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姪御×王子  作者: 味醂味林檎
第五章 望みの果て

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第三十七話

 ロズたちに少し遅れてクロヴィスの馬車が王都へ着いた。クロヴィスは王女ネビューリオ救出の命令を使い魔によって魔族たちに伝えると、ロズたちを追って王城へ入った。快く招かれてはいるが、相手にも何か考えがあってのことと思えば緊張もする。此処は実質的な敵地である。

 先に辿り着いたロズは、イースイルの引き渡しについて、それよりも先にミルディアとの謁見を求めた。一つ話をして納得のいく理由を聞かなければならないと言い張れば、王城に仕える者たちはミルディア王女に伺いを立てると答えた。その結果、ミルディアは今は外に出ているがすぐに戻ると返答を寄越し、今は彼女の到着を待つばかりであった。戻ってきたら隙を見て拘束する算段である。

「成る程、多少時間稼ぎはしてくれたのか」

「どうせ直接会う機会も作らなきゃならねえだろ。全部終わった後でのお話じゃダメだからゴネてみた。まあ向こうも俺たちと話す必要があるってことなんだろうが」

「罠……があるのだろうね。まさか我々が素直に従うとも思っていないだろう」

「シャルロッテ殿のこともあるしな。でも王都にいる連中にはもう命令を出してくれたんだろ? 俺はもうそのつもりで、イースイルには魔族たちを王城へ引き込んでくれって頼んだんだが。オッさんもいるし」

「ああ。だから僕たちの役目はミルディア王女の気を引いてることで、その間に他のみんなにネビューリオ殿下とパレイゼ殿を救出してもらおう。シャルロッテもいることだし、王都中に僕の使い魔たちを作って飛ばしている。統率には問題ない」

「よし。つうか、いくら魔王ったってよくそんな数の使い魔扱いきれるよな……魔力とか頭ン中どうなってんだ」

「ハハハ、こんなのは慣れだよ。昔国境の防衛戦でも似たことをやった。古い時代の遺産に、幾つかの魔術品で並列処理をするようなものがあってね。それを参考にしているんだ」

(それで再現できるってのがすげえんだよな……)

 膨大な魔力を有し、それを扱いきれるのは魔王として当然の能力ではあるが、それ以上に頭の構造がまるで違っているような感覚がある。魔術をそのように使おうとする発想自体がロズにはあまりないものだ。確かに前世の記憶ではコンピュータの並列化というものはよく聞いた話ではあったが、人の頭脳でそれをやってよく混乱しないものだと感心する。それもクロヴィスのいうところの慣れなのかもしれないが、それを実行できる存在は魔力と頭脳を兼ね備えていなければならないのだ――クロヴィスも充分に魔王らしい。尤も、亡き烈風魔王テオはよりわかりやすい、嵐のように強大な力で圧倒する魔術を好む魔術師だったため、まだまだ比較はされ続けるのだろうが。

 ロズはふとあることに思い至った。「……そうだ、すっかり忘れてたけどよ」ジャケットの内側のポケットからあるモノを取りだして、クロヴィスに声をかける。

「なんだい」

「これ、あんたに渡しておくぜ」

 小瓶の中で揺れる赤い液体の正体について、クロヴィスはすぐに答えにいきついた。

「血の薬か?」

「前に心配だからってシャルロッテ殿からいただいたけど、こういうのはやっぱクロヴィスのもんかなあって気がしてさ。あんたの嫁から借りてた愛はあんたに返すのが合ってるだろ、たぶん」

「……細かいことは今は追及しないでおくよ」

 それは後で全て落ち着いてから問い詰められるということだろうか。妖精の血の薬は献身であり愛そのものに等しいものだが、それを自分ではなく別の誰かに渡されていたことが気に食わないのだろう――たとえそれがいとこのロズであってもだ。薬のことが知れたらどうなるか、想像はついていたが、想像どおりクロヴィスは面倒くさい。

