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スープを作りましょう。(6/26)


 授業は正直、退屈である。

 魔術的にどうのこうのという話をしているが、なんのことはない、宗教と自然の話ばかり。

 確かに魔術を扱うにあたってそれらは必要な要素ではあるけれど、あくまでもゲーム的に理解するならば、不必要な知識ともいえる。


 ――わたくしの場合、術式系統はイングランドが源流でー、だとか炎の精霊との同調がー、とか言えますけれど、要するにMP消費して呪文唱えたら火が出るだけですもの。


 今さらになって思うけれど、この世界の設定が興味深い。

 ゲームでは、この学校はただ単に『魔術学院』としか呼ばれていなかった。十五歳で入学し三年間を過ごす学校なので、高校だと思っていたのだが、正確には違う。


 この世界においても、大正という時代は教育が普遍的なものではなかった。

 多くの人民は初等教育にあたる尋常小学校を出れば働くのみ。その後、中等教育をクリアしたものが高等教育に進めるのだが――この時代、高等教育とはすなわち前世の二〇〇〇年代の大学教育に当たる。

 本来、大正時代に十五歳から入れる高等教育機関はないはずなのだけれど、まるでゲームの設定に無理矢理世界を合わせたかのように、この学校だけが十五歳から入学可能なのだ。


 ――というのは、うがちすぎた考え方ですわね。


 この世界を創った神のような存在がいるならば話は別だけれど。

 前述の通り、大学に相当する魔術学院は教室を選んで受講するタイプの学校だ。

 退屈ではあるけれど、それでも暁之宮家の令嬢として、真面目に授業を受ける。

 同じクラスをエドガー(学年がひとつ上だけれど、時間割さえ合えば受けられるようだ)も受講しているけれど、いくら婚約者とはいえ一緒に受講するのははしたないので、しない。


 ――今さら令嬢ぶっても、という気もしますけれど。


 苦笑する。と、教授と目があい、慌てて顔を引き締めるのであった。

 さて、授業後。教室の外の廊下で、エドガーに呼びかけられた。


「やあ、リリィ。昨日は一緒に帰ったらしいね」


 誰と、とは言わない。わかっているのだろう。


「ごきげんよう、エドガー様。ええ、一緒に帰りましたわ。彼女をわたくしの従者にすることにしましたの」

「へえ。じゃあ、騎士の礼を受け入れたわけだな。尊い」

「違いますわよ、ただ有用だから雇っただけですわ」

「でも、登校も同じ馬車だったそうじゃないか。尊い。ただの従者にそこまでするかい?」

「会話の合間に尊いって挟むのやめてくださいません?」


 正直気持ち悪いですわよ、と言いかけたが、令嬢っぽくないのでやめた。

 ……と、エドガーの背後、廊下の曲がり角から、褐色の少女が現れた。

 噂をすれば、というやつだ。この後一緒にある場所に行く予定なので、合流する予定だったのだけれど、ちょうどいい。


「失礼、リリィ君。遅れてしまった。それと、エドガー・鬼島様。ごきげんよう、と挨拶したほうが良いでしょうか?」

「いいや、別に構わないよ、セントラルさん。敬語も無理に使う必要はないよ?」

「そうかい。では、お言葉に甘えよう」


 紳士的だがマナーにうるさくないエドガーと、紳士的だがマナーを知らない亜理紗は相性が良いように思える。

 そこで、ふと、エドガーがなにかを目ざとく見つけた。


「ん? セントラル君、なにやら首筋に、うっすらと痣のようなものが……あっ」


 こちらを見る。


「いや、みなまで言わなくていいよ、リリィ。僕はわかっているからね……!」

「そのネタはもう彌生がやりましたから、二度ネタですわよ。失格……!」

「リリィ君、ネタ批評よりも事実誤認を訂正したほうがよいのではないかね?」


 というか、数時間残るくらい強く吸い付いたのか、僕は。

 恥ずかしい。


「……エドガー様が考えているようなことではありませんわよ。少し馬車が揺れてぶつけただけですもの」

「ふむ。まあ、そういうことにしておこう」


 それはそういうことにしておかない人間の言い方だ。

 なんだか急激に面倒になってきたので、僕は早々に立ち去ることにした。予定もあるし。


「では、エドガー様、わたくしたち、これから少々行くところがございますので、失礼いたしますわね」

「行くところ?」


 エドガーは眉を顰めた。


「それはセントラル君とデート、ということかい?」

「違いますわよ。エドガー様、少しは自重なさってくださいな。仮にも鬼島家の長男で、わたくしの許嫁なのですから……」

「善処しよう。だがゆめゆめ忘れないでくれ。――僕は同性との遊びを浮気だとは思わないということを」

「むしろ婚約者としては忘れたい事実ですわよね、それ……」


 それに、行く場所が行く場所だ。デートらしさは微塵もない。

 僕らがこれから向かう場所――それは。


「そういえば、エドガー様はご存知かしら。あまり綺麗な名前の場所ではないので、学校では口にしたくないのですけれど――畜生街道という場所ですわ」



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