獣人王国の精霊使い 5
「獣人王国の精霊使い」最終話です。
「俺とルザミが婚姻を結ぶと思った、だとお!?」
びりびりと空気が振動するような大声に、私は思わず耳を塞ぎながら、半泣きで答えた。
「だって、だって、聞いたんだもん! ルザミさんが、ヴァレオさんと一緒に暮らしたいって言ってるの!」
物音に驚いて様子を見に来た兵士さんたちに、ルザミさんは「何でもないのよー」と声をかけ(何でもない訳がないけど)、私たちは嵐の後のようになった談話室を出て、夕暮れの中庭を歩いていた。
「違うわ」
ルザミさんは首を横に振って微笑む。
「私が一緒に暮らしたいって言ったのは、貴女とよ、すず」
呆然とする私の手を、ニコニコしながら取ろうとするルザミさん。ヴァレオさんがバシッと払いのける。
「触んなルザミ。あのなすず、この男は自分と俺とお前の、三人で婚姻を結ぼうと提案してきたんだぞ」
「な、何ですか、それ!?」
「昔の王族の習慣でね、あるのよ。一妻多夫制。それを復活させましょうって言ったの。だって……すずと一緒にいたいんだもの」
ルザミさんは流し目で私を見る。
「正式な婚姻を結ぶときに、私も入れて欲しかったの。どう、すず? 私、ヴァレオとは違って優しい夫になるわよ」
一瞬、ぐらっと来てしまった。
「ぐらつくな、すず!」
バレた。
「だって、ヴァレオさん、怖い」
震える声で言うと、「そうよねぇ?」とルザミさんがまた私の手を握ろうとした。ヴァレオさんはまたバシッとやりながら、私に言う。
「大体、なんでこいつを女だと思ってたんだ?」
「人間には、見分けにくいものよ」
ルザミさんが笑って両手を広げる。
「こうやって隠していればね。同じ鎧獣人ならすぐわかるけど」
彼女、ううん彼の言う通り、長い髪とマントは意図的に男性としての体型――首と肩のあたりが見えていれば、私だってすぐに男性だと気づいたはずなのに――を隠している。そう、それに額飾りもだ。男性の方が、額の金属部分は大きい。
ヴァレオさんは、ぴくりと眉をはね上げた。
「……お前、俺達にはその格好について説明したくせに、すずだけには黙ってたな」
「すずから聞かれるまでは、と思って。女同士の方が、側に近付けると思ったし。うふ」
「うふじゃねえ!」
盛り上がる(?)二人を見比べて、私は困り果てて尋ねた。
「も、もう教えて下さい。どうして、女性らしくしてるんですか?」
「これはねぇ、私なりの処世術なのよ」
ルザミさんは片手を頬に当て、ため息をつく。
「人間から見ると、鎧獣人って大きくて怖いみたいで、取引の場でいちいち怖がられるの。獣人は獣人でも女性らしくしていれば、少しは怖くないかと思ってね。やってみたら思ったより楽しくてハマっちゃったけど、意識は男性よ。だから……ね?」
私にウィンクするルザミさんに、ヴァレオさんが噛みつく。
「俺は、すずを他の男と共有する気はねぇっ」
「それなら、せめて城で暮らしてちょうだい。可愛いすずを見ていたいから。ね、それくらいいいでしょ?」
あ……。私が立ち聞いたときの会話は、こういうことだったんだ。
「ルザミ、言っておくが、すずが城で暮らすと言っても、俺は王になるつもりはないぞ」
ヴァレオさんは私を引き寄せながら言う。
「妻のすずに、王妃になるしか選択肢がなくなっちまう。こいつはただでさえ無茶をさせられて来てんだ、これからはこいつの望むようにさせてやりたい」
「ヴァレオさん……」
その言葉は嬉しかったけど、私はまだ不安だった。
「その前に私、鎧獣人たちと暮らしていいのかな。皆もここに来てから、私に仕事の話、してくれなくなったし。たった一人の人間にここの人たちは優しいけど、私を見る目が何だか……子どもを見る目みたいで。それも辛くて、帰ろうと……」
「そんな風に思ってたのか」
