メートルくらい離れてください。――腰に手を回さないでくださいませ。燃やしますわよ」

「つれないね」


 渋々といった様子で、彼女は離れていった。

 ――柔らかかったですわね。

 押し付けられた胸が、である。くれ。


「さて、と。まあ、しかし、わかったことがひとつあるね」

「え? なんですの? 貴女の頭の病気の名前とかですの?」

「私の頭の病気の名前はわからないけれど、私達をこそこそ付け回している無礼者の名前はわかったよ」


 途端、がしゃんという音が響いた。背後からだ。

 はっとして振り向くと、なにものかが脱兎のごとく駆け出している――まさか。

 ――聞かれましたの!? いまの話を!!

 やばい、と思うが驚きで身体が硬直して動かない。どうしよう。父の放った密偵とかだったら――困ったことになる。

 自分のことは冷静に判断できるのに、身体だけはまるで自分ではないかのように固まってしまっている。

 けれど、そんな情けない僕と違って、となりにいるやつは頼もしかった。

 亜理紗・セントラルは勢いよく両手を地面に叩きつけて、叫ぶ。


「――縛れ!」


 魔法の発現は言葉と同時に起こった。

 地面がぼこりと盛り上がり、ぎゅるりと音を立てて鋭く蔦が伸び、曲者の両足に絡みついた。


「……やったか!?」

「亜理紗! それやってないフラグ! やってないフラグですわよ!」


 思わずツッコミを入れて、

 ――あ、動けますわね。

 リラックスできたということだろうか。ともあれ、僕は動きの止まった曲者へと駆け出す。足の速さには自信がある――だが、やはり亜理紗がフラグを立てたのがわるかったのか、曲者は腰の日本刀をすらりと抜き放って、絡みつく蔦を切り払った。

 ――ガチの危ない輩でしたわね……!

 帯刀して僕らをつけてきていたわけだ。だったら、こちらも構えねばなるまい。

 意識するのは自分の最奥。胸の奥、どくんどくんと血を送る心臓だ。

 送り出すのは血だけではない。MP――気力――オド――なんでもいい。

 とにかく、“力”だ。その力を、僕は意識する。


「――精霊同調、炎熱強化――」


 呪文を唱える。前世的には完全に中二病で、それゆえに今生でも最初は唱えるのが恥ずかしかったけれど、なんかもう慣れた。慣れって大切だ。


「――【陽炎舞】――!」


 効果はすぐさま現れた。

 身体が燃えるように熱く、けれどそれは、僕にとっては心地の良い熱さで。

 僕の身体は、過剰な熱を発しながら、その運動性能を格段に上昇させた。


「いきますわよ、ストーカー野郎……!」


 突撃する。





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