 さて、しばらくすると城の兵士がやってきて「ミルディア様がお呼びです」と言った。彼女が戻ってきたらしい。

 謁見の間に案内される道中、黒いローブを着た男をちらほらと見かけて、ロズは眉を顰めた。まるであの女神祭のときに現れた怪しい人物と同じではないか――それによく見れば、騎士たちが剣ではなく銃を持っている。このレテノアで銃などと。

「ああ、やっぱり物騒な喧嘩になりそうだ」

 最近はどうにも溜息をつくことばかりで、幸福がどこかへ霧散しているような気分がして仕方がない。

 美しい城の長い廊下を進んで、大きな扉をくぐった先で、ミルディアは待っていた。相変わらず、華々しい美しさを感じさせる顔立ちで、真紅のドレスも均整の取れたしなやかな肢体の添え物に過ぎない。いつ見ても大輪の薔薇のような王女である。ただしその瞳は、棘のような鋭さを持っている。

「ようこそ、ゲリア城へ」

 ミルディアが言った。それと同時、周囲から強い殺意――もとい銃口を向けられる。部屋にいた騎士たちは皆一様に近代的な人間の兵器で武装していた。よく見れば、それは銃剣と言われるようなものだった――小銃にナイフがとりつけられているのだ。室内の近距離戦闘であっても対応できるように手を加えられた武器である。だがそれで怯むようではやっていられない。クロヴィスが不満げに「変わった趣向だ」と言うと、ミルディアは子供をなだめるかのような口ぶりで答える。

「あまり自由にさせてはあげられないのよ。あなたたちにはそれなりに力がありますからね」

 じっとりと、観察するような目つきで、ミルディアはロズたちを眺めて言った。

「ベルク公爵、今日は随分と――そう、動きやすそうな格好をしているわね。まるでソリルリザートで害獣狩りをしたときのよう。クロヴィス殿もあまり華やかではないし。魔界ではそれが流行りなのかしら」

「ゲリアの城には害獣より恐ろしいものがいるかもしれないと思いましてね」

 全く穏やかでない挨拶を交わしながら、ロズは周囲を見渡して、あることに気が付いた。

(ラドルフは――いない?)

 さっと見回しても、ミルディアに非常に近い存在であるはずのあの騎士がいない。何か他に仕事を言いつけられているのか――この場にいない、ということが気にかかった。

 だが、それよりも現状がまずい。こちらにはロズだけでなくクロヴィスもいるが、随分と向けられている銃が多い。すぐに撃ってこない辺りこれは脅しのつもりなのだろう。それはつまり、ミルディアのほうにロズたちに対する話があるということだ。

「茶番はどうでもいいのよ」

 あなたたちが素直に恭順するとは思っていません、とミルディアは言った。彼女の顔は交渉するものの表情だ。難しい、などと口では言っても随分と余裕があるように見える。

「ただ認めればいいのです。パレイゼ・リードは反逆を企てた大罪人であり、ベルク公爵の使用人もイースイルを騙る詐欺師だと。簡単なお話でしょう?」

「真実を隠すことが容易いと?」

「わたくしが言ったことが事実になるのよ。真実に拘る必要がどこにあるというのかしら」

 ロズやクロヴィスがあからさまに不服だと態度に示しても、ミルディアはそれを鼻で笑うだけだった。

「わたくしにも考えがあるわ」

「考え……」

「そう。わたくしは理想的な国家を作り上げたいのです。そのために障害となるものを排除していかなければならない。あなたたちだって、魔王を決めるときに競い合って他人を蹴落とすことがあるでしょう。自分のほうがより優れた魔王として魔族を治められると信じているから、そういうことができるの。違うかしら?」

 最早取り繕う気もないようで、いっそ開き直りとも言えるような態度でクロヴィスを煽る。確かに魔界で魔王を決めるときに強いもの同士で競い合い、時に殺し合うことがあるのは事実だ――クロヴィスは苦虫を噛み潰したような顔をした。