ヴァレオさんは呆れ顔になった。
「確かに、鎧獣人たちのお前に対する態度は、ちょっと特別だよな」
やっぱり、と私は涙ぐむ。ヴァレオさんは続けた。
「だがそれは、俺たち帰還組のせいだ」
「え?」
訳がわからないでいると、ヴァレオさんはむすっと言った。
「この都市に人間がいないとわかって、すずがここで暮らせるように、帰還組はユグドマでのすずについてあちこちで自慢したんだ。すずはすごい娘だ、ユグドマとツーリの停戦のきっかけを作った娘だって」
「じ……自慢……?」
「お前、巫女姫をやり遂げたってことを忘れてないか? 自分に自信がないせいで、悪いことばかり記憶に残して、自分のいい面を見てねぇだろ」
ヴァレオさんは鼻を鳴らしてから、ルザミさんを横目でにらんだ。
「とにかく、帰還組の自慢で皆がすずに注目して、ルザミみたいな奴が大量発生したんだよっ」
ルザミさんは頬を染め、胸の前で指を組んだ。
「すずはねぇ、私たちの間では人気者なのよ。小さくて可愛い女の子が二つの国の間で堂々と頑張ったなんて、かっこいいわ。まさかその上、精霊使いでもあったなんて! あぁ、この切ないような気持ちは何?」
私は呆然と、ヴァレオさんとルザミさんを見比べた。
……もしかして、その「切ないような気持ち」って。それは日本語で言うなら、萌……いやいやいやいや。まさかそんな。
子ども扱いじゃなかったらしいのは嬉しいけど、私はすごーく、微妙な気分になった。
「そんな風に見られるの、嫌だった? 精霊使いの力の事も、黙ってたし……」
どこかしょんぼりとルザミさんが言い、私は首を横に振った。
「違うの。精霊使いの力を知られたくなかったのは……自分が、心の弱さから力を変なことに使うかもしれないって、怖かったからなの。きっと他の人にも『何でそんな力をお前なんかが持ってるんだ』って思われる、それも辛かった」
私はヴァレオさんとルザミさんを見比べた。
「ヴァレオさんの言う通り、自分の悪い面ばかり気になってたの。でも、ヴァレオさんが思い出させてくれた。私にも強いところがあるんだって、思ってもいいのかな?」
「あったり前だ。大体、俺が側にいるんだからな」
ヴァレオさんが堂々と言い、ルザミさんが口を出す。
「私も力になりたいわ!」
「うるせっ、ここの城の奴ら、寄ってたかってすず、すずって。こいつは俺んだ。あームカつく」
ヴァレオさんがルザミさんを睨んでる。……たまに機嫌が悪いように見えたのは、そのせいだったの……かな。
「あっ。でも、仕事のことはどうして教えてくれないの?」
私が言うと、ヴァレオさんは真面目な顔になって、答えた。
「あと三日、待ってくれ。そうしたら、仕事場に連れてって存分に話してやる」
三日後。
城の作業場で、私は一段高くなったところに立たされて、呆然と自分の身体を見下ろしていた。
肩から肘までを、まるで大きな卵の殻に透かし彫りをしたような形の、繊細な白い金属の肩当てが覆っている。その下から、たとえは変かもしれないけどテントウ虫の外殻から透明な羽がのぞいているように、薄いベールがふわりと後ろになびいている。
両肩の肩当てを、宝石のついたネックレスがつないでいた。これも細かな装飾が入っていて、とても綺麗だ。
「すず」
声に振り向くと、ヴァレオさんが大きな冠を手に立っていた。頭全体を覆うような大きさで、やはり全面に透かし彫りと、綺麗な石が入っている。
「これも、私が……?」
見とれながら言うと、ヴァレオさんも他の皆もうなずいた。
「この都市では、結婚式の時にこういう大きな冠を被るんだそうだ。で、せっかくだから、すずの冠を作るならこっちの職人たちと一緒にやって、俺たち帰還組の技術のお披露目の場にもしちまえって、な。肩当ては帰還組で考えた」
「内緒にしてて、ごめんね。驚かせたくて」
