5.僕と生徒会庶務
「あ、あの、それで、僕に用事というのは」
そうだ、僕、工藤先輩に用があるから生徒会室に来いって言われてたんだ
「え?もう済んだが?」
「えっ?」
「日野君に用っていうのは、生徒会役員を紹介するためだが?」
…それだけ?それで僕を呼んだんですか?
「えーっと、じゃあ、僕帰りますね」
「そうはさせるか!」
僕は生徒会室を出ようと、扉を開けようとした。
すると、工藤先輩が扉の前に立ち、僕を生徒会室から出さないようにした
「あー、あの、通してください」
「ここを通して欲しいのなら、まずはこの私を倒すことだな…あぁっ」
僕は先輩の横をすり抜け、生徒会室を出た
「失礼しましたー」
相変わらず騒がしい人だったな…
ほかの生徒会役員の人ってどんな人なのかなって思ったけど、まともな人が二階堂先輩と早乙女先輩しかいなかったな…
猫村くんはよくわかんないし、宮澤くんは工藤先輩と似たような感じがしたし
「おーい!転校生!」
後ろから声がした。振り向いてみると、宮澤くんが追いかけてきていた
「えっと、何か用かな?」
「…お前さ、会長のこと好き?」
?!別に、嫌いでもなければ好きでもないんだけどな…
「え、いや、別に…」
「そっか…」
宮澤くんが、少し安心したような表情になった
じゃあ、宮澤くんは工藤先輩のことが好きなのかな?
さっきも僕と先輩が付き合ってるとか、そんな話になって、少し動揺してた気がしたし
「宮澤くんはさ、工藤先輩のこと好きなの?」
「?!」
急に聞かれて驚いたのか、少し表情が固くなった
「あ、ごめん、言いたくなかったら」
「…俺は会長のことが好きだ。すごく大切な人だと思ってる。けど、恋愛感情としての好きとは違う、と思う。大袈裟かもしれないけど…会長は、俺の”恩人”なんだ」
恩人…?とてもそんな風には見えないんだけどな…
「あのさ、もしよかったら、俺がどうして生徒会に入ったのか聞いてくれるか?」
「え?う、うん」
このあと特に用事とかないし、別にいいかな
ー時は遡る(4月くらい)ー
「あいつ、北中の宮澤だろ?」
「え、マジで?あの不良の?」
どいつもこいつもうるせぇなぁ…
俺は不良じゃねーよ
教室じゃ落ち着いて昼メシ食えねぇし、屋上行くか
「…」
ここでも落ち着いて食えなかったか…
さっきからコソコソしてる奴が二人いるとは思ってたが、俺のことガン見してるよな
一人は美人の女子。もう一人はメガネの男子
しかも話丸聞こえだし…
「あいつ!あの男子が宮澤龍だ!」
「だったら早く話しかければいいじゃないですか…」
メガネの言う通りだ。何か用があるなら早く話しかけてこいよ
「えー、なんか急に殴られそうでヤダ。だってあいつ不良なんだろ?」
「らしいですね」
あー!もう!
「俺は不良じゃねぇよ!」
「うわっ!急に叫ぶなよ!私のあんぱんが落ちそうだったぞ!」
んなこと知らねーよ
「俺に何の用だよ」
「コホン…宮澤龍くん!生徒会に入らないか?」
生徒会?なんでそんなもんに俺が入んなきゃいけねーんだよ…
「はぁ?なんだよ急に。そもそもお前誰だよ」
「私は工藤桃香。この学園の生徒会長(になる予定)だ!」
…生徒会長ってことは2年生だよな
「なんで俺が生徒会なんかに入んなきゃならねぇん…ですか」
「ん?なんで急に敬語になったんだ?」
「え、俺、1年だし…」
一応敬語の方がいいだろ…嫌だけど
「…あっはははは!君、面白いな!…ますます気に入った。」
なんだよ、気に入ったって…
「私が君に生徒会に入ってほしいのは…君が欲しいからだ!」
は?え?俺が欲しい…?何言ってんだ?!
