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 そのパーティの当日、エボニーは沢山集まってきた殿方がいる大ホールを一通り見て、そこにセイボルが居ることに気がついた。

 セイボルはこの中で一際目立ち、女性なら誰しもそこに視線が行ってしまう。

 そして城に仕える女達もセイボルの事を噂し、男達もまた、賭けでもするようにセイボルが有力候補だと言い合っている。

 エボニーもセイボルならジュジュのお眼鏡に適うと思ってならなかった。

 そんな時、セイボルと目が合い、エボニーはにこりと微笑んだ。

 セイボルは少し戸惑ったが、軽く会釈をして、それに一応、応えていた。

「それにしても、そろそろパーティが始まる頃なのに、ジュジュ様がまだいらっしゃらないなんて」

 不思議に思い、エボニーはジュジュの様子を見に行った。

 そのジュジュの部屋の前で人だかりができ、皆顔を青ざめている様子から何か起こったと察すると、エボニーはその人混みをかき分けて、ドアの前に突進んだ。

 そこにカーラだけが、落ち着いて対処している様子が目に入った。

「一体何があったのですか?」

「ジュネッタージュ様がまだベッドからでていらっしゃらないんです」

 周りはそわそわしているというのに、カーラだけはこの状態でも泰然としていた。

 ただの見栄張りで落ち着いたフリをしているのか、エボニーには真似できなかった。

「えっ、もうパーティは始まるのに、まだベッドの中ですって? ジュジュ様、エボニーです。すぐここを開けて下さい」

 慌ててドアを叩くエボニーを制するように、カーラは叩いている彼女の手を軽く掴んだ。

「無駄です。ジュネッタージュ様は自らはでてこられません」

「でも、なぜ? 昨日あんなに楽しみにしていたのに」

 それは皆も不思議に思うところだった。ドアの向こうですすり泣きも聞こえてくる。ジュジュに一体何が起こったというのか。

 急病か、怖気づいたのか、そこもはっきりせず、皆が思い思いに心配しているところへ、先ほどカーラから言付かった男二人が、斧を担いでやってきた。

 皆、波が引くように道を開け、斧を持った男達はカーラの顔を確認すると、カーラが一度首を振ったところで、その斧が宙に振り上げられる。そして、容赦なくドアめがけてそれは襲い掛かった。

 そのぶつかる凄まじい音で、折角収まっていた王女の鳴き声がまた大きくなった。

「な、なんと乱暴な」

 エボニーが責めるようにカーラを見ると、カーラは顔色一つ変えずに、男達の様子を静かに見守っていた。

 ドアは斧が食い込み、その先が内側からも見えるようになった刹那、中が覗けるくらいの穴が開いた。

 さらにドアの穴は大きくなり、そしてついにドアを支えていたつっかえ棒の鍵は壊れ、ジュジュの部屋を守りきれずに開いてしまった。

「ギャー」

 それを合図に、ベッドの中でシーツを被り込んで丸くなった塊から、潰されたような悲鳴が上がった。

 皆、中を覗き込もうと押し合いへし合いしていると、カーラはゆっくりと部屋に入り、エボニーもその後をついて行く。

「ジュネッタージュ様」

 静かにカーラの声がその部屋に響くと、皆息を飲んで見守った。

 シーツの中ではひっくひっくと啜り泣いて、その体は震えている。

 エボニーは我慢できなくなって、ベッドに近寄り、シーツの上からジュジュを抱きしめた。

「何も心配は要りません。大丈夫ですよ。少しぐらい遅れても皆さん待って下さいます」

「ご、ごめんなさい」

 泣き疲れて、喉をやられた声は、いつものかわいらしいジュジュの声ではなかった。

 エボニーはなだめようと、背中をシーツの上から擦り、安心させようとする。

 そして優しく微笑みながら、そのシーツを捲ったとき、誰しもはっとした。

 シーツの中から、顔を出したのはジュジュではなく、同じ年頃の世話係、グェンだった。

「こ、これは一体」

 エボニーが目を見開いてびっくりしている側で、カーラは表情を変えずに問い質した。

「ジュネッタージュ様はどこにいるの?」

 怯えきりながらも、ジュジュの代わりとなったグェンは息を詰まらせながら答えた。

「お、お城を、で、出て行かれました」

 その言葉でそこにいた者全てが、顎が落ちるほど口を開けて大いに驚いた。

「ちょっと、出て行ったって、一体どこへ」

 取り乱したエボニーは、責めるように訊いた。

「わ、私はただ、代わりになるように仰せつかっただけで、く、詳しいことまではわかりません!」

 それを搾り出した声で言った後は、泣きじゃくってしまい、その後は何も答えなかった。

 カーラは他の者に、グェンを宥めるように指示をした。

 そして息を洩らすように呟く。

「仕方ありませんね」

 他人事のように言うカーラに、エボニーは納得いかなかった。

「仕方がないって、そんな言葉で収まる状況じゃないじゃないですか。ちょっとどうするんですか」

「ご本人がいらっしゃらないのなら、このパーティは中止するしかないです」

「パーティもそうですが、お城を出て行ったなんて人に知れたら、一大事じゃないですか。ジュジュ様に万が一の事があったら」

「では、世間に知られないようにしないといけませんね。それでは、ジュネッタージュ様は急病ということにいたしましょう。皆さん、この事は絶対に口外されませんように。これはジュネッタージュ様の名誉にかかわることでもあります」

 そこに居た者は、とんでもない事態に、顔を青ざめて頷いた。

 この天空の王国の跡取りに何かあれば、この国は終わってしまう。

 その時はドラゴンが驚異的になり、人類を脅かし、そしてこの世界の秩序が乱れてしまう。

 そんな破滅に繋がる、危機迫った状況に皆恐れ、何がなんでもジュネッタージュがこの城から居なくなった事を隠し通さねばならなくなった。

 もし事実が知れ渡り、よからぬ者に誘拐されることにでもなれば、それもまたこの国の存亡に係わってしまう。

「とにかく、そこの者、確かグェンでしたね。ジュネッタージュ様に代わりを申し付かったのなら、戻ってくるまでその任務を全うしなさい」

 カーラは、目を真っ赤にして泣いているグェンに命令した。

 この国、いや、この世界の存亡がかかっているのなら、そうするしかない。

 グェンは昨晩交わした王女との会話を思い出しながら、首を縦に振っていた。


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