グラーユさんが、ちょっと申し訳なさそうに言う。
皆が時々、私の方をちらちら見てたり、グラーユさんが町のアクセサリー屋さんで意味深な質問したりしたのは、これのためだったんだね。
仲間たちが、口々に言う。
「ヴァレオとすずの結婚式は、帰還組の技術発表会になるからね。こっちの人たちに、バーンと見せつけてくれよ」
「特にここ。この素材でこの蔦模様の透かし彫りってのは、これまでの技術では難しいとされてたんだけど……」
「ここの石のカットは、伝統的でありながらも斬新で」
次々と説明してくれる仲間たちに、ヴァレオさんがぶわっと片手を振った。
「おら、ちょっと待て! 試着が先だろっ」
そして、もう一度両手で冠を持つと、そっと私の頭に載せた。……重い。でもまあ、大丈夫。
「うん。……うん。よし」
ヴァレオさんは、すごく満足そうに、私を見た。
「結婚式の時に、もう一度俺がこうやって載せてやるからな」
「結婚式……正式な、婚姻、ってこと?」
「そうだ。今度はちゃんとやんぞ」
当たり前のように言いながらも、その目はちょっと心配そうだ。
私は、何か言うと涙が出そうだったので、ただ頑張って笑顔を作ってうなずいた。ヴァレオさんはほっとしたように、うなずき返した。
「よし、細かい修正をしよう」
「すず、重いだろう、外して」
皆がわあわあと冠と肩当てを外してくれ、私はヴァレオさんに手を引かれて、
「本当に、ありがとう! 楽しみにしてるね」
と笑顔で仕事場を後にした。
「納得したか?」
庭をぶらぶらと歩きながら、ヴァレオさんが言った。
「うん。ごめんね疑って……。衣装のことがなかったとしても、皆は仕事を一生懸命やってただけなのに。勝手に変な妄想した私が悪いよね」
自分に呆れてため息をつく私の肩を、ヴァレオさんが軽く抱く。
「もう、気になることはないか? 後は、俺たちがこれからどうするか、だな」
「うん。それなんだけど……。私、このお城で暮らすのも、いいかも、って」
今さらこんなことを言い出して叱られないかと、私はヴァレオさんの顔色を伺いながら言った。ヴァレオさんはムッと顔をしかめる。
「お前、またルザミに口説かれたのか」
「違う違う! ルザミさんはただね、この間の泥棒の件で思いついたことを教えてくれたの」
私はあわてて説明した。
精霊の力が豊かなこのあたりの山からは、精霊石がたくさん採掘される。採掘の技術も、人間より力のある鎧獣人ならではのものらしい。その石を人間の商人と取引するんだけど、加工して使ってもいい石と、そのままこの世界の力として残す石、それにこれから力を増して行く石、といった見極めが難しいのだそうだ。
「私がそれを見極める仕事をしたら、人間との取引の助けにもなるし、精霊の世界を守ることにもなるって」
目を逸らさずに、ヴァレオさんに伝わるように、私は話す。
「私、そういうことのためなら、怖がらずにこの力を磨いてみようと思う。……でね、大事な石を扱うなら、お城の中でやった方がいいでしょ。それなら、ここで暮らすのが一番便利かなって。せっかく、置いてもらえるなら」
「そうか。精霊の番人になるんだな」
ヴァレオさんは真面目な表情でうなずいた。
「……ユグドマとツーリ、鎧獣人と人間、こっちの世界とあっちの世界。お前は色々なものの間に立つ巡り合わせなんだな」
「わ、私とヴァレオさんの間も、逃げずにちゃんとしたいと思います」
つい照れて目を逸らしてしまったけど、私はそう言った。ヴァレオさんの声に笑いが混じる。
「それが一番大事だな。……なあ、お前、俺がルザミと結婚すると思った時、ちゃんと嫉妬したか?」
「えっ……うん……その」
ますます顔を上げられなくなる私に、ヴァレオさんは言う。
「ミゾラムとお前を見ていた俺の気持ちが、少しはわかったか?」