「よりよいレテノアを築いていくために、わたくしたちは変わらなければならない。だからいらないものから捨てていって、新しいものを取り入れていくの。これから先の時代、わたくしたちには自衛の力もあるし、このままでは魔界は徐々に必要ないものとして退化していくだけ――少し考えればわかることかと思うけれど、わたくしの支えになるというのなら悪いようには扱わないつもりよ。たとえばパレイゼは無理でも――シャルロッテ姫のことくらいは、見逃すこともできるのよ」

 甘い毒のような誘いが耳につく。しかしながら不快さもあった。完全に、自分が優位に立っていると信じ切っている台詞だ。それほどまでに『自衛の力』とやらに自信があるということか。それこそ魔王を殺せるほどに。

「より強く、より逞しく、誰からも侵されない。わたくしたちが自由に動くために、正直に言ってしまえば、魔界のみなさまが協力してくださらないのなら邪魔でしかないわ――今後のことを思うのなら、わたくしにつきなさい」

 この場で心臓を捨てたくはないでしょう、とミルディアが自分の心臓を指すような仕草をして語る。

 ここで彼女を敵に回したならば、今すぐにでも銃で撃たれることになるか、それを切り抜けた後で魔界を滅ぼすため攻めてくるのではなかろうか。ミルディアに従う派閥を引き連れて、外から得た近代兵器を使って魔界を蹂躙しようとするに違いない。それを脅しのネタにして、都合がよければ魔族という戦士たちを犬のように飼い馴らすつもりなのだ。

「ふざけた話だ」とクロヴィスは一蹴した。ロズもそれに同調する。

(そうだとも、それでこそ魔王ってもんだ)

 妖精と魔族は対等でなければならない。形の上でこそ魔族は妖精に傅いてきたけれど、それはあくまでも国としての体裁を整えるために繕われた形だけのもので、本質としては対等な存在であったのだ。互いに敬意を抱きながら、自分たちにない力を貸し合う関係を崩そうとするものを認めるわけにはいかない。

 ミルディアは「残念だわ」と大袈裟に肩をすくめた。

「それならあなたたちには死んでもらうしか――」

 彼女が言いかけたその時。



「う、おっ!?」



 足元が地震のときのように激しくぐらついて揺れる。どこかそう遠くない場所で何か音がしている。重低音で響いてくるそれは、ロズには覚えのあるものだった。この感覚はよく知っている――巨体の害獣が暴れているとき、ちょうどこんなふうに地面が揺れる。

「一体何が……」とどこか慌てた様子のミルディアは、状況を正しく理解できていないようだった。間もなくしてドアが開き、妖精の兵士が「ほ、報告します」と動揺した様子で入ってきた。

「が、が、害獣が現れました、王城のすぐそばです。女神祭のときに現れたのと同じものが、今、すぐそこで暴れています。どうやら魔族の兵士たちを襲っているようですが、いつ他に被害が広がるか……!」

「まさか――いえ、対処はします。そのための心当りはある……魔族の兵士とは魔王が用意したものね? 裁きの理由に加えておかなくては――間違いなく反逆者なのですからね」

 ミルディアにきっと睨まれながら、クロヴィスは「何を仰る」と笑った。

「我々は王家にたてついているのではない。あなたにたてついているのだ」

 ネビューリオ王女に仕えると決めたのでね、とクロヴィスが言うとミルディアは不機嫌そうに眉を寄せた。

「――魔王とて死ぬときは死ぬのよ。最期の言葉にしてはつまらないことを言うものね。お前たち、魔王とそのいとこを始末するのは任せます。わたくしはやることができたわ」

 ミルディアはそう言って、騎士の数人を連れて部屋から急いで出ていった。恐らく冷静ではない、そんな様子だ。未だ振動する床の上を器用に駆け抜けていく彼女を止める間もなく、ロズたちはただ向けられた銃の対処に集中するほかなかった。

(冷静になれ――こいつらは銃の戦い方をわかってねえ)