「お、俺は」
そのとき、俺の言葉を遮るかのように、昼休みの終わりの鐘が鳴った
「もう時間です。戻りますよ」
「はぁーなぁーせぇぇぇえぇぇえぇ」
さっきから一言も言葉を発していなかったメガネがそう言い、生徒会長(仮)を引きずって戻って行った
「あっ、そうだ」
メガネが口を開いた
「なんだよ…ですか」
「授業はサボらず、しっかり出てくださいね」
この笑顔に裏がある気がした
「…」
その日の帰り。
なんなんだよ…あの生徒会長。
俺が欲しいとか、何言ってんだよ…
「あー、いたいた!」
げっ…この声って…
「宮澤くん!」
やっぱり…さっきの生徒会長だ
「今時間あるか?」
「…ハイ」
うわあああああああ
なんで俺OKしたんだよ!断ればよかったのに!!
「…私は君が欲しい!」
「えっ、いや、ちょっと待ってください!ここ学校の前っスよ!何言ってんすか!」
下校中の人全員の視線が…
「と、とりあえず、こっち来てください!」
俺は先輩の手を引っ張って、人気の少ない公園に来た
「はぁっ…はぁ…な、なんであんな人が多いところであんなこと言ったんすか…」
「なんでって、さっきの話の続きをしようとしたからだ。それ以外に理由はない」
やっぱ、この人変だ
「もう一度言う…私は君が欲しい!」
「わかりましたから!もう言わなくていいっす!」
地味にそのセリフ恥ずかしいんだよ!
「俺が欲しいとか、訳わかんないんすけど…」
「私も、自分が何を言っているのかわからない。だが、ただ一つわかるのは、君が必要だ、ということだ」
「…」
「この間の入学式、私は、君のことをずっと見ていた」
は?!何?見てた?俺のことを?ずっと?!
「9時20分、欠伸してただろ?で、9時40分には足を組んで寝てた。確か、左足が上だったな」
いやいやいやいやいや!
「なんでそんなこと覚えてんすか!…俺に気があるんすか」
「いや、無い」
即答…。ちょっと傷ついた…
「じゃあ、なんで俺なんか」
「貴様。」
その一言で、空気がピリッとした
さっきまで俺のことを『君』と呼んでたのに…
「不良、と言われているな」
!!!
「!俺は不良じゃねぇ!!俺のこと何も知らねぇくせに、不良とか決めつけてんじゃねーよ!!!」
「知っている」
…今、知っている。って言ったよな…初対面のはずなのに
「貴様のことは何も知らない。だが、”不良ではない”ということは知っている」
「…質問していいっすか」
「何だ?」
「俺は、周りから不良っていわれてんのに、なんでアンタは俺が不良じゃないっていうんですか…」
「え?んー…どうしてって言われてもなー」
さっきまでの空気が一気に普通になった気がした
「だって、君、自分で不良じゃないって言ってるだろ?」
「は、はぁ…」
「本人が言ってるなら、それでいいだろ?それ以外に何があるんだ?」
この人は、変だ。
誰も近寄ってこない俺にこんな風に接してくるのは、この人が初めてかもしれない
いや、今までこんなことなんて無かった
「…はははっ…俺にそんなこと言ってくれたのはアンタが初めてっすよ」
「私が初めて、か。じゃあ、私は君の恩人と言っても過言ではないな。なら、恩人である私に」
「わかってます。恩人のアンタ…桃香会長にちゃんと恩返ししますよ」
「よし!なら、今すぐ学校に戻って生徒会に入る手続きを」
いや、もう学校閉まってますから
「宮澤くん…いや、龍!これからよろしくなっ!」
ー現在ー
「ってことがあって、俺は生徒会に入ったんだ」
なんというか、工藤先輩っていろんな意味ですごいな…
「だから、桃香会長がお前のこと」
「?」
工藤会長が俺のこと?なんだろう?
「あー、いいや、お前鈍感すぎる。とりあえず、聞いてくれてありがとな!じゃあ!」
宮澤くんは走って学校に戻って行った
わざわざ、この話をするために僕のところまで来たのかな…?