あ。前に私が言った台詞をもじってる。
「わ、わかり……ました」
熱くなった頬を両手で抑え、私はうなずいた。
ヴァレオさんが私とミゾラムさんを見て嫉妬してることに気づかなかった、あの時の自分が恥ずかしい。私ってば、「ミゾラムさんとは普通にしゃべっただけ」「贔屓しなければいいんでしょ」みたいに言い張ったっけ。
ヴァレオさんは満足そうに歯を見せて笑い、そして。
私の両手を頬からひっぺがすと、私を庭の木に押しつけるようにして、熱烈なキスをした。
「……今度こそ、正式に、お前を妻にする。わかるよな? お前の全部、もらい受ける。もしお前が日本に逃げても、追っかけるからな」
頬をつかまえられたまま、宣言される。
「え、それじゃ、ヴァレオさん帰れなくなるよ」
「わかってるよ。それでもだ。違う世界の女を妻にするんだ、こっちも覚悟は決めるさ」
「あ……」
「でもお前は、婚姻を反故にする方法をもう知ってるんだよな」
ヴァレオさんがつぶやく。私は彼を見上げた。
「知らないよ」
「あ? 長に聞いたんだろ? すずが長に聞きにきたらしい、どういうことだって、グラーユが血相変えて……」
いぶかしげなヴァレオさんに、私は微笑んだ。
「聞いたけど、長は言わなかったの。『本当に、知りたいのかい?』って聞かれて……私も、それ以上は聞かなかった」
「そうか」
「うん」
私はうなずくと、軽く深呼吸した。そして、ヴァレオさんのぶっとい首に手を回して、自分から抱きついた。
「ヴァレオさん……ユグドマで私が巫女姫を頑張れたのは、側にヴァレオさんがいたからなの。精霊使いの力のことも、ヴァレオさんが側にいれば大丈夫かも、って思える。これからも、私と一緒にいて。私、すぐ落ち込んで悪いことしか考えなくなるから、思い出させて。一緒なら強くいられるって。……大好きです」
「すず」
ヴァレオさんが、ぎゅっと私を抱きしめ返した。頬ずりされる。痛い痛い、髭が痛い。でも私は我慢して、抱きついたままでいた。
「すず……ずっと一緒にいるが、あのな……あんまくっつかれるとな……いや、もうすぐ結婚式だしな。耐えろ、俺」
ヴァレオさんのぼやきを、耳元で聞きながら。
結婚式の前に一度、私は日本に帰った。家族に、報告するためだ。
あの冠を持って行き、好きになった人とその仲間たちが、結婚式のためにこれを作ってくれたと、家族に見せた。
鎧獣人たちの技術の結晶は、無言の説得力を持っていた。これだけのものを娘に作ってくれた人々について、両親は悪い感情を持ちようがなかったようだ。
先に、父がぼろぼろと泣いてしまった。そして、その肩をポンポンと叩きながら、母が言った。
「あなたが泣いてどうするの、寿々は泣いてないわよっ。……最近、この子なんだかしっかりしたと思わない? それも、これを作った人たちのお陰なら、文句のつけようがないわね」
それを聞いたら私も、我慢していた涙が止まらなくなってしまった。
そうして、ヴァレオさんの所に戻って来た私は――ヴァレオさんと、結婚式を挙げることになった。
お城の庭の、開放的な場所で、鎧獣人たちがぐるりと輪を作った。長もいる。すぐ外には、ソルティバターと塩豆の姿も見える。
輪の中で、私とヴァレオさんは向かい合う。ヴァレオさんは立派な甲冑を身に着け、私はドレスガウンを着ていた。ルザミさんが私のイメージで特注したらしいそれは、黒地に銀糸で模様が刺繍してある。そしてその上から、あの卵の殻のような形の肩当てとヴェールをつけていた。
グラーユさんがヴァレオさんに冠を渡し、ヴァレオさんが私の頭にかぶせた。中央には、私の赤い精霊石がはまっている。
次に、私たちはそれぞれ指先に小さく傷をつけ、用意された銀杯のお酒に血のひとしずくを垂らした。
「『精霊よ』」
ヴァレオさんと声を合わせ、唱える。