 銃口を向けられているが、迂闊に発砲すれば味方に当たるような状況を作っている時点で相手は銃に精通していない。新しく用意された兵器を持たされているだけで使いこなせるわけではない。それも室内でライフル、それにナイフがとりつけてあるようなものだ。大きな銃は小回りが利かないし、ナイフという重りで銃口のブレが減ったとしてもむしろ銃そのもののバランスが崩れているのだ――それならば命中精度も特別よいわけではないはずだ。これだけ近くて外すやつがあるかとは思うが、重たい小銃を素早く完璧に扱えるほど彼らは慣れてはいないだろう。今は司令塔のミルディアもどこかへ行ってしまったのだ。しかしながら、その弾丸の威力ときたら拳銃とは比べ物にならないほど破壊的だ。万が一、一発でも当たれば烈風魔王の死のときと同じことになる。

 ロズが「クロヴィス」と呼ぶと、彼は安心しろと落ち着かせるかのようにいつもどおり、何事もないような顔で頷いた。クロヴィスが腕を頭上に掲げると騎士たちはライフルの引き金を引いた。それと同時、クロヴィスが指をぱちんと鳴らすと嵐と錯覚させるような強い風が巻き起こり、彼とロズを守るように弾丸を全て弾き飛ばした。ライフルの強力さなど微塵も感じさせないほど、クロヴィスの魔術は完成されている。

「さっすが」

 言いながら、ロズが自らの銃を取りだしてドアに一番近いところにいた騎士を、二発目の準備をさせるより早く撃つ。

「拳銃は速いんだぜおばかさんども!」

 風の魔術を仕込んだ銃弾は騎士の鎧を破壊して、相手を戦闘不能に追いやった。撃つより刺す方が早いとわかって銃剣を槍のように構える騎士たちを擦り抜けて、ロズとクロヴィスは包囲から抜け出した。

「ロズ、ミルディア王女を追え。僕はこいつらを片付けてから害獣のほうを見てくる」

「……了解、やれるだけはやるぜ。早く終わらせろよな!」

 ロズはクロヴィスに背を向けて、ミルディアが出ていったドアをくぐる。たった一人で護衛を引き連れたミルディアと対峙するのは少々荷が重いが、どうも他も忙しそうで人手は望めない。風の弾丸は拳銃に残る五発と、予備の弾が十八発だ。魔術を仕込むのに手間がかかるため、大量に作るということはできなかった。そもそもあまり持ち歩くと重い。

 背中にロズを見送って、クロヴィスは再び指を鳴らした。強い風が巻き起こり、クロヴィスを守りながら、鋭い刃として騎士たちを切り裂く。恐らく真新しいであろう銃剣も切断するほどの鋭さを持って、クロヴィスの風は室内を吹き抜けた。

「な……なぜ……銃は魔王をも殺すと……聞いて……」

 大勢の騎士たちが武器を破壊され、自らの鎧を切り裂かれて動揺していた。クロヴィスは「くだらないやつらめ」と吐き捨てる。

「良い武器も使い手がこれでは。そもそも、魔王相手に二度も同じ手が通用すると思っているのか」

 いくら先代の烈風魔王テオがあまりにも優れた魔術師だったとはいえ、クロヴィスはその血を引き、その才能を受け継いだ正統なる魔王の後継である。現在レテノアで最も優れた魔術師はクロヴィスであり、その魔術が人間の兵器に後れをとるはずがなかった。

 風が彼の意思に従って、騎士たちを薙ぎ払い、昏倒させていく。その風の在り方といったら、さながら旋風のように鮮やかで強烈であった。

「さて、害獣とやらを早いうちに潰さないと――民を守ってこそ誇り高き魔族の戦士だ。そもそもネビューリオ王女を救いだしたときに外で怪物が暴れてるというんじゃムードもないし」

 独り言が部屋に響くが、それの返事は騎士たちが傷みや恐怖に呻く声だけだった。

 妖精の騎士たちは血を流しているが、所詮は騎士にすぎないありふれたものたちの血ごときで仲間を癒しきれるはずもない。彼らが戦闘に復帰することはないと判断したクロヴィスはすぐさま部屋を出て外へ向かう。外では魔族が戦っているという――それはシャルロッテが率いる魔界の軍勢なのだ。足は意識せずとも急ぎ、外へ向かって疾走していた。

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