ラーメン編『スープを作ろう! 畜生街道激闘伝』‐8
おりん・スチュワートは言う。
「ところで、お嬢様がた。骨をお探しってえことは、茹でて出汁にするおつもりですかい?」
「ええ。この亜理紗が少し――面白いことを試してみたいらしくて」
「へえ、そりゃあ完成したら是非とも食べさせていただきたいもんですぜ」
「そうですわね、おりんさんも一緒に食べられるよう図らいますわね」
「いえいえ、そんな滅相もない……!」
と、会話していると、亜理紗が不思議そうな――それでいてどこか面白そうな顔で、こちらを伺っている。
「……なんですの?」
「いや、なんというか……キミ、おりんさんにはすごく純真で優しい感じだね」
「あら、いやですわね。――わたくし、誰に対しても、いつでも、純真で優しく接していますわよ」
「……そうだね……!」
なぜか慄く亜理紗の同意を得たので、とりあえず淑女らしくおほほ、とか笑ってみせた。
――まあ、実際、おりんさんには優しいというか、甘いというか……そういうところがありますけれどね、わたくし。
自覚はしている。
いや。自覚しているというか、この人には優しくしようと、そう思ってしまう僕がいるのだ。
「お嬢様は素直じゃねえところもごぜえますが、優しいお方ですぜ」
「ああ、それは私も同感だとも。悪役に徹しきれないところとか、愛おしい」
「さらっと愛おしいとか浮ついたセリフを言わないでくださいな」
悪い気はしないが、バツが悪い。悪戯がばれた子供のような気持ち。
はあ、とため息を吐く。
――おりんさんには、あまり強く言えないんですわよね。
個人的な引け目があるから。
「ですが、安心しやした。お嬢様にも、ちゃんと――学校で一緒に入れるお人がいたと」
なんて、儚げな笑顔で言われてしまえば、
「……もう」
と、少し顔をそむけるくらいしかできなくなってしまう。
畳に正座して、出された白湯を呑むのもまた風流というか、悪くない。
「ああ、そういえば」
他愛ない会話の途中で、ふと思い出したようにおりんさんが言った。
「ご存知でありしょうか、お二方。最近、このあたりで妖がよく出るもんで――暗くなる前に帰られたほうがよろしいかと」
妖――妖怪変化の類い。
人を襲うこともある――というか、この似非大正時代ゲームの世界観では、普通にエンカウントするモンスターだ。ゲームで郊外を歩いているとメタル一反木綿とかと戦えた。経験値がうまい。
そういったものが、人の多い街中に出ているという。元々、妖怪変化は民衆の口にのぼることで実在概念が強化され、存在するようになってしまったものだ。
しかし、科学の台頭で『理論で説明できないもの』の概念が衰退している大正においては、もはや珍しいものだと言える。街中で出るなど――それこそとんでもない大事件だ。
そして。
新宿に出る化け物に、僕はひとつ思い当たるものがあった――。
「……それって、まさか」
「時期的におそらく間違いないね、リリィ君」
同じ前世の知識を持つ亜理紗が、意味深に呟いた。おりんさんは不思議そうに首を傾げているが、それどころではない。
「4月、新宿、妖……。討伐イベント――攻略キャラのひとり、リュー・ノークランが絡むイベントだ」