「『二人の守護精霊を結びつけよ。命ある限り、二人がともにあるように。命終わる時も、二人が同じ場所に帰るように』」
いつか、イズータさんとミリンダさんが教えてくれた言葉。
懐かしさに、視界が潤んで揺れた。あの時は、これを私が唱えることになるなんて思ってもみなかった。
ヴァレオさんが、私の震える手を支えてくれる。私は彼と視線を合わせながら、交換した杯をどうにか干した。
「これで、お前は『すず・レドヴァレオ』だ」
ヴァレオさんが私に告げる。「ヴァレオの妻・すず」という意味らしい。
「あなたは、『ヴァレオ・ディリスズ・アカイシ』です」
私も練習しておいた通り、名前を告げた。もちろん、「赤石寿々の夫・ヴァレオ」という意味の名前だ。ヴァレオさんには「長ぇな」と言われたけど。
皆の祝福の声が上がる。精霊たちがまるではしゃいでいるかのように、私たちの周りを飛び回った。視界がキラキラと光って、眩しい。
その時……
晴れ渡っていた空から、さあっ、と雨が降って来た。
「ん? 天気雨か」
ヴァレオさんと一緒に、私も空を見上げる。空の青と、天からの滴が、私に思い出させたのは――
「……女神ナジェリは、泣き虫の女神様だから」
「あ?」
「ううん。あ、結婚式に天気雨ってすっごく縁起がいいんだって。風水に凝ってるお姉ちゃんが言ってた」
私はただ笑い、両手を出して雨を受けた。
ライスシャワーでもない、フラワーシャワーでもない。きっとそれは、女神の嬉し涙。祝福の、雨のシャワー。
空に綺麗な虹がかかったその日、私たちは正式に、夫婦になった。
そうそう、結局、王様の件がどうなったかというと。
「俺はやっぱり、王になる気はねぇな。本格的に鍛冶仕事をやりたくてここまで来たんだからよ」
ヴァレオさんはこんな調子で、ルザミさんはしょんぼり。さすがにヴァレオさんはフォローを入れる。
「今のこの国を見ればわかる、ルザミには王としての力がある。すずもそう思うだろ」
「うん」
私は強くうなずいて、ルザミさんを見た。
ヴァレオさんが王に相応しくない、というのではなくて。今現在名君であるルザミさんが、その座を降りる理由がないと思う。
「でも、王家の記憶を持ってるのはヴァレオ、あなたです。精霊に認められている証拠なのだから、それを気にする人は気にするのよ。私だって、これでも気になるわ」
ルザミさんは言う。
「そりゃ、そうかもしれねぇが」
ヴァレオさんはわしわしと頭をかいて、ふと私を見た。
「こうしよう。すず、お前、精霊使いの力を磨いて、いつか選べ。俺を王にするか、ルザミを王にするか」
「え? 私が、選ぶ?」
ぽかーんとする私に、ヴァレオさんは自分のこめかみをつついた。
「ミゾラムがやってたじゃねぇか。記憶の一部を取り出して他の奴に見せる、あれだ。俺からルザミに王家の記憶を渡すことができれば、渡ったことに意味があるって言うこの国では、精霊がルザミを王と認めたことになる。あの力をすずが持った時、すずがルザミこそ王だと思えば、渡せばいい」
「それはいいわ!」
ルザミさんは両手を合わせて微笑んだ。
「精霊の番人が選ぶ王なら、誰も文句は言わないわ。もちろん私も、大好きなすずが私を王に、というならお受けしましょう。それまで、摂政としてこれまで通りやっていきます」
「俺もそれでいい。別に王にならなくても、この国の文化を守ってやるってくらいの気概はあるぜ」
ヴァレオさんもそう言い、ルザミさんとうなずき合った。私は口をぱくぱくさせる。
ちょっと! 私、やるなんて言ってないから!
王を選ぶのも精霊使いの仕事なの? 責任持てないよー!
【獣人王国の精霊使い 完】
寿々はどちらを王に選ぶのでしょう(笑)
精霊の番人となった寿々の物語も、書いてみたいな。
お読みいただき、ありがとうございました!